第九話 白鈴
白狼の翼はどうなっているの?
第九話 白鈴
そうだ!と、翔鬼は申し訳なさそうに青龍に聞く。 さっきの事があるから強くは言えない。
「青龍さん···白狼は白翼狼だよね···白翼狼には翼があるはずなんだけど? 」
「よくご存じですね、しかし心配には及びません」
そう言って後ろで控えている癒医を呼び寄せた。
「癒医に【白癒羽】という名前を授けましょう。 これより白狼の翼としてお役に立つように」
何だろうと青龍の前まで来た癒医は、パッと顔をほころばせる。
「ありがたき幸せです!!」
癒医に【白癒羽】の文字が入っていくと、フワッと光った後一対の翼になり白狼の背中に飛んでいき、一体化した。
白狼は羽ばたいてみた。 少し体を浮かしてみてから軽く飛び上がった。 鎌鼬の個体が別に付いているとは思えないほど軽やかに、思い通りに飛ぶことができる。
「青龍殿。 これは素晴らしい。 感謝する。 白癒羽もこれからよろしく頼む」
白狼は嬉しそうだ。 しかし翔鬼はなぜか釈然としないようすだ。
「青龍さん。 癒医ちゃん···じゃなくて、白癒羽ちゃんが白狼の翼になちゃったら、ケガした時は治してもらえないんじゃない? それはちょっと···」
「翔鬼様、大丈夫ですわ!」
返事をしたのは白癒羽だ。
片方の翼を翔鬼の目の前まで伸ばす。 だから何?と、見ていると羽の先から治療薬がムニュと出てきた。
「わぁ! 白癒羽ちゃん! 凄い! そんな事まで出来るんだ! おしゃべりもできるし! よかった」
青龍は思った以上の出来に満足そうだ。
「言霊で白狼の姿になったのは良いのですが、言霊の妖力で翼までは少し厳しかったので、白癒羽に手伝ってもらいました。 しばらくは翼の姿のままなので不便だと思いますがしっかりと仕えなさい」
「もちろんです」
白癒羽の声は少し上ずっていた。
「では斬切。 貴方は翔鬼殿の刀として働いてもらいます」
「ありがたき幸せです!」
斬切は顔をほころばせる。
「貴方には【翔斬刀】という名を授けましょう」
斬切に【翔斬刀】の文字が吸いこまれた。
するとゆっくりと宙に浮き白い光に包まれると、一振りの刀になった。 同時に出てきた青色の鞘には黒い色の模様が描かれ腰帯も付いている。
翔斬刀は翔鬼の腰の所まで自ら近づくと、鞘についた腰帯が翔鬼の腰に自ら巻き付いた。
「翔鬼様、当分の間は俺が戦います。 意識を俺に向けていただければ翔鬼様の動きを俺が操ることが出来るのです。 もちろんご自分で戦う時にはそう意識を持っていただければ主導権をお渡しいたします」
「そんな事もできるんだ。 でも、僕も長い間剣道で鍛えているから、結構上手いと思うよ」
「そうですか。 それはいい事です。 今度腕前を拝見いたしましょう」
「うん!!」
「ねぇ青龍! 私も!! 私も!!」
今まで黙って見ていた白虎が手を挙げて叫ぶ。
「何を言い出すんだ? 白虎。 何が私も···なのだ?」
少し焦ってそう言う青龍は、なぜか少しサイズが縮んでいるような気がする。
「これから私がこの子達の面倒をみるに当たって、この大きさの差はしんどいと思うのよね。 武術指導もしないといけないのに、この大きさの差はちょっとね! そう思わない?
