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第4話 大陸暦1209年11月

「テオフィリュスさん…あの二人を…もう止めてくれ」


 アルナウトはテオフィリュスに、ハンプスはシーグヴァルドに、それぞれ羽交い締めされ、一方的にヴラジーミロヴィチにやられているナターリエを見守っていた。


「いつか、こうなることは理解っていたんだ。だったら少しでも早く、二人の蟠りを取っ払ったほうが良いはずだ」とテオフィリュスが言った。


 大部屋の中央でナターリエは、圧倒的に体躯で勝るヴラジーミロヴィチに馬乗りにされ、身動きを完全に封じられていた。


「どうだ!? いい加減…女が男に勝てないって…負けましたって言え!! 俺に勝てないのに魔の物に勝てるはずがないだろ!?」


 唯一の抵抗は、涙目でヴラジーミロヴィチを睨みつけることだけだった。


「い、言わないのなら…。お前が女であることを思い出させてやるっ!」


 少し膨らみかけた胸にヴラジーミロヴィチの手が伸びる。胸の部分の紐を解き、麻の訓練服をゆっくりと広げる。ヴラジーミロヴィチもナターリエの胸を晒したくはなかった。ただ…諦めてくれれば、それでよかった。


「言わない…言えない!! 私は…妹の仇を取るために、国境を超えた騎士団(パラディン)になるのよ!! 絶対に、絶対に諦めないっ!! あんな可愛い妹を殺した魔の物を許さないっ!!」


 カッとヴラジーミロヴィチの目が開く。


「お、お前…妹を…奴らに殺されたのか…」

「そうよ…」と言ったナターリエの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。


 ヴラジーミロヴィチは馬乗りになったナターリエから離れると、一人フラフラと大部屋を去っていった。


 ハンプスはシーグヴァルドの羽交い締めが緩んだ隙に逃げ出し、ナターリエに駆け上半身を寄り抱き上げる。


「ハンプス…。悔しいよ…」とハンプスの胸に顔を埋め声を殺してナターリエは泣いた。


 アルナウトもテオフィリュスに「これで良いのか?」と聞かずにはいられなかった。


 ◇


 それからずっと落ち込み続けたナターリエが、昼食の後片付けで一人になったとき、ヴラジーミロヴィチが現れた。


「ひっ!」と思わず恐怖で声を出してしまったナターリエ。


「魔の物を殺すんだろ? 俺如きを怖がってどうする? あっ、いや、そういう嫌味を言いに来たんじゃない。あの…だな、す、すまん…」


 二人は厨房に座り込むと、ヴラジーミロヴィチが語りだした。

「俺が…国境を超えた騎士団(パラディン)になる理由も、お前と全く同じだ。だからこそ…妹と同い年のお前に戦って欲しくなかったんだ。俺の勝手な我儘で迷惑かけちまって、すまなかったな」


 魔の物は、突如出現する『魔の巣』(スポーンスポット)と呼ばれるゲートから出現するのだ。その出現場所には、何の規則性も関連性もなく、人々は只、己の近くに『魔の巣』(スポーンスポット)が出現しないことを祈るしか無いのだ。

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