第四十一話 堂刹との密談
酒呑童子邸に赴き、相談する。
第四十一話 堂刹との密談
堂刹の部屋に行くと、綺麗な鬼神の女鬼を4人も侍らせて酒を飲んでいた。
···わぁ···女性の鬼神を始めて見た···
堂刹は翔鬼達を見て、手を挙げる。
「よお! 久しぶりだな。 どうしていたんだ?」
「ちょっとな···」
なんだか暗い雰囲気に堂刹はうん? という顔で翔鬼と白狼の顔を交互に見る。
「酒を飲むか?」
「いらねぇよ」
翔鬼と白狼は堂刹の横に座った。 一人の女鬼が翔鬼の横に座ろうとするので、手で制する。
『堂刹、俺達だけで話があるんだ。 人払いをしてくれるか?』
『なんだか深刻そうだな···わかった』
四天王と鬼達はゾロゾロとついてきて、翔鬼達と話したそうに大人しく待っていたのだが、堂刹がシッシと払う仕草をすると、それで分かったらしく女鬼も一緒に「失礼します」と、残念そうに出て行った。
「どうした?···何かあったのか?」
翔鬼は枕返し事件を話した。 気龍が出てきた時と、慶臥の話しが出てきた時は驚いていた。
「慶臥って堂刹から見てどう思う?」
う~ん···と暫く考えてから話しだす。
「奴は10日ほど前にひょっこり現れて、余の手下にしてくれと言ってきた」
···10日といえば人間時間で10年ほどが経っている。 それで新参なのか···
話は続く。
「慶臥は無口で愛想はないが乱暴な所がなくて、口には出さないが思いやりもあるので手下達に慕われている。 そういえば、フラッとどこかに行って、暫く帰ってこない事があるが、仕事もちゃんとこなすし悪い奴とは思えない。 とはいえやはり心が視えないのは難点だがな」
「堂刹も視心術ができるのか?」
「ハッハッハッ、さすがに何も知らないな。 余も鬼神だ」
「···そうだったのか···」
「それで?」
「急がないが、慶臥を調べてもらえないか? 堂刹以外の者に仕えていないか、俺や白狼に怨みを持っていないか」
「ゆっくりでいいのか? また仕掛けてくるかもしれないぞ」
「俺達、西の国に行こうと思っているんだ」
「石魂刀か?」
翔鬼は頷く。
「西の国にある可能性が高い。 いつまでも人任せにしている訳にもいかないからな」
「余は一緒に行かなくても大丈夫か?」
「大丈夫だ。 遠回りして幽鬼が少ない場所を通って行くつもりだし、白狼と白鈴も一緒だからな」
「気龍もいるから大丈夫か」
「あぁ、そうだ、挨拶させる」
翔鬼に体からギンが出てきた。
「ほぉ···これが気龍···」
「僕はギン。 よろしく」
薄暗い室内が、ギンが出てきたことで明るくなった。
「あまり簡単に他の者に紹介しない方がいいぞ」
「うん···ぬらりひょんにも言われた」
ギンはスッと体に戻る。
「上手く抑え込んではいるが翔鬼殿の妖気がかなりデカくなっている。 ギンのおかげで大きくなりすぎた【気】を、上手く調整できているのだろう。
しかし妖気が大きい者は妖気が大きい者を呼び寄せる事がある。 用心しろよ」
「ありがとう、気をつけるよ」
「そうだ、戦う時に防御結界を張ったまま戦うといい。 かなりの妖気を要するが、今の翔鬼殿の妖気なら十分だろう」
「···防御結界を張った覚えがないんだ」
「ハッハッハッ、問題ないさ、やってみろ」
やってみろってやった事ないのに···と思ったら···念じただけでできた。
しかし自分の周りを覆うように張られている。 これでは身動きが取れない。
「自分の皮膚に沿って張るようにするんだ。 これは練習が必要だが、すぐにできるようになるさ」
「幽鬼と戦った時に堂刹だけケガしていなかったのはそのお陰か」
「ハハハハハ!···それもあるが余は強いからな。 ただし、防御結界は幽鬼程度の力なら防げるが、強い妖気の持ち主なら貫かれる事がある。 万能でない事も忘れるなよ」
「勉強になった。 ありがとう」
その時「酒呑童子様」と、扉の外から声が聞こえた。
「入れ」と言われて入って来たのは四天王の一人、阮奏だった。
「お呼びでしょうか?」
「阮奏に密命を与える」
「はっ!」
阮奏は一歩近づき、片膝を付いて命令を待つ。
「内密に慶臥を調べろ」
「えっ?」なぜ慶臥を? という顔で堂刹を見る。
「まだ分からんが、翔鬼殿を狙っている可能性がある。 慶臥に悟られないようにな。 慌てる必要はないから慎重に調べるように」
「承知しました」
「翔鬼殿とも直接話せるように、思念通話を交わしておけ」
阮奏と翔鬼は言霊【思念通話】を交わす。
その後、堂刹の追い払うような仕草を見て、阮奏は部屋からでていった。
