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第四十二話 中の津村

久しぶりに江の坂町を出た。

幽鬼に出会わないように、北のルートをとる。


 第四十二話 中の津村




 江の坂洞窟内の結界を超えた時に、突如、周りが少しだが暗くなった。

「あれ? 暗くなった?」


 見回すと、一瞬白狼がいないように見えたが、なんと! 真っ白いはずの白狼が真っ黒になっていた。



挿絵(By みてみん)



 みんなが驚く。


「白狼! どうしたんだ?!」

「白狼! 似合っているわ」

「白狼様、御賢明な御判断です」


「え?」


 本気で驚いているのは翔鬼(じぶん)だけという事に驚いた。


「どういう事?」


 フフフと笑ってから、白鈴が教えてくれた。


「白狼の体は(わず)かだけど光を放っているように見える事を知ってる?」

「そう言われればそうだな」

「夜にそんな体で飛ぶとどうなるかわかる?」

「敵に(まと)にされるな」


「分かっているじゃない。 そういう事よ」

「いやいや、黒くなれるなんて知らなかったぞ」

「言ってなかったからな」

「······」


 白狼の返事に絶句した。


「当然よ。 貴方(あなた)なら自分の力を全て他の者にいちいち説明する?」

「···いや···」

「そういう事よ、フフン」


 白鈴は鼻で笑う。



···くっ···何だか悔しい。 妖怪の常識を早く身に付けよう···



 翔鬼は心に誓ったのであった






 洞窟を出ると、眩しい月が辺りを照らし、夜という常識が崩れていく。


 月も星も見えていて確かに夜なのに、明るくて遠くまで良く見える。 明るい夜空にそびえ立つ富士山は、壮大で神秘的だった。




「遠回りでいいから富士山から離れるように道を取ってくれ。 前に幽鬼の大群に襲われたんだ。 一人二人なら問題ないが、あれはちょっとな」

「承知しました。 北の方から参りましょう」


 与作を先頭に北に向かって飛び始めた。 人間界で言えば関東地方から群馬を抜けて日本海に出るルートを取ることにした。


 もちろん翔鬼にも与作にはそれらの地名は分からない。 翔鬼は今どこにいるのかも分かっていないし、与作にしても妖界には妖界の地名があるので「日本海」と言われても分からない。




 暫く行くと急に空気が冷たくなってきた。


「幽鬼だ!」

「俺が」と、真っ黒い白狼が飛んでいく。


 黒い線を体の後ろに描きながら真っ直ぐに幽鬼に向かって飛び、キラリと刀のきらめきが見えたかと思うと、事を終えて戻ってきた。


「さすがに凄いです!」


 与作がパチパチと拍手をしている。



 翔鬼はふと気づいた。


「幽鬼って夜は黒い雲を()()()いないんだな」

「幽鬼は太陽の光に当たると消えてしまうの。 だから雲で(さえぎ)っているのね、傘みたいに」

「日傘代わりなのか···」

()()()?」


()()()は太陽の日差しがきついから、女の人が日差しを遮るために晴れでも傘を差すんだ」

「そういえば、暑い日は凄く暑いし、寒い日は凄く寒かったわね」

「こっちは違うのか? そういえばこっちに来た途端涼しくなったような···」

「妖界はずっと今位の温かさね」

「ふ~~ん」


 とても過ごしやすいが、海で泳げないのも雪が降らないのも面白味(おもしろみ)がない。



 それはいいとして、幽鬼が現われた時、黒雲がなくて見分けにくいと思ったが、空気が冷たくなる事で近くにいるのが直ぐに分る。 だから知らないうちに幽鬼が直ぐ近くにいたなんて事はない。


