第六十二話 進化で進化
江の坂町に戻ってきた。
始めに土蜘蛛の巣に寄ったのだが···!!
第六十二話 進化で進化
久しぶりに江の坂町に返ってきた。 先ずは入り口結界のすぐ近くにいる土蜘蛛の敬之丞に会いに行く。
チビ敬から聞いたのだろう。 既に大、中、小の三人の土蜘蛛が並んで待っていた。 中サイズの土蜘蛛が敬之丞だろう。
敬之丞もデカくなったものだと思っていたら、一番デカい土蜘蛛が飛びついて来た。
「翔鬼様ぁ~~!!」
「え?······お前が敬之丞なのか?!
翔鬼に飛びついて、押し倒して上から嬉しそうに顔を見つめる。
初めてその光景を見た抗牟が慌てて助けようと飛び出そうとするのを、白狼に止められた。
「儀式のような物だから気にしなくていい」
「あっ···えっ? そうなのですか?···はぁ···」
そう言えば翔鬼は嬉しそうに笑っているし、土蜘蛛も攻撃をする雰囲気ではなかった。
「俺、翔鬼様が進化したお陰で、デカくなったんだ!」
「そのようだな」
「こういう事もできるようになった」
厳之丞よりデカくなった敬之丞がみるみる小さくなって、初めて会ったときのような1mほどの小さな姿になった。
「ワオ! そんな事もできるようになったのか?! 凄いじゃないか!」
小さくなった敬之丞は翔鬼の胸の上で嬉しそうに笑う。
「ハハハ、まだまだ!」
今度はフワッと浮かび上がった。
「凄いだろう!」
「おぉ、凄いな」
飛べる事がそんなに凄い事なのかと、ちょっと思った。
「土蜘蛛が飛ぶという話は厳之丞も聞いた事がないらしい。 進化したら飛べるようになったなんて初めて聞いたと度肝を抜かしていたんだ。 妖界初の飛べる土蜘蛛だ!」
「そうか、それは凄い!!」
やっと凄さが分かった。
敬之丞が翔鬼の手を取って、飛びながら起こしてくれた。
立ち上がった途端、翔鬼の背中にしがみ付いて以前のようにデイバック状態になる。
···飛べるんだから俺にしがみ付かなくても···
そう思ったが、翔鬼の背中が落ち着くようで、翔鬼も別に嫌ではない。 そのまま厳之丞と影之丞に挨拶をして、ぬらりひょん邸に向かう。
「そうだ敬之丞、チビ敬のおかげで何度も命拾いした。 ありがとう」
敬之丞は、翔鬼の背中でクックックッと笑った。
「そうだろう、凄いだろう。 翔鬼様の命を救ったのだからな。 俺は命の恩人だよな」
「うん。 チビ敬だけどな」
「だ···だから! チビ敬は俺だと言っただろう!」
ちょっと背中で焦っているのがおかしい。
「そうだったな。 敬之丞は命の恩人だ。 ありがとうございました」
「おう!」
敬之丞は鼻息荒く、フフンと嬉しそうにしている。 背中にいて顔は見えていないが、得意顔が目に見えるようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
江の坂町は久しぶりだ。 いつの間にか見知った顔が増えていて、挨拶を交わすたびに翔鬼の五本角を見て驚く。
ぬらりひょん邸に着いても初めに交わした言葉も挨拶ではなく「翔鬼様! 角が!!」と、屋根の上から見越し入道が驚いていた。
ぬらりひょん邸の広い居間に通された。
幾つかの座布団と膳が丸く並べられている。 奥に三人が座っていた。
翔鬼達を見て清宗坊が立ち上がって頭を下げ、堂刹が手を挙げた。
「よお! 戻ってきたか!」
しかし、ぬらりひょんも居るはずなのに姿は無く、その代わりに精悍な男性が座っている。
···えっ?···誰?···あれ?頭が長い?···
···ぬらりひょんの親戚か?···
そう思っていたら「翔鬼殿、お久しゅうござりまする」と、声は低いが何気に聞き慣れた喋り方だった。
そう言えば、先ほど思念通話で聞こえてきた声の様な気がする。
白鈴が「なんてことなの?!」と、その男性に駆け寄った。
「ぬらちゃん!! 翔鬼が進化した事で若返ったの?! 嫌だわ! 頭をすりすりできないじゃない」
「ヒョッヒョッヒョッ、翔鬼様様ですじゃ」
白鈴とのやり取りを聞いて翔鬼はやっと確信を持てた。
「お前、本当にぬらりひょんなのかっ?!! 若返ったって言ってたけど、それはおかしすぎるだろう!! 別人じゃないか!」
「ヒョッヒョッヒョッ!」
ぬらりひょんは嬉しそうにいつもの声で笑った。
よく見ると着物は前と同じだが、身長は倍以上になっているし、禿げていた頭に髪が伸びているし···いい男になっている。
···やっぱり妖界の常識にはついていけない···
「白鈴殿と白狼殿も変わられましたのう。 立派になられた。 それで翔鬼殿、その背中にいるのが敬之丞殿で、横の狒々殿が勾玉の持ち主の御方ですかな?」
「敬之丞、降りろ」
敬之丞は、背中から離れて、翔鬼の顔の横に浮いていた。 それを見たぬらりひょんが驚き、堂刹は身を乗り出して土蜘蛛に見入る。
「おい! そいつは本物か?! 何かが化けているのじゃなくて?! 飛べるのか? 土蜘蛛が飛べるのか?」
堂刹の驚き具合がおかしい。 本当に珍しい事のようだ、
「俺の進化のせいで、飛べるようになったらしい」
「土蜘蛛が飛べるなんて初めて聞いたぞ」
「そうらしいな、ハハハハハ。 そしてこっちが鵺の抗牟」
抗牟はボンと鵺の姿になった。 広い部屋なのだが、天井に角が当たるので、伏せる。 尻尾の蛇がクネクネと動いて翔鬼の顔の横に来た。
「こ···これは······鵺王···」
そう言ったのはぬらりひょんだ。
「鵺王? 普通の鵺と違うのか?」
「さようですのじゃ。 二本の角があるのは鵺王。 鵺王は鵺の進化形なのじゃ。 長い妖怪生活で鵺王に会ったのは二人目ですじゃ。 御逢いできて光栄です」
「そうなのか?···凄い···」
抗牟は恐縮ですと狒々の姿に戻る。
その時、堂刹が翔鬼の腰に増えている二本目の刀に気が付いた。
「おい! それが石魂刀なのか?!」
「そうだ。 もう一人の鵺がこの刀に石にされていたんだ」
「「「ほう···」」」
変わった形の石魂刀を抜いて見せた。
「「「ほう!···」」」
「話せば長くなるが村人が石魂刀の鞘を保管していてくれたので、貰ってきた」
簡単に経緯を話した。
「「「ほう~~···」」」
三人は石魂刀を見つめて感心している。
いつまでも感心しているので途中になっていた紹介を続ける。
抗牟達にぬらりひょんと大天狗の清宗坊、そして酒呑童子の堂刹を紹介する。
流石に三人とも妖界の中では有名らしく、抗牟は「御逢いできて光栄です」と恐縮しまくっていた。
色々変わっていましたね( ´∀` )b




