第10話 街でイヤなヤツに出会った
竜の肋骨がある竜の墓場までは、徒歩で3日程度の距離にあるらしい。精霊の祠までのほとんど倍と考えれば、まあわかりやすいかな。
この街が管理している、ダンジョンというか遺跡というか、まあそういう探索する価値のある場所というのは全部で4つあるそうだ。
1つが、俺が目覚めた精霊の祠。
1つが、巨人のねぐら。
1つが、悪魔の洞窟。
最後の1つが、竜の墓場というわけだ。
竜の墓場は広大な岩石砂漠で、化石のごとく竜の骨が散らばっているのでそう呼ばれているらしい。
基本的にここを漁っているのは死体漁りと呼ばれる砂漠の民で、リアム達のような冒険者はほとんど近づかない。
冒険者のお気に入りは精霊の祠と巨人のねぐらがツートップで、祠はもちろんだが巨人のねぐらもどうも遺跡らしい。
いずれ機会があれば足を伸ばして、行ってみたいと思っている。
ちなみにフィオナの村はこの街から国境というか境を越えた向こう側。街からは馬車でも1週間という距離にあるらしい。
往復で2週間もかかるわけで、そりゃあ早く食料を買い込まないとなとな焦るのも理解出来る。
「とりあえず、だ。時間がない。リックスは食料を調達して、村に先に向かってくれ。カレンと俺は竜の骨を探してくる。領主様は……」
ここでリアムは少し考え込んだ。
村へ先行させるか、街で留守番か。
少し悩むところだろうな。
リックスについて行くのが普通なようにも思えるが、リックスは戦闘力はからっきしだ。途中で万が一、襲われたら危険なことになる。
では竜の墓場に同行するか? というと、これも微妙だ。
墓場にはモンスターの類いはいないらしいが、代わりに砂漠の民と揉める危険性がある。そうなると巻き込まれる可能性が高い。
では街で留守番はどうか? まあ、それが無難だろうな。
「リアムと一緒に行く。代わりにカレンがリックスについていって」
だが、フィオナはリアムの人選に異を唱えた。
「領主様。それは……」
案の定、苦るリアム。そらまあ、そうだろう。
だが、今回はフィオナも退かない。
「一番、大切なのは村に食料を届けること。だから、カレンとリックス。本当はリアムに行って欲しいけど、竜の骨を掘り出すのも運ぶのも力が必要。私は力はないけれど、魔法があるから手伝える」
「いや、それはそうなんですが……砂漠の民と万が一揉めたら領主様が危険な目に遭っちまう」
「リアム。揉めてる時間は無いよ。さっさと飯を買って村に届けないと。今でも余裕があるわけじゃないんだ」
カレンの言葉にリックスがうなずく。
この2人はフィオナの考えに賛成らしかった。
「心配しなくても、砂漠の民と揉めるようなことは滅多にないさ。連中の縄張りさえ守ってやれば大人しい連中だよ」
「それはそうなんだが…………」
「それに私なら砂漠の民の言葉もわかる。交渉ならリアムよりも私が適任」
結局、この言葉でリアムが折れることになった。
そんなことを言いながら、慌ただしく出立の準備に取りかかる。今からではどうやっても出発できるのは夕方になるため、明日の朝一番ということになった。
それまでにリアムとフィオナは往復分の食料を買い求め、骨を運ぶために必要な運搬用の動物。まあ、馬とか牛とか山羊みたいなヤツを借りて準備を整える必要がある。
そして、翌朝。
前もって手配だけはされていた荷馬車が、誰もいない荒野へと向かっていく。地平線の向こうは赤茶けた砂嵐。とてもではないが、人が住める場所に繫がっているようには見えなかった。
荷馬車には保存食に薬草、防寒具、大工道具などが満載されている。
荷馬車だけを見ると大荷物だが、裏を返せばこれだけの食料物資で一ヶ月以上も村を賄わなければならないのだ。
あとは道中の無事を祈るしかない。
「さ、俺たちも行くか。こっちは急がなくてもいいからな。のんびりってわけにはいかないが……ま、こっちのペースでいくさ」
「ん」「にゃあ」
と揃って、反対側の街道へ向かう。
こっちも行く先は砂漠だ。
この街が人の住む領地の限界点っていうのがよくわかるな。
この辺りでは精霊の祠の周辺だけが、森林と水場のあるオアシスのような場所になっているらしい。
そんな場所だけにモンスターが集まってくるため、魅力のある土地だが危険も多い。結果的にその外れにこの街が出来たと。そんな感じらしい。
ガランガランと毛の長い牛っぽい動物をリアムが牽きながら歩く。フィオナは牛の上にちょこんと腰をかけ、俺も同じ。
そろそろ街を出るぞというところで、俺たちは場違いに豪華な服を着込んだ一団にかち合った。
まだ若い。みるからに貴族然とした風情で風下にいるだけで似合わない香水のきっつい香りが漂ってきそうな、そんな感じの男だった。
「…………これこれはお嬢様。このようなところでお会いしようとは」
あ、こいつ嫌なヤツだ。オレはそう決めつけた。
「そこをどいて。邪魔」
フィオナの言葉もそっけない。リアムに至っては今にも斬りかからんばかりにおっかない表情で取り巻きの護衛たちを睨んでいる。
「ええもちろん。お嬢様のお仕事の邪魔など…………あのお嬢様がこのような地の果てでホコリにまみれての日銭仕事だなんて。臣は心より感動いたしました」
「……何が地の果てだ。お前らが追い出したんじゃねえか」
唸るようなリアムの声。
「追い出すとは人聞きの悪い。死を免ぜられたお嬢様と貴様のような下穢の輩が未だに生きていられるのも、我が主の寛大な嘆願あればこそではないか。口を開くな、悍ましいわ」
おお、よくもまあ、滑らかに舌がまわるやっちゃ。
なるほど、こいつの主がどうも諸悪の根源ってやつっぽいな。
「リアム。構うと喜ぶ。早く行こう」
フィオナも慣れたもので、軽く煽りをいれてスルー。
心なしか、顔を赤くしたお貴族様がフィオナに捨て台詞を吐こうと口を開けたタイミングで……オレはさくっとその辺を歩いていたサソリっぽい虫を放り込んでやった。
「お……ングッ! ぎゃぁぁあああああああ!!」
あ、刺されたかな? そのままくたばっちまえとおも思ったが、それでフィオナ達にとばっちりが来てもなんだしな。
死なない程度に毒ぐらいは消しておいてやるか。
ナノマシンを貴族の男の体内に侵入させて、神経系のメンテナンス。
「ケ、ケーヌマ様!? お、おい。そこのお前! すぐに医者を呼べ! 医者だ!」
「は、はあ? 医者? んなもん、いるわけねえだろうが。こんな辺鄙な場所によ」
いきなり命令された男が不快そうにぺっとツバを吐き捨てる。
さすがに冒険者の街の住人だけあって、いい性格してるわ。
「くっ。やむを得ん。宿だ。急いで宿に戻るぞ。それから、そこのお前! 以前はどうだか知らんがな……今のお前は罪人だということを忘れるな! 近いうちにケーヌマ様が助命金の徴集に行く。ちゃんと全員分、用意しておけよ。銅貨1枚でもかければ、1枚分の首が飛ぶと思え…………」
火の出るような瞳のフィオナに睨みつけられ、護衛の言葉が尻つぼみになる。
貫禄負けだ。
「言われなくてもわかっている。だから、消えて」
それだけを言い残し、リアムとフィオナは街を出た。一回も後ろを振り向くこと無く。ガランガランという牛の鈴だけが街道に響く。
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