第六十五話 女郎蜘蛛
翔鬼と白狼が女郎蜘蛛に捕まってしまった!!
第六十五話 女郎蜘蛛
清宗坊と抗牟はチビ敬の解毒によって正気を取り戻した。
目の端で翔鬼と白狼が大蜘蛛に掴まったのが見えていた。
木の上には翔鬼と白狼の繭がぶら下がっているのだが、助けに行こうにも翔鬼の捕縛術が掛ったままなので身動き一つできなかった。
そこに上から巨大な蜘蛛が降りてきた。 土蜘蛛ほど大きくはないが、上半身は紫の髪に紫の唇をした美しい女性だ。
しかし、その美しい顔には八つの目が赤く光って不気味に見える。
「クッ!···女郎蜘蛛」
清宗坊が絞り出すように言う。 女郎蜘蛛は隠遁術に長けていて、自分の存在を完全に消す事が出来るので気付かなかったのだ。
「ホ~~ホッホッホッ!! こんなに簡単でいいのかしら? 五本角って聞いていたからちょっと緊張してバカみたいだわ。
こんなのを殺すのに苦労していたなんて、何て無能な奴等やつらばかりなのかしら。
使い蜘蛛のお陰でおまけもこんなに沢山苦労せずに捕れるなんて···フフフ···暫く餌には困らないわね」
ホ~~ホッホッホッと高笑いしながら清宗坊と抗牟をお尻から出す蜘蛛の糸でグルグル巻きにしていった。
「これで私が筆頭だわ。 御方様に可愛がられる事間違いないわね。
フフフ···どこかの国をくれると言われたらどうしましょう···東の国は御方様が統治されるでしょうから、西の国でいいわね。 フフフフフ···どうしましょう! こんなに嬉しい事が···えっ?···」
翔鬼が巻かれている蜘蛛の繭からピキッと音が聞こえた。
「何かしら?」
女郎蜘蛛が近付こうとした途端、翔鬼が入った蜘蛛の繭が結界と共にパン!!と弾け飛んだ。
「キャー! 何なの?!!」
「【縛】【縛】【縛】【縛】!!」
女郎蜘蛛が慌てて糸を出そうとお尻を向けようとするより早く、翔鬼が放った捕縛術でお尻も体も足も、見えない縄で縛り上げられたように動けなくなり、木の上からズドンと地面に転げ落ちた。
気づくと五本角の鬼神が凄味のある顔で目の前に立っている。
「ヒィッ!!」
翔鬼が【気】を放ちながら睨みつけると、女郎蜘蛛は恐怖のあまりガタガタと震えながら縮こまる。
翔鬼は女郎蜘蛛を睨みつけたままでギンを呼び出した。
翔鬼の体から出てきたギンはクルクルと風を起こしながら森の中を移動する。 森の中に張り巡らされている蜘蛛の糸と女郎蜘蛛が放った小さな毒蜘蛛達をかき集めているのだ。
翔鬼の横にギンが作った小さな蜘蛛達が入った竜巻が来て処分を待っている。
翔鬼は竜巻の方に片手を差し出す。 そして軽く力を入れると竜巻からボッ!と炎が上がり、中の蜘蛛諸とも全て灰になり、ギンは翔鬼の中に戻って行った。
次に「【結壊】!」と唱えるとパンパンパン!と白狼、清宗坊、抗牟の結界が破壊された。 もちろん捕縛術も解除してある。
「翔鬼!」「翔鬼殿!」「翔鬼様!」
三人は駆け寄り、捕縛されている女郎蜘蛛の前に立った。
「みんな大丈夫か」
「大丈夫です。 不覚でした。 ありがとうございました」
「油断していました。 かたじけなく存じまする」
「ところで美華は逃げていったのだが、こいつの仲間か?」
翔鬼はその問いには答えず、女郎蜘蛛に向かって心の中で【心開】と唱える。
「あの猫娘はお前の仲間か?」
「し···知らないわ」『せっかく捕まえたと思ったのに···首尾よく美華が連れてきてくれたのに···こいつ···お···恐ろしく強い妖気···』
「美華が言っていた狼男の話しは作り話なのか?」
「だ···だから美華って···誰の事よ」『あの子の得意な作り話しね。 前にも狼男を探してくれって旅の妖怪を連れてきたわ。 同じ手で簡単に罠にひっ掛かったマヌケだと思っていたのに···もうおしまいだわ···』
