第五十七話 黄鬼の正体
茨木童子に質問する
第五十七話 黄鬼の正体
「訊きたいことがある」
翔鬼が言うが、茨木童子は黙って見上げるだけだ。
そこで翔鬼は心の中で【心開】と唱える。
塞心術で心を閉じて視られないようにした心を無理やりこじ開けて視えるようにする術だ。
心開術はかけられた事が本人には分からないようだ。
心開術を掛けた途端、ついでに掛けた鬼神達の声が飛び込んできた。
『お頭を一突きで倒すとは···こいつ、どうなっているんだ···』
『お頭が殺されたらどうしよう···』
『前に殺されかけているからお頭を許しはしないだろう。 ダメもとで突っ込むか···』
『お頭! 反撃しろ! お頭が簡単に負ける訳がない!』
『お頭ぁ~~~こいつらまでとんでもない【気】になってやがるぅ~~お助けぇ~~』
案外慕われている事に驚いた。 邪悪な気は敵に対してだけなのだろうか?···
「もう一度言う。 訊きたいことがある」
『バカめ、答える訳がなかろう』
茨木童子の心は丸視えだ。
「慶臥を知っているな」
『あの黄鬼か。 御方様にいいように使われてこいつらを襲わせていたから恨んでいるんだろうよ』
···黄鬼?···
「奴はお前の仲間か?」
『仲間と言えば仲間だな。 腐滅病で死にかけていた奴を御方様の所に連れて行って、鬼神に進化させてもらったおかげで命拾いしたのだからな』
もちろん茨木童子は一言も口を開こうとはしないが、翔鬼にはしっかり視えている。
···腐滅病?! もしかして与作が探していた黄鬼の紫焔とは慶臥の事なのか?···
「では質問を変えよう。 酒呑童子もお前の仲間か?」
『あの裏切り者を仲間と思っていたのか。 御方様が自由になった途端殺されると忠告したのに。 あの化け物はだれにも止められない。 今のうちに仲間になっておく以外に生きる道はないと言っているのに、バカな奴だ···』
···そういう事か。 安心した。 しかし茨木童子も八岐大蛇を慕っているわけではなかったんだ···人間界とは常識が違う。 親子関係とかじゃないんだな···
『しかしこいつ、俺様は黙っているのに聞き返してこないな···もしかして心を視られている? いやいや、そんなはずはない···』
茨木童子はそんなことはあり得ないと戸惑っている。
翔鬼は『視えているんだよ』と心の中でほくそ笑みながら翔斬刀を鞘に納めた。
そして腕を組んで茨木童子を見下ろす。
「俺は仲間達と八岐大蛇を必ず倒す」
茨木童子は翔鬼の唐突な話しに驚いて顔を上げた。 翔鬼は話しを続ける。
「倒すのを手伝えとは言わないし、賛同してもらうつもりもない。 邪魔をせずに黙認してくれればいい。 しかしこれ以後、俺や俺の仲間に危害を加えれば、八岐大蛇より先に俺がお前を必ず殺しに来る。 覚えておけ」
翔鬼の覇気に気圧されるがそれを悟られないように睨みつけている。
『しかし···こいつならあの化け物を本当に倒してくれるかもしれん。
今のところあの化け物は岩に縫い付けられたまま回復に専念しているが、明日にも動けるようになるはずだ。 そうなれば勝つ見込みが格段に減る。
それをこいつに忠告してやるべきか···しかしあからさまに味方をすれば俺様の命が危うくなる···明日の昼の季節が終わるまでには倒さなければならないのに···どうするべきか···』
···しっかりと教えてもらったぞ。任せておけ···
「そうだ、あと二つ質問がある。 体に勾玉が付いている妖怪を知らないか? あの白翼狼の角に付いているような勾玉だ。 まさかお前には無いよな」
茨木童子は二本足で立ちあがり、両手に持った刀で鬼神達を牽制している白狼をチラリと見た。
「知らんな。 俺にも付いていない」