このだだっ広い部屋が阮奏がいなくなるだけで隙間風が吹き抜けるような寂しい感覚に襲われる。 飾りや装飾が一切ないせいかもしれない。
阮奏が部屋から離れた事を確認してから堂刹は小さなため息をついた。
「···ところで、いつ出発するんだ?」
「この後すぐに。 勾玉の仲間以外には黙って行くつもりだから、お別れの挨拶に来た。 慶臥の事も頼む。 もしかすると慶臥以外の者の可能性もなくはないので、ぬらりひょんが調べてくれるが堂刹も気にとめておいてくれ」
「承知した······なぁ···大丈夫だとは思うが、念のために【名寄せの制約】をしておこう」
堂刹と名寄せの制約をする。
「呼ぶ事はないと思うが、お護り代わりと思っておくよ」
名残惜しそうにしている堂刹を尻目に部屋を出ると、飲みに誘いたそうにしている三バカトリオと慶臥が待ち構えていた。
しかし「ちょっと今は···また今度な」と挨拶して、酒呑童子邸を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
一度家に戻り、白鈴を部屋に呼ぶ。
「今から出発しようと思うのだが、大丈夫か?」
「もちろんよ。 あぁ、与作を先に呼んだら?」
「そうだな」と、名寄せの制約で烏天狗の与作を呼び寄せた。
「お久しぶりでございます。 お呼びいただけて光栄です。 清宗坊様からお話しは聞いております。 私にお任せください」
与作は大仰にお辞儀をする。
「よろしく頼む」
という事で、金治にだけ今から出発する事を話して、大天狗邸を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
町を出る前に土蜘蛛に会いに寄る。
翔鬼達を見て、敬之丞が走って来た。 大きくなっている。 すでに翔鬼の倍ほどのサイズになっているにもかかわらず、飛びついてきて翔鬼を押し倒して馬乗りになった。
犬ならここで顔をベロベロ舐めるところだろうが、残念ながらそれはない。 嬉しそうに翔鬼の顔を眺めているだけだ。
「ひえぇぇぇ~~~っ!!」
土蜘蛛に襲われる翔鬼を見て、与作は慌てて白狼の下に隠れた。
「な···なんで土蜘蛛が?! 翔鬼様は大丈夫なのですか?!」
与作は白狼の足にしがみ付いている。
「彼は敬之丞という。 心配ない、勾玉を持つ我々の仲間だ」
白狼の説明を聞き、恐る恐る出てきた。 しかし、敬之丞の後ろの森の中から敬之丞と同じくらいのサイズのと、それの倍以上ある巨大な土蜘蛛が出てきたのを見て、与作は再び白狼の足の下に隠れた。
「やぁ! 厳之丞、影之丞」
翔鬼は敬之丞に抑え込まれたままで片手を上げて挨拶する。
「今から西の国に行かれるのですね」
と、厳之丞。 すでに思念通話で詳しい話はしてある。
「戻るのはいつになるかは分からないが、敬之丞を頼む」
「お任せください。 そうだ、敬之丞、あれを」
「おう! そうだった」
敬之丞は大きさに似合わぬ軽やかさで翔鬼の上から飛びのくと、自分の体に生えている産毛のような毛を一本引き抜く。
起き上がった翔鬼にその毛を差し出し、手の上に乗せる。 5㎝ほどの長さの毛だが、黒と黄色の縞模様になっている。
「これは?」
見ていると、その毛が手の上でモゾモゾ動き出したと思うと細い毛が膨らんできて丸くなり、そして2㎝ほどの小さな土蜘蛛になった。
「わぁ、敬之丞、可愛いじゃないか! お前の子供か?」
「子供じゃないがよく似たものだな。 俺の分身だ。 なりは小さいが俺が学んだことは全て詰め込まれている。 毒を使いたいときや、解毒をしたいときはそいつがしてくれる、連れて行け」
手のひらの小さな敬之丞に見入る。 虫メガネが欲しい。 本当に実物のミニチュア版で超可愛い。
「小さい敬之丞だからチビ敬だな。 チビ敬、頼んだぞ」
「任せろ」そう言うと、スルスルと腕を登っていき、翔鬼の髪の毛の中に入った。
生意気な話し方は本体と同じだなと、少し笑えた。
「翔鬼様におんぶしてもらえなくなって、寂しいぞ!」
「でかくなったな。 次に会う時はもっと大きくなっているだろうな」
2日で成獣になると言っていたのは本当のようだ。 しかし敬之丞の方が影之丞より既に一回り大きい。 どれほどの大きさになるのか楽しみだ。
「次に会えるのを楽しみにしている」
三人に別れを告げて出発した。
四十一章まで読んでいただいてありがとうございますm(_ _)m
次章から町の外に活躍の場が移ります。
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