 その後も数回襲撃にあったが、何も問題なかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



「この先に〈中の津村(なかのつむら)〉があります」


 与作が指した先は、山の(ふもと)にある洞窟だった。 江の坂洞窟ほど大きい洞窟ではなく、入り口は3m四方ほどの広さしかない。


 中に入ると程なく結界(カーテン)(くぐ)った。





 中の津村にはポツポツしか家が建っていなくて、(ほとん)どが広い田畑だ。


 そういえば江の坂町では(ほとん)ど田畑は見る事がなかった。 売られている野菜などはどこで作っているのかと思ったら、こういう農業の村があったのかと納得だ。


「こちらです」


 与作は翔鬼達を案内する。


「どこに行くんだ?」

「こういう小さい村には(おさ)がいます。 そのお宅に···」


 話を聞くには(おさ)を通すのが手っ取り早い。 さすが与作!




 (おさ)の家の前に着いた。

 (おさ)の家といっても、それほど大きくない。 まぁ、他の家が小屋のような小さな家ばかりなので、それに比べると立派といえる。




清大(せいだい)殿! 与作です!」


 中から出てきたのは、大天狗?···いや、清宗坊とよく似ているが、鼻の高さが半分ほどしかない。 大天狗ではなく、天狗だと知識の本が教えてくれた。 後で与作に聞いたところ、天狗が(おさ)を務めている場合が多いそうだ。 穏やかで聡明な者が多いのだろう。



「与作殿···この御方達は?」

「翔鬼様と白鈴様と白狼様です。 この御方達が聞きたいことがあるそうなのでお連れしました」

「それは···むさ苦しい所ですがどうぞ御上がり下さい」




 中に案内してくれた。 結界で中を広げたりはしておらず、見たままの広さだ。

 居間から見える中庭には家庭菜園のように何種類かの野菜が実を付けている。 その奥には白い壁の蔵が二棟建っていて、月明りを反射して中庭は昼間より明るいのではないかと思えるほど明るく見える。 


 程なく小天狗がお茶を運んできた。


「それで···聞きたいことというのは何でしょう?」


 清大(せいだい)は、みんながお茶に口をつけるのを待って、口を開いた。


石魂刀(せっこんとう)を探しているのだが、在り処(ありか)について何か知らないか?」

「石魂刀ですか···」


 清大が暫く考えるが、首を振った。


「申し訳ありません」

「それなら体に勾玉を付けている者を見た事ないか? こんな風なのだが」


 結界内に入って、白い姿に戻っている白狼の額の勾玉を指差す。


 白狼の勾玉を見つめていたが、再び首を振った。


「お力になれず、申し訳ありません」

「いや、気にするな。 それより長閑(のどか)な村だな。 妖怪が殆どいないのは夜だからか?」


 それを聞いて清大は悲しそうな顔をして、暫く明るい夜の月に照らされている中庭の菜園に視線を向けてから、ポツポツと話しだした。。




「私共は作った野菜等を他の町や村に売って生計を立てているのですが、幽鬼のせいで村の者の数が半分ほどになってしまって人手がいないのです」

「もしかして、他の村に野菜を届ける時に幽鬼に襲われるのか?」

「そうです。 荷物があるので素早く逃げ出す事もできず、しかし、届けないわけにもいかず、気付けば半数ほどに減ってしまいました」


「それは大変だな···俺が何とかしよう」

「言うと思っていたわ」


 白鈴はため息まじりに言うが、やる気は満々にみえる。 白狼もすでに立ち上がっていた。

 それを見て清大は事情が呑み込めずにいる。


「あのぉ···何とかしよう···とは?···」

「俺、幽鬼に石にされた者を元に戻す力があるんだ」

「えっ?!」


「そうなのです。 ですからご心配はいりません。 そこで清大殿······」


 与作は通常の荷物を運ぶルートを清大に詳しく聞いている。 荷を運ぶ道はだいたい決まっていて、その道に沿って襲われた者がいるはずだからだ。




 四人は中の津村を出た。







また、沢山の妖怪助けが始まった!

p(^-^)q

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完璧です。perfect!!
2020/06/10 19:41 退会済み
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