第12話 砂漠の民と竜の骨
3日目。
オレたちはついに竜の墓場に到達していた。
「それにしても、今回の旅はツいてましたな。領主様。水場は確保出来るし、砂嵐にも遭わずにすんだし。上手い具合に雲がでてくれた」
「ん」
リアムのツいていたなはもちろん、オレのナノマシンによる環境制御によるものだ。
道中、レベルアップしたおかげで格段に制御がやりやすくなったので、より快適な旅を提供することが出来た。
またのご利用をお待ちしています。
なんちゃって。
で、ついた先というのはまるでアリゾナの砂漠のように風化した奇岩が林立し、枯れ草の丸まったようなタンプルウィードがからからと乾いた大地を転がっていく、そんな乾ききった場所だった。
ところどころにサボテンらしい植物は見えるが、あとは本当に砂と岩。
そして、ごく稀に思い出したように大地から突き立つ尖った黒ずんだ何かの骨。あれが竜の骨ってやつだろう。
「領主様。毛長牛から降りないようにお願いしますぜ。この辺りは毒蛇が多いんで。噛まれたらコトだ」
む。オマケに定番の毒蛇までいるのか。
油断出来ないな。
「それで、これからどうするの? 骨を探して掘り出す?」
「そうですな……時に領主様。言葉が大丈夫ってのはどの程度まで?」
「日常会話は問題無い。細かい交渉事だと、独特の文化的な言葉や単位が怪しくなる」
「ってことは、言い値の買値ぐらいなら問題ないってことですな」
「ん」
値切る値切らないはちょっと難しい感じか。
「本当なら金が目当てなわけなんで、言語道断なんですが……今回は大金が転がり込んでくるアテのある……まあ、八百長みたいな依頼なんで。時間を短縮させるほうを優先するってのはどうですか?」
「というと?」
「砂漠の民から買い付けるんでさ。バザールを探し出して、そこで買うか人足をさがしやす」
「ん……」
フィオナが脳裏でいろいろな条件を組み合わせて考え出すのがわかった。
なんとなく最近、わかってきたのはフィオナの言葉が少ないのはいちいちいくつもの言葉を吟味してから話してるからだ。
そういう必要の無いときは結構、饒舌だ。
あのサソリ食いねえに言ったみたいにね。
頭の中で考えがまとまったのだろう。
フィオナはこくりとうなずいた。
「わかった。今回は時間を優先させる。けど、次からも同じように買い付ける……と思わせないように注意をして。味をしめられると他に迷惑がかかるし、そうなると街での肩身が狭くなってやりづらくなるから」
「承知しましたぜ。なら、さっそくバザールを探し出すとしますか」
◇ ◇ ◇
と決めてから砂漠を放浪すること半日。
「お、今回は近くでやってたな」
と蜃気楼の向こう側にカラフルな天幕を見つけたリアムが相好を崩した。
もちろん、オレがナノマシンで周囲を探ってフィオナを経由して誘導した。時間がモッタイナイからね。
砂漠を放浪ってのはちょっと憧れてたんだけど。
そこは我慢の子。
砂にまみれながらバザールに足を踏み入れると、そこは極彩色の渦巻くなかにいくつもの知らない言葉が飛び交う不思議な空間だった。
どこかでお香でも焚いているのか少し刺激臭を感じる。
成分を分析すると、虫とか小型の動物が忌避する成分が検出された。あれだ。
スーパー蚊取り線香。蛇にもサソリにも有効ってヤツ。
「ケリアント! ビタージェン!」
む。何を言ってるかわからん。
「ディザーク。ダレンスィ・チュート・リアルザネート?」
(……なんて言ってるの?)
(ようこそ、お客様って。だから、ありがとう。商談の出来る人は誰? って尋ねた)
さすがは魔法使い。というか賢者っぽいね。
頭にターバンを巻き付けて、目の覚めるような緑のマントを身体に巻き付けた男が、丁寧にフィオナ(とオレ)の乗った牛を引く。
リアムは従者か護衛と思われてしまったらしく、完全にスルーされている。
割り切りが凄いな。
普通なら、それでもリアムに愛想の1つぐらいは言いそうなもんだけど。
やがて、牛は大きめのテントの中へと導かれた。
「ケリアント! ビタージェン! ジャカリーク・アシュバーン・ズイタ? ナルサの皮、砂蛇の牙にタンザリアーの石。なにがご入り用ですかな?」
いきなり男の言葉が理解出来る言葉になった。
もしかして、ナノマシンの言語学習とかそういうのが完了したのか?
全自動とは恐れ入る。
とにかく、これでフィオナにいちいち通訳を頼まなくてすむぜ。
「ん。竜の肋骨。欲しいものはそれだけ」
「ほう。竜の肋骨でございますか。お客様……少し運が悪うございました。つい先日でございますな。都より見えられた隊商がごっそりと買っていってしまいました。今は小ぶりのものが数本だけ。竜の肋骨ではなく、竜の腿骨であれば、もう少し余裕がございます」
「そう。それで竜の肋骨はいくら? 欲しい数は12」
男の言葉をガン無視で言いたいことだけを言うフィオナ。おまけになんか本数が増えてるし。
「お嬢様。竜の肋骨はございませぬ。竜の腿骨がお気に召さないのであれば、竜の腕はいかがでしょうか? こちらも数は少のうございますが10本であれば」
「そう。竜の肋骨。欲しい数は16。お値段は?」
あ、要求が増えた。
「お客人。こちらのお嬢様にお言葉を。どうも、言葉が不自由なご様子で」
「竜の肋骨。20本だ」
リアムの言葉に男は大げさに肩をすくめた。
「やむを得ませんな。長老にお会いいただきましょう。ご足労ですが、こちらへ」
またもや移動。
それにしても、あの会話はなんだったんだろう。あれかな。値切ったもん勝ちみたいな交渉術?
(違う。あれが挨拶)
(あれが?)
(そう。あの男の服で商えるのは宝石や皮や薬草だけ。竜の骨は売る権限がない)
(なのに、あそこに案内されたのか?)
(そう。あの挨拶がわからなければ、要らないものを売りつけられる。そういうルール。あそこでわかったと言えば、なんだかんだで竜の腿も腕も売ってもらえずに砂トカゲなんかでごまかされる)
お、おっかねえ……
(でもない。何度かちゃんと繰り返せば、ちゃんとした商いをしてもらえる。相手のルールを尊重するのが砂漠での商売のコツ)
それにしても……普通に言葉ペラペラじゃん。
なにが細かい交渉事は無理だよ。
謙遜しちゃって。
そして通されたのはさらに大きな天幕。
待っていたのは長老の言葉に相応しく、身なりと顎髭の立派な3人の老人たち。
商人っていうより、老賢者という感じだった。
それを見たフィオナが慌てて、毛長牛から降りようとしてリアムに身体を支えられる。
「ど、どうしたんですか領主様」
「商人なんかじゃない。氏族長がいる。このままだと無礼になる。はやくおろして」
バタバタと慌てるフィオナ。
そういえば、こんなフィオナを見るのは初めてだな。
可愛らしい。可愛らしいね。グッドだね。
「ようこそ、砂漠へ。ようこそ、追われし姫」
…………ちょっとこれは面倒なことが待ってそうだぞ、おい。
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