第四十六話 八岐大蛇
やはり八岐大蛇だった!
第四十六話 八岐大蛇
ぬらりひょんはお茶をすすってから話しを続けた。
「しかし、ある時期を過ぎた頃から、あの特殊な幽鬼が現れ始めたのじゃ。 おかしいと思ったわしらは再びあの強大な妖気を探ってみた。 すると強力な結界に隠れている奴を見つけたのじゃ。 随分回復してはいたがかなりの深手じゃったのじゃろう。 未だにキズは完治してはおらんかった」
「じゃあ、キズが深いうちに息の根を止めれば···」
「わしらもそう思ったのじゃが、完治はしていないとはいえ、長い間気付かずに放っていてしまったのでそれなりにキズは癒え、妖力も増してしまっておって、わしらでは結界を破る事さえできんかった。
そのうえに、奴は富士の山の火口の奥深くに巣くっておる。 下手に手を出してしまうと富士の山の噴火を促してしまうので手が出せなくなったのじゃ」
「それって、人間界の富士山も爆発するって事か?!」
ぬらりひょんは残念そうに頷く。
「違う世界じゃが同じ世界でもあるのじゃ。 そのような自然現象は、割とこちらには大きな影響はござらんが、あちらでの影響は大きいかと思いまする」
「そんな!!」
富士山が爆発するなんてとんでもない事だ。 しかし、そんな事になれば想像もできないほどの被害がでるだろう。
「そんな事が起こらないようにと、私達四神が今のうちにどうにかしようと戦いを挑んだの」
白鈴が話しを受け継いで話し始めた。
「私達ならなんとかできると思っていたわ。 でも奴の結界が想像以上に強力で破ることが出来ず、そのうえ幽鬼の力も思った以上に強くて、分かっていたかのように妖気ではなく私達の【神気】を狙ってきたの。
そして奴は私達の【神気】を吸った幽鬼を吸収して、大きくキズが回復していったのよ。
恐らく今は幽鬼を使って草木から吸収した生気と妖怪から吸収した妖気で回復し続けているのだと思うわ。 そして生気を吸われた草木は枯れ、妖怪は石になってしまうの」
「···そうか···」
以前に神気を吸われて妖気だけになったという事を聞いた事があった。
残っている妖気と生気も吸われてしまうと四神も石になってしまうのだろう。
捕捉として、妖怪は妖気、草木や人間や動物は生気を持っているが、四神は神気はもちろん、妖気と生気も持っている。
青龍が妖気で保っていた蛟の姿だったが、白鈴を猫娘にした時に妖気が尽きて残る生気で水蛇の姿になってしまったのは、そういう仕組みだったのだ。
「でも···そいつを倒すとして、俺や慶臥は何の関係があるんだ?」
ぬらりひょんは「ふむ」と頷く。
「おそらく慶臥殿はそいつの手下として動いていると思われるのじゃ」
「どうしてそいつの言いなりになっているんだ?!」
「残念ながら理由は分からりかねまする」
「じゃぁ、慶臥がそいつの手下だとして、どうして俺を狙う?」
「それは私から話しましょう」
その時声がする方をみると、壁から何かが出てきた。
「カッパ? あっ! 玄武!」
いつも知識の本で世話になっているカッパの姿の玄武だった。
「お久しぶりです、翔鬼殿、白狼殿。 白鈴も変わりなく?」
「ごらんの通りよ」
「ぬらりひょんと酒呑童子も久しぶりだな」
「御久しゅうございます」
堂刹も頭を下げる。
ずっと部屋の隅で控えていた与作と阮奏は、とんでもない話の展開に只々固まるばかりだ。
しかし、とりあえず彼らの事は置いておこう。
玄武が空いている場所に座る。
「翔鬼殿に知識の本を与えましたが、私も【理の本】というのを持っております」
玄武の後ろに、玄武と同じくらいの大きさの分厚い本が現われて、直ぐに消えた。
「理の本にはこう書いてあります《類い稀な【気】を持つ人間と白い同行者が現われる。 その者達に妖怪の姿を与えるべし。 勾玉で繋がりし八人衆と共に石魂刀を以って稀代の最悪に立ち向かえ》」
「それが俺と白狼の事なのか?」
「まさか子供が来るとは思わなかったけど、結果は問題なかったわね」
「白鈴も知っていたのか?」
「当然よ」
「なんだか騙された気分だな···それはいいとして《最悪》って何だ? それは妖怪か?」
「八つの頭に八つの尾を持つ巨大妖怪[八岐大蛇]という妖怪です」
···聞いた事がある。 色んな物語に出てきた気がする···昔、本当に日本に現れたんだ···
「そいつを俺に倒せって事か?」
「八人衆と力を合わせれば、貴方様なら必ず成し遂げて下さいましょう」
翔鬼は腰を浮かせて、玄武に向かって声を荒げる。
「俺より堂刹の方が強いだろう?! もう幽鬼に石にされないんだから、俺じゃなくてもいいんじゃないか?!」
「類い稀な【気】を持つ翔鬼様にしか成し遂げる事が出来ません。 そしてそのような者が現われた事を、八岐大蛇が知ったのでしょう。 それで鬼神を使って···」
「その何とかの【気】って何だよ!! 何が違うんだよ?!」
「翔鬼、落ち着け」
白狼がなだめるが、翔鬼はプレッシャーからか恐怖からか、興奮が収まらない。
「俺はまだ11歳だぞ! 小学生の俺が四神でも敵わなかった奴にどうやって勝てるんだよ! それも妖界に来てまだ一日も経っていない俺に、なに責任を押し付けているんだよ! 大人たちで何とかしろよ!」
ゴン!! いってぇ~~~っ!!
