第8話 大陸暦1211年5月
目が覚めると、ベッドの上で裸で寝かせられ、体中を革紐でベッドに括り付けられていた。
本部団長アーヴァイン、エルナンド王国支部のカルリトス団長、後見人エルナンド王国支部のアナスタシーヤさんの姿が視界に入った。
「私は…国境を超えた騎士団になれたのでしょうか?」
「いえ。まだまだよ。第一関門を突破したに過ぎないわ」とアナスタシーヤさんが教えてくれた。
「君がナターリエ…つまり人なのか、魔の物に支配された傀儡なのか、まずは調べさせてもらう」
魔の物が苦手とする素材を食べさせ、魔の物が導き出せない答えを問い、魔の物が絶えられない痛み与える等、国境を超えた騎士団が蓄積してきた判別方法を一週間かけて試す。生理現象さえも確認のために数人に見られる始末だ。
「おめでとう。ナターリエ。あなたが人であることが証明されたわ」と、言いながらアナスタシーヤは、人差し指でナターリエの胸に手を置き心臓の鼓動を確かめていた。
「第二関門なんだけれど…。国境を超えた騎士団はね。魔の物を意志で支配し、死という断りすら免除された…人なのよ。つまり…ナターリエの心臓を抜き取って、無事に生き残れたなら、第二関門クリアよ」
ナターリエは、ゆっくりと目を閉じた。
「怖くないの?」
「怖いですよ…。でも、それ以上に…早く国境を超えた騎士団になりたいのです。私は絶対に死にません…」
「良い心がけね。それでは遠慮なく心臓と抜き取らしてもらうわよ」
刃物を使わず、アナスタシーヤさんの指が胸の皮膚を肉を突き破る。心臓を鷲掴みにされたナターリエは苦しそうに目を少しだけ開く。そこには微笑むアナスタシーヤさんがいた。
ブチッ、ブチッ、ブチッっと、血管が引き千切られ、まだ鼓動を打つ心臓をナターリエの頬に当てた。
「生きてるかしら?」
「あっ。はい…。でも、胸に大きな穴が空いちゃいましたね。あれ? 私の胸…大きくなってる?」
「あぁ。そうね。魔の物の力を取り込んでから、成長したんじゃないかしら? それより…女の子だもんね。体に穴が空いていたら恥ずかしいわよね。ダミーの心臓として…ナターリエの同期…アルナウトの心臓を入れておくわね」
「えっ…。アルナウトは…」
「馬鹿な子よ。儀式を受けずに逃げ出してしまったの」
「そんな…」
「儀式は力を取り込む意味もあるけど、覚悟を試す意味もあるの。例え魔の物を取り込めても、意思が弱ければ魔の物に乗っ取られてしまうのよ」
ハンプスの事を聞きたかったけど…出血多量のためか、また意識を失った。
◇
目が覚めると、今度はベッドにパジャマを着た状態で寝ていた。ハッとなり胸を触ると、トクン、トクンと規則正しく心臓が動いていた。これが…アルナウトの心臓なのだろうか? 初恋の人の心臓が埋め込まれている? 何とも言えない気分であった。
「気分はどうかしら?」
気付かなかった。アナスタシーヤさんがベッドサイドの椅子に座っていた。
「はい…。特に悪くも…良くもないです。あの…まだ関門はあるのでしょうか?」
「ふふっ。第三関門に挑戦してみる?」
「は、はいっ!!」