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婚約破棄をしようとする前に2  作者: はるあき/東西
1/3

真似させないようにしましょう(モラルは大切)

「不倫、不義、不義理、不貞と」

「名前ですか?」

「ああ、女はフリンでいいだろ。プリンみたいな甘々な頭ってことで」

「ギフーとリギフとイテフ、あー、二人たんない」

「二人? 三人ですよー」

「まともな人は、まともな名にしてみたら?」

「そうだな、うん、そうしよう。頭痛くなってきてるからな」

(髪薄くなってきてるし、労わんないとちょっとヤバいんじゃない?)

「で、顔がある程度整った、オンチ揃えておけよ」

(?????なんで音痴?)

 第二王子のマトモンは、扉の前で深呼吸をした。

 後ろにいる側近たちは神妙な顔をして、()()調()()()()()している。


「兄上、失礼します」


 案の定、執務室のソファーには一組の男女が座り、その周りに三人の男が立っている。

 座っているのは、マトモンの兄、第一王子のクアイサと男爵令嬢のフリン。その周りを公爵令息ギフー、伯爵令息で騎士でもあるリギフ、侯爵令息で魔法使いであるイテフだ。五人とも誰もが見蕩れるくらいに容姿が整っている。


「なんだ、マトモン」


 楽しい談話を邪魔にされて、クアイサは不機嫌な声を出した。


「兄上、仕事の話です」


 仕事と聞いて、クアイサは眦を下げ小さく息を吐いた。


「兄上に嘆願書です」


 バサッとソファーの前の机にマトモンの側近が紙束を置く。


「嘆願書? 何が書いてある?」


 クアイサが一番上の紙に手を伸ばす。


「不義、不貞、不倫に対してです」


 ピタリとクアイサの手が止まる。


「どういうことだ?」


 その声は険を含んで冷たい。


「近頃、不貞や不倫を隠さない者たちが増えまして」


 貴族のほとんどが政略による婚姻だ。跡継ぎだけ設ければ、愛人を持つ者は多い。だが、不貞・不倫は悪しきこととされているため、公にするものはほとんどおらず隠して行っている。