円卓の向う側から長い木刀で白鈴が翔鬼の頭を殴った。
「何をするんだよ!」
「いい加減にしなさい!! 貴方は子供じゃないわ、 鬼神よ、それも四本角の鬼神なのよ。
今まで何人の妖怪を助けてきたと思っているの!! 少しは自覚を持ちなさい! それに貴方一人で戦えなんて言っていないでしょ!! 一緒に戦うために妖界でも一二を競う強者ばかりが集まっているのよ。
今までも貴方には驚かされる事ばかりだったわ。 貴方は強い。 貴方は優しい。 そして貴方は強運を持っているわ。 きっと大丈夫よ。 だからとりあえず今は先の事より、これからしないといけない事を考えましょう」
黙って俯いたまま聞いていた翔鬼が半笑いの顔を上げる。
「白鈴···俺を褒めてる?」
真っ赤になった白鈴の手に長い木刀が現われた。
「また殴られたい!!」
「言いたい事は分かった。 目が覚めたよ。 ウジウジ考えるのは止めた。 まずは中の津村の者達を助けないとな」
「フフフ、そうね」
···さすが単純でバカなガキね···チョロいわ···と、こっそり思う白鈴だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
朝飯を食べていけと堂刹と阮奏に押し切られて、食べてから行く事になった。
ぬらりひょんと玄武は帰っていき、代わりに堂刹の許しを貰って与作と三バカトリオ···じゃなくて慶臥が来る前は[三大鬼神]と呼ばれていたらしいが彼らも同じ円卓で食事をした。
豪勢な食事も美味しかったが、さすがに朝食は質素だった。 玉子とじのおじやのような丼物と小魚と漬物で、とても美味しかったのだが、阮奏が言うには幽鬼のせいで結界の外に行くのが困難になり、魚を取りに行けないし、野菜も届かないので材料が不足しているということだ。
幽鬼のせいで···いや、八岐大蛇のせいでみんなが結界の中だけで生活をしなければならない不自由な思いをしているのだと実感した。
翔鬼達が出発する段になって堂刹が中の津村まで一緒に行くと言い出した。
実は堂刹が町を留守にするのはマズいという話を朝食の時に聞いたところだ。 小さな町には長がいて、揉め事や問題を解決してくれるのだが、江の坂のように大きな町になると堂刹やぬらりひょんのような強者が支配する事で均衡が保たれているそうだ。
ぬらりひょんがいるから大丈夫だと言うが、つい先ほど聞いたばかりの話なので心配になる。
「このところ大きな揉め事も起きていないし、中の津村までの往復くらいの間なら大丈夫だ」と言い切られた。
「翔鬼殿! 我々もお供させてください!!」
三バカトリオ···三大鬼神が言いに来たのだが、その途端に堂刹に殴り飛ばされていた。
どちらにしても連れて行けないし、堂刹が留守の間の町を見てもらわないといけない。
ただ、慶臥についていた鬼達の行動を見ていると、町の風紀を乱しているのは鬼達のような気はするが、そこは口出ししない事にしよう。
まだガキだから、丸め込まれやすい( ゜ε゜;)