やはり仲間だった。 しかし狼男の話しが本当でなくて少しホッとした。
「お前も八岐大蛇に命令されて俺を狙ったのか?」
「な···何の事?」『こいつらを殺せば、筆頭になれたのに···御方様の代わりに私が国を治めるはずだったのに···な···何とかして逃げ出せないかしら···ヒッ!』
再び【気】を放ちながら睨むと、女郎蜘蛛の八つの目が震えで焦点が定まらなくなってきた。
「た···助けて···助けて下さい···そうよ! 八岐大蛇に命令されて襲ったのよ···あいつの命令は絶対だから、仕方がなかったのよ! 信じて···だから助けて···助けて下さい!!」
「いいだろう。 今回だけは助けてやる」
「ほ···本当ですか?! ありがとうございます!」
「ただし今後、俺や俺の仲間に危害を加えようとすれば、殺す。 どこに居ようと必ず探し出して殺す。 分かったな」
「もちろんです! 二度と貴方様の前に顔を出しません。 危害を加えるなんてそんな恐れ多い事など決して致しません」
涙で顔をグチャグチャにしながら訴えてきたので捕縛術を解いてやる。
「じゃあ行こうか」
『甘ちゃんね! 死ね!』
翔鬼達が背中を向けて飛び上がろうとした時、女郎蜘蛛がお尻を向けて毒針を数十本飛ばしてきた。 しかしその毒針は見えない壁に全て弾き飛ばされて、バラバラと地面に落ちていった。
もちろん心開術で心を視ているので不意打ちは効かない。 女郎蜘蛛と翔鬼達の間に防御結界を張っておいたのだ。
次の瞬間には翔斬刀を抜き放った翔鬼が目の前に立っていて、恐ろしいほどの【気】を放っている。
「ヒィ~~~ッ!! ごめんなゲッ······」
女郎蜘蛛は黒い霧になって消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
北に向かって飛んでいると、堂刹が思念通話で話しかけてきた。
『どうだ翔鬼、順調か?』
『とりあえず』
『···何かあったな? 何があった?』
『···女郎蜘蛛に襲われた』
『え?! あいつらは平気で嘘をつくし平気で卑怯な手を使ってくる。 本当に大丈夫だったのか?』
『もちろん大丈夫だ』
『そうか···良かったな···』
良かったなと言いながら何故か残念そうに聞こえた。
···堂刹のおっさんは呼んでほしくて仕方がないようだな···
『ところで、何か用か?』
『あ···いや···あっ、今、白鈴殿とぬらりひょん殿と一緒に飲んでいる···え?···今、翔鬼殿と思念通話をしているところだ』
どちらかが聞いてきたのだろう。
『翔鬼殿、ぬらりひょんでござりまする。 首尾はいかがですかな?』
『とりあえず順調···かな?···もう直ぐ北の国に着くらしい』
『さようですか。 素直に仲間になってくれるとよいのですが···健闘をお祈りいたしております』
『うん、ありがとう」
『翔鬼? 大丈夫?』
『おう、大丈夫だ』
『貴方、強くなったからって油断しないようにね』
『肝に銘じておくよ』
ぬらりひょんと白鈴も交互に聞いてくる。 心配してくれることが嬉しい。
···そうだ、敬之丞に報告しないと···
既に知っているだろうが、敬之丞に思念通話でチビ敬に助けられた事を話した。
『役に立っているようで嬉しいぞ!』
『うん。 凄く助かっている。 そこでお願いなんだが、敬之丞に負担がなければ勾玉仲間にチビ敬を付けてもらえると助かるのだが。 もちろんお前に負担が大きければ必要ないが』
『いや、問題ない。 初めに少し妖気を使うが、後はそれぞれでやっていけるので俺の妖気は必要ないからな』
『それは助かる。 俺が戻ったらみんなにチビ敬を頼む』
『おう! 任せろ!!』
敬之丞は張り切って答えた。
翔鬼が怒ると怖い((( ;゜Д゜)))