「ドーバット夫人が原因か?」


 クアイサが上げた女性は夫のいる身でありながら、堂々と既婚者や婚約者のいる男性を誘惑し関係を持っている悪女だ。


「そうですね。彼女もそのお相手も全く隠さなくなりましたね」


 はぁーとマトモンは大きく息を吐いた。


「許されることではないだろう」


 声を荒立ててクアイサが至急対処するように言うが、マトモンは呆れたように言葉を紡ぐ。


「彼らに注意をしましたが、王族の者が堂々としているのに言われたくないと」

「はぁ? 誰がそんな不届き者は!」


 マトモンたちの冷たい視線がクアイサたちに突き刺さる。


「婚約者がいるのに常に違う女性を側に侍らし」


 クアイサの眉間に皺が寄る。


「贈り物も婚約者にせず、その女性に」


 クアイサの眉間の皺の数が増える。


「社交場では婚約者を無視して、当然のようにその女性をエスコートし」


 クアイサの眉間の皺が深くなる。


「婚約をしている者として当然の苦言を言う婚約者を嫉妬に狂った醜い女と貶めている」

「婚約者をそこまで蔑ろにするとは!」


 怒気の含んだクアイサの声にマトモンたちの温度がさらに冷たく冷えていく。その態度にクアイサは戸惑いをかくせない。


「そ、そうか。そんな酷いことをする者が王族に」

「ええ。ところで先の園遊会、兄上はどなたと?」


 つい最近、城の庭でクアイサ主催の園遊会が行われた。


「私はこのフリンをちゃんとエスコートして」


『婚約者がいても違う女性をちゃっかりエスコート~♪』


 マトモンの側近たちが唄う。


「では、その時のフリン嬢の装いは?」

「も、もちろん私が準備して」


『贈り物も婚約者にはもちろんしていない~♪』


「兄上の婚約者のキイセ嬢は?」

「も、も、もちろん、招待はしたさ。私に無視され壁の花と…」


『社交場で婚約者はいつも無視され壁の綺麗な花となる~♪』


「キイセ嬢から苦言を言われたそうですね」

「フリンの作法がなっていないと言ったのだ」


『当たり前の苦言を言う婚約者を悪者にして自分は正義の味方気取り~♪』


「な、な、な、なんだ、その歌は! 私が不貞をしているようではないか!」

「しているではないですか。で、皆が真似をするから困っているのです」


 はあぁ~と盛大なため息をマトモンは落とした。


「わ、わたし? 私の真似?」

「そうです。婚約者や配偶者を蔑ろにして良いと、兄上がお手本を皆に見せているから」


 鼻息荒く断言するマトモンにクアイサはどう切り返そうか必死に考えた。確かに婚約者がいるのに婚約者じゃないフリンを婚約者のように扱っていた。それは事実だ。


「だが、私は遊びでフリンと…」


 決して言ったクアイサの言葉は最後まで続かない。ぐぐっと冷たい何かがマトモンの方からくる。


「じゃあ、何故、早々とキイセ様と婚約を白紙撤回するようにならさないのですか?」

「白紙撤回だと! キイセが悪いのに何故穏便なやり方をしなければならぬ」

「兄上の不貞が原因でしょう! 何キイセ様が悪いように言っているのですか!」


 それに意義を唱える者たちがいた。


「不貞じゃないのー。キイセ様は私を虐めていたのー。」


 涙を浮かべて訴えてくるのはフリンだ。

 じろりとマトモンが睨みつけてもさっきの涙は何処にいったで、平然と茶菓子に手を伸ばしている。


「そ、そうだ! お茶会に誘わず」


 ギフーが口を出す


「あ、あ、あれこれするなと指図ばかりで」


 リギフも続けて


「す、す、す、すぐに礼儀がなってないと」


 イテフも便乗して


「い、いい嫌みを言ってフリンを貶めていた」


 クアイサが纏めた。


「その通りじゃないですか」


 マトモンは何言っているんだと呆れた目で五人を見た。


「今、ここにいること事態、礼儀知らずだ」


 言われた五人はポカーンとした顔をしている。


「兄上、何故彼女はここに居られる…」


 クアイサ以外にマトモンの言葉を遮る者がいる。


「それはクアイサ様が招待してくれたからなのー」

「そ、そそそ…そのとおり…」


 マトモンの額に皺がはっきりと刻まれたのを見て、クアイサはそれ以上言えなかった。


「誰が発言を許しているのです?」

「えー、聞かれたからなのにー」


 フリンは可愛く首を傾げているが、周りは青い顔をして震えている。


「フ、フ、フリンは、一年前に貴族になったばかりでな」


 クアイサが必死に弁明しようとするが、マトモンは一笑する。


「一年もあれば基本の礼儀作法くらい覚えられるでしょう。()()()()()()()()()


 フリン以外の四人が驚いた顔をして固まっている。そんなこと、考えもしなかったと。


「マ、ママトモン様、何故フリン嬢がここにいるのか可笑しいと?」


 だが、復活したギフーが問いかけを始め、


「そ、そうです。クアイサ様がお声をかけられたのですから」


 リギフがそれに便乗し


「すわ、座ってお茶を飲んでいるのは当たり前だと思います」


 イテフが締めくくった。

 言わなければ分からないのか? という視線に三人はビクリと肩を震わせる。


「まず、私が入ってきた時に当然のように座っていた」


 身分の高い者が側に来たら、立って頭を下げるのが礼儀だ。ギフーたち三人は貴族としての礼節は忘れていなかったようでそれは出来ていた。


「兄上に仕事の話と言っても出て行こうとしなかった」


 内容によっては機密になるモノもある。関係のない者はすぐに立ち去るのが当たり前だ。


「発言を許していないのに発言した」


 先ほどのギフーのように呼び掛けて発言することを意思表示してからなら兎も角、身分の高い者に対して割り込むような発言は許されることではない。


「全て、礼儀作法の基礎ちゅ…」

「えー、クアイサ様は何も言わないのにー」


 クアイサたちは慌てた。注意されたばかりなのに発言したフリンに。


「庶民でも人が話している途中で言葉を挟むのは失礼になると聞いていますが?」


 クアイサたちは再び固まった。平民の礼儀作法まで出来ていないのかと。


「それから、女性がいるのに何故侍女が一人もいないのですか?」

「そ、そ、それは、侍女の視線が怖い、と」

「に、に、睨まれているようで」

「ゆ、ゆ、ゆっくりお茶が飲めないと」


 ギフー、リギフ、イテフが恐る恐る口にする。


「こ、こ、これも問題になっているのか?」


 クアイサは真っ青になっている。

 婚約者でも部屋に異性二人きりは、あまり誉められることではない。だから、扉を開けておくなどして密室になることを避けている。だが、クアイサたちはいつも扉を締め切っている。