···おっと、素直に答えたよ···
「では石魂刀について何か知らないか?」
「あぁ、千の里町のやつか?」
「千の里町?」
「以前、幽鬼が入り込んで全員石にされ、今ではだれも住んでいないが、入り口を鵺が護っているという町だ」
「やはりそこにあるのか? 鵺が石魂刀を護っているのか?」
「いや、町を護っている理由は石魂刀の為ではないはずだ。
石魂刀は千の里町の奥にある千里祠の中に祀られている岩と一体化していると聞いた。 だから誰にも抜き取る事は出来ない。 いや、本当の事なのかどうかもわからない。
刀の形をしているだけで元々刀などないのではないかという噂も聞いたことがある」
「千の里町はどこにある?」
「ここの南南東に大きな岩山がある。 その西側に村への入り口の洞窟があるはずだ」
なんだか素直にペラペラ喋ってくれる。 しかし今までで一番有力な情報だ。
「ありがとう。 行ってみる···そうだ、もう一つだけ聞くが、腐滅病で死にかけていた黄鬼の名前はなんというんだ?」
茨木童子は驚いて翔鬼を見上げる。 そしてその話しを聞いた与作が横に来て、翔鬼と茨木童子の顔を交互に見た。
「名前か?···元の名前は何と言ったかな···し···紫焔だったか。 今の名前は慶臥だが、それがどうした? 奴を探し出して殺すのか?」
「け···慶臥殿が紫焔様だって?!!」
驚く与作を見て茨木童子も驚いている。
「何か因縁がありそうだな···俺様には関係ない事だが」
茨木童子はフンと鼻で笑う。
「やっぱりそうか···そうだ···ついでに慶臥は俺の仲間ではないが、奴に危害を加えても同じく俺が殺しに来ると思え」
「なぜ慶臥を? 奴はお前を何度も殺そうとしたのだぞ?」
「···とにかくそういうことだ。 お前達も忘れるな」
翔鬼がそう言って鬼神達を睨みつけると、5人は震えあがっていた。
···ちょっと脅しに【気】を入れて睨んでみたんだけど、やっぱり怖いんだ···
とりあえず訊く事は訊けたし、言う事は言った。
という事で、翔鬼達がその場を離れようとすると「いいのか?」と逆に訊かれた。
「何が?」
「俺様をこのままでいいのか?」
翔鬼はフッと笑う。 なかなか男気のある奴だったんだと思った。
「殴られた一発のお返しはしたし、斬られた分は本当に死ぬほど痛かったが、進化をして強くしてくれたのだからチャラという事でいいだろう。
お前もあながち悪い奴でもなさそうだしな。
手下達を大切にしてやれよ」
そう言うと翔鬼達は唖然としている茨木童子と5人の鬼神を残して、町の出口に向かって飛んでいった。
「翔鬼様先ほどの事ですが······」
与作は結界を出るなり訊いてきた。 そこまでよく我慢したものだ。
「うん、与作が探していた黄鬼の紫焔とは慶臥の事だった。 腐滅病で死にかけていた奴を茨木童子が八岐大蛇の所に連れて行ったらしい。
そして八岐大蛇が慶臥に配気をする事で鬼神に進化し、それのおかげで腐滅病が治ったという事だ。
ただそのせいで慶臥は言いなりになっているみたいだがな」
「慶臥殿だったのですか···いくら探しても見つからなかったわけですね」
「そうだな」
「今、慶臥殿はついてきてはいないのですか」
「奴の隠遁術は秀でていて、残念ながら俺には察知する事ができない」
そこに白鈴が話しに加わってきた。
「でも慶臥を助けてくれるなんて、実は優しかったりして」
「八岐大蛇が? そんな訳ないだろう?」
「違うわよ、茨木童子の事よ。 なんだかんだ言っても死にかけている鬼をわざわざ大蛇の所まで連れて行くなんてできないわよ」
「そうだな···そうだといいな」
慶臥が黄鬼の紫焔だったのですね!
何だか可哀想···( ;´・ω・`)




