第八話 青龍
青龍の湖に着いたとたん、幽鬼が襲ってきた!
第八話 青龍
玄武の湖を出てから19分(6日と少し)が過ぎた頃、知識の本が示している青龍が棲むという大きな川に出た。
河川敷には膝くらいまでの丈の低い草が所々に生えていて、それ以外は荒い砂利だった。
しかし、知識の本で言っていた通り、本当に川には流れがない。 念のために草をちぎって水に浮かべてみたが、動かなかった。
大きな川は分かりにくいとしても、小川などはどうなっているのだろう? 滝は?
···そのうち見ることが出来るだろうから、まぁいいか···
という事で、青龍を呼ぶ。
「青龍さ~~ん!!」
翔太が大きな声で叫ぶと、川の中ほどからスッと何かが頭を出した。
遠いので分かりにくいが、大きい蛇のようでもあり、本とかで見る龍のようでもあった。
「あれが青龍さん?」
《蛟 水に棲み蛇に似ていて角と4本の足があり、龍種の幼生とも水の神ともいわれる》
「青龍さんじゃないんだ」
《神気を吸い取られた青龍の成れの果て》
「という事は、やっぱり青龍さんなんだ」
《······》
何かを言いたそうだ。 知識の本には意思があるのだろうか?
「玄武さんから青龍さんを訪ねるように言われて来たんだけど!」
青龍は水面から顔を出したまま、ゆっくり近づいて来たが、何かに気付いたように急に上を見上げると、スッと水の中に潜ってしまった。
みんなも釣られて上を見てみると、黒い雲が二つもこちらに向かってくるのが見えた。
「幽鬼だ!!」
斬切と癒医が逃げ出そうとする。
「待って!! 大丈夫だから、こっちに来て伏せて」
斬切達は逃げようとする動きを止めて躊躇いながら鎌鼬達が翔太を見る。 その間にも、どんどん寒くなってきた。
斬切と癒医は何かを言いたげに顔を見合わせていたが、翔太の近くに走ってきて地面に伏せると、翔太が二人の首を抱くように寝転がり、その上からシロが覆い被さった。
寒さが激しくなり、青々と茂っていた葉の色がピシパシと音を立てて変色してみるみる枯れていく
「翔太様···大丈夫なのですか?···」
癒医が不安そうに囁く。
「うん」翔太はその一言だけで、しっかりと目を閉じた。
どうやら二人の幽鬼が来ているようで寒さが激しく、二カ所から吸い上げられる感覚がある。 しかしあの髑髏のような鬼の顔は二度と見たくない。
ジッとしていればそのうちどこかに行ってくれるはずだ。
大丈夫だと思っていても、体が震えた。
そのうち寒さが和らぎ、幽鬼が去っていったようだ。
翔太はそっと顔を上げて見ると、2つの黒雲が別々の方向に去っていくのが見えた。
「わぁ、翔太様! 本当に大丈夫でしたね!」
斬切と癒医が自分の体を見回す。 もちろんこれっぽっちも石になっていない。
「石になった私たちを戻してくれたのだから当然なのかもしれませんが、やはり感動です!」
その時パチパチパチと拍手をしながら立っている者がいた。
どこから出てきたの?
