第七話 野槌
妖怪のかまいたちと行動を共にする事になった翔太とシロ。
どうなっていくのでしょうか?
第七話 野槌
先ずは自己紹介からだ。
斬切と癒医の名前は話の中で聞いていた。 残る長男の名は倒蹴というらしい。
《鎌鼬は長男が人間を倒し、次男が刃物で傷つけ、妹が薬を塗る。 そのため一瞬の痛みはあるが、傷も何もないというちょっとした悪戯をする妖怪だが、次男が本気になるとかなり強力な攻撃力を持つ》と知識の本が教えてくれた。
しかし、妖怪って普通に明るい。 よく喋るしよく笑う。
鎌鼬は時折四つ足で飛び跳ねるように歩くが、基本は二本足で立って歩いている。 5年生にしては身長が高い方の翔太より、斬切の方が頭一つ分くらい高く、癒医で翔太とほぼ同じくらいの身長だ。
「斬切君とお兄さんの倒蹴君は、どっちの方が背が高いの?」
「俺です。 兄は癒医と同じくらいですね」
「へぇ~、癒医ちゃんと同じくらいなんだ。 でも、妖界というのに妖怪があまりいないよね。 怖いって聞いていたから少しは安心だけど」
そうなんですと、二本足で歩きながら癒医が話しだす。
「妖気が強い幽鬼が跋扈しているために、みんなが街に入ってしまって野にいる妖怪は少なくなってしまったようです。 私たちも諦めて街に入ろうと向かっていた所を幽鬼に見つかってしまったのです」
「街?! 妖怪の街があるの?」
癒医は当たり前ですという顔で答える。
「もちろんです。 この辺りだけでも数ヶ所はありますのよ」
「青龍さんに妖怪にしてもらったら、僕達も街に入れるのかな?」
「妖怪にしてもらうって?」
癒医は驚いた顔で翔太を見た。
「人ならぬ者だっけ? 青龍さんが僕とシロをそれにしてくれるって言ってたんだけど、それって妖怪にするって事だよね···大丈夫かなぁ?」
癒医は両手を胸の前で合わせた。
「まぁ! 妖怪に変化してもらうのですね、青龍様なら問題なく成し遂げて下さいますでしょう。 楽しみですわ」
癒医はシロを見てウットリしながら何やら想像しているみたいだ。
『もしかして癒医ちゃんはシロに気があるのかな?』
翔太はこっそりと思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
今、山を越えるために坂道を登っているのだが、結構な上り坂なので半分はシロにぶら下がるように掴まって登る。 たまに滑って下草や岩でケガをしてしまうことがあるが、癒医が治療してくっるから、心配はない。
しかし当然のことながら鎌鼬達もシロもこんな坂道など何でもなさそうに登っていくのに、翔太一人で苦労して登っているのが申し訳なくもあり、悔しくもある。
その時、坂の上から太さが1m、長さが10mほどのデッカイ丸太が転がってきた。 鎌鼬達はピョンと横に飛びのいたが、翔太はそう軽々と動けない。
ゴロンゴロンと勢いよく転がってくるので、翔太はシロと一緒に木の陰に隠れるしかなかった。
「わぁ! これは何なんだよ?! なぜ突然丸太が!!」
すると知識の本が開いた。
《丸太ではなく野槌。 口だけあって目も鼻もない蛇のような存在。 別名ツチノコともいわれる。 動きが鈍いので、丸太のように坂道を転がって襲い掛かる。 思考能力が極めて低く、動くものに本能的に襲い掛かる》
一瞬のうちに頭に入ってきた。
「野槌ってなんだよ! わぁ~~!!」
丸太のようなずんぐりした体に、急に細くなっている尾があり、反対側には直径1mほどの胴体と同じ大きさのデカい口だけがついている。
転がってきた野槌が翔太とシロが隠れている木にぶつかる寸前、動きが止まった。
「あれ?」
木にぶつからないのでどうなっているのかと覗き込むと、大きな口が翔太に襲い掛かってきた!
「わぁっ!!!」
「翔太ぁ!!」
シロが野槌の腹に咬みつく。
ギェ~~~ッ!!
腹に咬みつかれた野槌は、翔太に向けていた口を体を捻ってシロに向けて咬みついてきた。 シロの後ろ脚の付け根辺りに喰らい付いている。
「わぁ!! シロ~~~ッ!!」
翔太は何も出来ず、ただ泣き叫ぶ事しか出来ない
ガルルルル!! 野槌に咬みつかれているシロは後ろ足から血が噴き出すが、それでも口を離さずに野槌の胴体を食いちぎろうと体を振り回す。
その時、翔太の目の前を光る何かがキラリと横切った。
ギュィエ~~~ッ!!
叫んだのは野槌だった。
斬切が鎌を野槌の胴体に切りつけると、野槌はシロに咬みついている口を離し今度は斬切に襲い掛かる。 するともう一度斬切の鎌がキラリと光る。
ギュィエ~~~ェェェ···
野槌の胴体が真っ二つになり、口側と胴体側が別々にしばらくの間バタバタと悶えてていたが次第に動きが鈍くなり、動かなくなると同時に黒い霧となってブワッと消えていった。
「シロ様!!」
駆け寄ってきた癒医がどこから出してきたのか慌てて薬を塗る。
すると不思議な事に傷口はもちろん、噴き出す血で真っ赤に染まっていたはずのシロの毛に付いた血までなくなっていて、全て元通りになっているのだ。
「シロォ~~!!」
癒医の不思議な薬より、シロが死んでしまうのではないかとブルブル震えていた翔太は安心からボロボロ涙を流しながら綺麗に元通りになったシロの首に抱きついた。
「シロが死んじゃうと思った···よかった···よかった」
翔太は顔を上げ、今度は斬切と癒医の首に抱きついた。
「斬切君!! 癒医ちゃん!! 助けてくれてありがとう!!」
「私からも礼を言う。 本当にありがとう」
シロも二人に感謝の意を述べた。
「やめて下さい! 助けていただいたのは私たちの方。 少しでも恩返しができて嬉しいですわ」
「そうです。 俺達はあなた達のために生きると決めました。 お礼など結構です」
妖怪っていい奴なんだ。 翔太はこの世界が少し好きになった。
翔太は「行こうか」と、斬切と癒医の肩に腕をまわして歩き出した。
「いやぁ~~、でも本当に凄かった! 斬切君がスパン!スパン!と野槌を真っ二つにしたのも凄かったし、癒医ちゃんの治療も凄かったよね! あれだけ酷かったのに何にもなかったようにシロのキズ全部が元通りになるのだから!!」
斬切も癒医も翔太にベタ褒めにされて照れ捲っていた。
さすが!かまいたち!
強いですね!!
それと、血までなくなる薬って····( ゜ε゜;)