翔鬼に合った大きさがいいと思うのよね。 色々と」
「ねぇ···僕たちの面倒をみるってどういう事?」
「言葉のままよ。 貴方達、妖界について何も知らないでしょ? だから私が面倒を見てあげようって言ってるのよ」
「翔斬刀と白癒羽がいるから大丈夫だと思うけど」
「黙っていなさい!! 翼と刀に何ができるというのよ」
「······」
そう言われるとそうだなと、翔鬼は黙った。
しかし、青龍は困り顔だ。
「困ったなぁ。 白虎に名前を授けたら、私の気が尽きてしまう」
「あら! 貴方の仕事はこれで終わりでしょう? 後は大人しく水の中に隠れていればいいのだし。 その姿でいられるという事はまだ大丈夫なはずだわ。
お願い! 青龍様! 私のために最後の力を振り絞ってちょうだい!」
可愛い猫又の姿で両手を合わせてウルウルされて、青龍ははぁ~と、溜息をついた。
「仕方がない。 では白虎に······【白鈴】という名を授けましょう」
【白鈴】という言葉が白虎に吸いこまれると、白虎の姿がムクムクと大きくなり、人に近い姿になっていく。(以後、白虎を白鈴と記述)
《通常よりは少し大きめですが、今度の姿が猫娘。 白虎の能力も持ち合わせているため、敏捷で武術に優れた万能型》
「わぁ! 凄い!」
白鈴は翔鬼より少し小さいが、それでも180㎝ほどの長身で、オカッパ風の髪の中から可愛い白い耳が飛び出し、フサフサの尾が二本、優雅に振られている。 そして左耳にピアスのように付いている二つにの鈴からチリンという音が聞こえた。
そして······可愛い!!
「白鈴って、ムチャムチャ可愛いじゃん!! アイドル総選挙でぶっちぎりの優勝だね!!」
「よく分からないけど、褒めている事は分かるわ。 木霊が言っていたのと違って、なかなか可愛い所があるじゃない! この白鈴様がビシビシ鍛えてあげるからね」
「ハハハハハ···ビシビシは、いらないかな···」
青龍を見たが、今までいた場所にいない。
「あれ? 青龍さん?」
「私はここです」
そこには小さな水蛇が頭をもたげていた。 白鈴に気を使い果たして青龍の姿を保っていられなくなったのだ。
「わぁ! ちっちゃくなっちゃった! 大丈夫?」
「はい、心配には及びません。 それでは私はこれで失礼します」
青龍はスッと水の中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
次はどうすればいいのか、知識の本に聞いた。
《南の朱雀に会い、飛翔術を身に付けろ》
同時に朱雀の場所が頭に浮かんだ。
「ねぇ! 聞いた?! 聞いた?!」
翔鬼は一人大喜びしたが、知識の本の声は当然誰にも聞こえるわけがない。
「なにの事だ? 何か聞こえたのか?」
「なにも聞こえなかったわよ?」
白狼と白鈴が顔を見合わせる。
「そうか! ごめん!ごめん! 知識の本が教えてくれたんだけど、次に朱雀の所に行って飛翔術を習えって! 飛翔術って空を飛ぶ術だよね!! 僕!飛べるようになるんだ! 凄くない?!」
「そうね。 良かったわね」
白鈴は気のない返事を返す。
「そうか···白鈴は空が飛べないから悔しいんだろ?」
翔鬼は得意顔だ。 白狼は当然飛べるので、翔鬼も飛べるようになれば白鈴だけが飛べないのだ。 しかし驚くべき返事が返ってきた。
「あら、私は飛べるわよ」
「「えっ?!!」」
翔鬼と白狼は同時に驚く。
「飛べるの?!!」
「もちろんよ」
「ゲッ!」
「ゲッってなにヨ! それより翔鬼は言葉使いを直さないとね」
「なんで? 僕の言葉は普通でしょ?」
「鬼は、『でしょ』とか『僕』とか言わないのよ。 そんな言葉使いをしていたら笑われるか怪しまれるかどちらかよ」
「そう···じゃぁ『俺様』とか『吾輩』とか『拙者』とか言うの?」
「貴方バカ?! 普通に『俺』でいいわよ」
「そうか! 『俺』でいいんだね!」
「『いいんだね』じゃなくて『いいんだな』!」
「俺でいいんだな」
「その意気よ」
「へへへ、簡単だね」
「『簡単だね』じゃなくて『簡単だな』! でしょ!」
「そうか···やっぱり難しいや」
ゴン!
「いってぇ~~!」
白鈴が翔鬼の頭をいつの間にか手に持っていた棒切れで叩いた。
「なにするんだよ!!」
「これから間違えるたびに叩くわよ」
「ゲッ!」
今回の挿し絵は、二枚とも娘が描いてくれたものです(///ω///)♪