その人は···いや、その猫は1mほどの身長があり、二本足で立っているうえに、お尻には長くてしなやかな尻尾が2本も生え、可愛い鈴のピアスを二個片耳に付けていた。。
「猫娘?」
《はずれ。 猫娘ではなく猫又。 長く生きた猫が変化した妖怪で、二股に分かれた尻尾が特徴》
「···ハズレって···」
《追記、しかし本当の猫又ではなく、神気を吸われた白虎の成れの果て》
「えっ?! 白虎?! 白い虎のはずだよね!」
「あら、よく分かったわね。 私は白虎よ。 人間が来たって木霊に聞いて親切にも私の方から会いに来てあげたわ。 貴方、幽鬼の攻撃を無効化できるのね。 さすがだわ」
「えっと···僕は青龍さんに会いに来たんだけど···」
川を見ると、青龍が顔を出して近づいてきていた。
「そうね。 あっちを先に済ましましょう」
白虎は青龍の方を指すと数歩下がり、翔太達の後ろで大人しく待った。
青龍は上半身を水から出してきた。 水から出ている部分だけで2mほどしかないので、全長はそれほど大きくはないだろう。
アニメや漫画に出てくる竜によく似ているが、手やヒレに水かきがあるので水龍っていうところか。
「先ほどは失礼しました。 翔太殿とシロ殿ですね」
「はい」
「鎌鼬も同行しているのですか。 これは丁度いい。 鎌鼬達よ。 翔太殿とシロ殿のために働く気はないか?」
「もちろん望むところです! 俺たちはこの方たちに命を救われました。 この命は御二人のものです」
斬切と癒医は膝を付いた。
青龍はそれを見て満足そうに頷き、翔太とシロをじっくりと眺めていた。
「翔太殿、言霊という言葉を聞いたことがありますか?」
青龍が突然聞いてきた。
《言霊。 言葉に宿る霊的な力。 言葉の魂とも言い、発した言葉通りの結果を現す力がある》
知識の本が教えてくれた。
「うん、多分分かるけど?」
知識の本が教えてくれたが、もう一つ意味が分からない。
「人間や犬は人ならぬ姿にならなければ、この妖界で過ごすのは難しいと思われます」
「うん。 それは聞いた」
「言霊の力を使い、新たな名前と姿を授けましょう。 ただし、本当の名前を呼ばれてそれに返答すると言霊の力が切れて元の姿に戻るので、お気を付けください」
「翔太って呼ばれても返事をしなければいいんだね」
「そうです。 ではいきます······翔太様は···【翔鬼】という名前を授けます」
すると【翔鬼】という文字が目の前に浮かび、翔太の体の中にスッと入っていった。
その途端、翔太の周りをフワッとした光が包んだかと思うと、体が大きくなり身長2mほどの引き締まった体で、今まで着ていたTシャツと半パンが着物風の服に変わっている。 そして口元から下向きに牙が生え、額に三本の角が生えている鬼になった。
「わぉ!···えっ?···わぉ!!」
自分の体の変化に驚き、自分の野太い声に驚いた。
「シロ見て! 凄い!! 角が三本もある! 牙もある! でっかくなった! 声変わりしもたぁ!」
「これは驚いたな。 不思議な世界だ。 こんな事まで出来るとは・・・匂いまで変わっている。 これが鬼の匂いか」
ホワイトシェパードのシロは翔太の匂いを嗅いでみた。 今までに嗅いだことのない不思議な匂いだ。
「翔鬼様! 素晴らしいです!!」
「本当に素敵です!」
斬切と癒医が褒めちぎるので、翔鬼(以後、翔太を翔鬼と記述)は顔を赤らめ照れ捲る。
「次はシロ殿です。 シロ殿には······【白狼】という名を授けましょう」
【白狼】という文字が目の前に浮かび、シロの体の中にスッと入っていった。
するとシロの体がフワッと光り、大型犬のホワイトシェパードのシロの体がムクムクと大きくなり、2周りほど大きい真っ白い狼の姿になった。
真っ白い大きな体に青い模様が美しい。 そしてなぜか額には青い勾玉が付いていた。
「狼?」
《白翼狼。 翼を持った純白の狼の姿をした幻獣》
「白翼狼? でも翼はないけど···」
《本来は翼があるはず···》
「なぁ、シロ!」
「なんだ?」
「本当なら翼が···あっ!!」
「あっ!!」
シロの体から【白狼】の文字が出てきてフワッと消えた。 その途端シロの姿が元の犬の姿に戻ってしまったのだ。
翔鬼とシロは顔を見合わせ、恐る恐る青龍の方を見る。
「キャハハハハハハ!!!」
猫又の姿の白虎が笑い転げ、鎌鼬達は唖然として見つめ、青龍は腕を組んで翔鬼達を睨みつけていた。
「「すみません···」」二人は小さくなっている。 穴があったら入りたいとはこういう事なのかと、翔鬼は勉強になったとこっそり思った。
こんなに早く制約を破った者は初めてです」
「「本当にすみません」」
「仕方がない。 二度はありませんから心してください···もう一度行きますよ」
再びシロに【白狼】という名をくれた。
「良かったね白狼」(以後、シロを白狼と記述)
「お···おう」
白狼も気まずそうに返事をした。
呼ばれると返事してしまうよね(;^_^A