「ええ、兄上。見目の良い女性を複数の男性が部屋に連れ込もうとしたという話が何件も」


 マトモンはニッコリと口角を上げるがその目は冷たく寒々としている。


「尋問しても何処かの王子とその側近がしているからと開き直って」


 ヒィーとギフーたちは身を寄せあった。


「だ、だか、侍女の目付きが悪いのが…」


 クアイサが冷気に立ち向かおうとするが、あっという間にカチコチに凍らされる。


「当たり前でしょう。他国の使者もくる王子の執務室で礼儀作法のなっていない者が我が物顔で居座っているのですから」

「だ、誰も教えてくれないのです」


 フリンが涙ぐんでマトモンを見上げた。


「誰も教えようとしなかったと?」


 フリンが分かってもらえたと嬉しそうに頷こうとした時…、マトモンの側近たちが美しいハーモニーを奏でる。


『誰かが礼儀作法を教えてようとしても~♪』

『分からないとすぐに言いだし~♪』

『出来てないから注意したら~♪』

『すぐにクアイサ様にすぐ告げ口~♪』

『男爵令嬢だからと見下された~♪』

『元庶民と馬鹿にされた~♪』

『教えようとしていただけなのに~♪』

『虐めていたと怒られる~♪』

『クアイサ様たちに睨まれて~♪』

『誰も常識()教えられない~♪』

『覚えようとしない人に~♪』

『誰も教えたくもない~♪』

『礼儀作法が出来ない人を~♪』

『誰も友達にしたくない~♪』

『自分の品位、品格~♪』

『誰も落とす真似したくない~♪』

『友達出来ないのではなく~♪』

『友達作ろうとしない~♪』

『睨みきかせて、友達作らせない~♪』


「えっ?」


 クアイサは呆然と声を上げた。


「もう一度、唄わせましょうか?」


 マトモンの言葉にクアイサたちはブンブンと首を横に振る。


「何かすると庶民の時はそうかも…といわれていたのよ!」


 フリンが叫ぶように言う。


『手の拭き方がおかしくて~♪』

『庶民の時はそれで良かったかもしれませんが~♪』

『そう言ったら泣き出して~♪』

『食事のマナーを教えていても~♪』

『ナイフを使わず食べるから~♪』

『食べるの止めさせ見本を見せたら~♪』

『元庶民は食べるなと言うことなの~♪』

『泣き出して走り去った~♪』

『発音が違ったので~♪』

『あの地方ではそう発音するのですね~♪』

『そう言っただけなのに~♪』

『田舎者と言ったと泣いてしまった~♪』

『会話しようとしても~♪』

『会話にさえならない~♪』

『何を言っても~♪』

『虐めたと泣き始める~♪』

『だから、どうしてものことだけ~♪』

『伝えるようにしていたが~♪』

『やっぱり言葉通りに伝わらない~♪』


 クアイサたちは、呆然とフリンを見ている。聞いていたことと全く違う。

 フリンだけはその通りなのー、馬鹿にされたのー、虐められたのーと一生懸命憤慨しているが。

 四人は遠い目をした。


「マ、マトモン。私たちがしたことは…」

「ええ、一人の女性の言葉だけを鵜呑みにし、何一つ確認をしなかった。それどころか守ると息巻いて、風紀を乱し世間に悪影響を与えた」


 クアイサたちは項垂れた。


「兄上、″陛下″からです」


 クアイサはマトモンが取り出した手紙を恐々と受け取った。


「ギフー殿、リギフ殿、イテフ殿もお父上から」


 三人もマトモンの側近からビクビクしながら手紙を受け取る。

 風紀紊乱をした者に甘い処罰はない。


「と、と、ところでマトモン。彼らは何故唄うのだ?」


『マトモン様が本気で怒ると~♪』

『とってもとっても恐ろしい~♪』

『我ら唄うと~♪』

『とってもバカらしくて~♪』

『マトモン様の力が抜ける~♪』

『我ら、笑われるほと音痴だから~♪』

『唄ってそれを避けている~♪』


「お前ら、いい加減煩いわ!」


 ピキーンとマトモンの側近たちが凍りついた。




「はい、終了でーす」

「終わったな、俺たち」

「ああ、音痴だと世界に公言してしまった」

「はあ~、フラレる」

「御愁傷様」


「責任、取ってください」

「彼女に『演技だと思っていたらほんとに音痴だったのね』とフラレたんです」


「おい、あれ、大丈夫か? 音響に文句言っても仕方ないだろ」

(ええ、文句は貴方に言うべきです)

「ああやって、口説いているっす」


「ミュージカルの話も来てるし、いっちょうやりますか!」

「えっ? ええー」


「あっ、失敗したっす」

「口説けなかったなー」


「「「「「「あー」」」」」」

「違う、誰? ″ソ″の音出してるの! これは″レ″よ。はい、居残り」

コソコソ

「頑張れよ」

「健闘を祈る」

「明日、聞かせろよ」


「あー」

「ちゃんと出せるようになってきたわね」

(朝まで練習してたのかー)

「なあ、あいつとアイツはどうなっているんだ?」

「はい、同棲してるっす」

「はあ? 男同士だろ」

「愛に性別は関係ないっす」

「そ、そうか? あいつはあの子を好きなように見えたんだけどな」

「あの子はあそこの、に片想い中っす。けど、フラレるっす」

「えっ? なんで?」

「あそこのは、あの子が好きなんでっす」

「あの子か~。ライバル多くないか?」

「激戦なんで、参戦してくるっす。で、フラレてくるっす」

「お、おい・・・。なんでフラレるの決定?」

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