第四十話 枕返しの容疑者
まとわりついていた気龍に名前をつけた!
第四十話 枕返しの容疑者
とりあえず解散になって、部屋には翔鬼達だけになった。
気龍が翔鬼にまとわりつく。
「なぁ気龍、さっきのぬらりひょんの話しを聞いていただろう? すまないが呼び出すまで俺の体の中にいてくれないか?」
「謝る事はないよ。 思考は一応分かれているけど僕は君だし、君の【気】の中が一番心地良いんだから」
「そうか···なぁ···気龍を気龍と呼ぶのも変だよな···名前を付けようか。 白狼、何がいい?」
「俺には分からん。 少し疲れたから寝る」
そういえば白狼は右の後ろ脚を少し引きずっている。 俺も食いちぎられた腕が少し痛い
白癒羽に聞いたが【気】のせいだから、自分には治せないと言っていた。 夢での記憶が体に残っているせいだという。
時間が経てばそのうち治るそうだが、白狼は長時間、一人で戦っていた。 きっと長い間眠っていたのにかかわらず眠れていないのだろう。
翔鬼の横で丸くなる白狼の頭を優しく撫でた。
今度は安心して良い夢を見ながらゆっくりと眠ってほしい。
「それで···名前はどうしよう···シロはややこしくなるし···金が付く名はいいのが思い浮かばない···じゃぁ〈銀〉はどうだ? 金色の〈ギン〉」
「いいよ! 僕の名はギンだね! じゃあギンは翔鬼の中に戻りま~す!」
簡単に納得して金色の残像を残しながら翔鬼の体にスッと入り込んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
清宗坊は枕返しの痕跡が残っていないか屋敷の結界内を隈なく調べた。 そして使用人達も調べたのだが、やはり何も出てこない。
普段いないはずの者が入ってくると、必ず何某の痕跡が残るはずなのに何もない。
慶臥の痕跡は白鈴の部屋と玄関との往復だけで、彼の痕跡の中にも枕返しと関連するものは見つからない。
関係がないのか···それとも完璧な隠匿結界を使ったのか···
もう一度翔鬼の部屋を調べる必要があると考えた。
「翔鬼殿、清宗坊でござる。 お邪魔してもよろしいでござるか?」
「ど~ぞ」
部屋の真ん中で飴を舐めながらボォ~ッと外を眺めている翔鬼の横で白狼が丸くなって眠っていた。
失礼しますと、清宗坊がもう一度部屋の中を調べる。
天狗の鼻はこういう事を調べるのに適していて、わずかな痕跡の臭いも見逃さない。
しかし、枕返しが自分から入って来たにしてはあまりにも痕跡が少なく、逆に通常ではありえないのだ。
力があるものが意図的に隠匿して連れてきたと考えると辻褄が合う。
念入りに布団の周りを調べていたが、フッと動きを止めた。
ほんの一瞬だが、枕返しと共に慶臥の匂いがしたのだ。
清宗坊が翔鬼の横に座り、白狼を起こさないように小声で話す。
「どうも慶臥殿の可能性が高いようですが、確かな証拠はありませぬ」
「慶臥が? なぜ?」
「拙者にも分かりかねます。 それに鬼神である慶臥殿を調べるのは困難かと」
「心を視られるからか?」
「はい」
「······堂刹が送り込んだという事はないか?」
「分かりかねますが、堂刹殿とは勾玉の繋がりがある以上、可能性は極めて低いと思われまする」
暫く考えていた翔鬼が顔を上げる。
「···わかった。 俺が調べてみる」
「翔鬼様が?」
「正確には調べてもらう···かな? 鬼神の事は鬼神に任せろ」
「承知」
◇◇◇◇◇◇◇◇
白狼が気持ちよさそうに伸びをする。
「起きたか?」
「ふぁ~~~気持ちよく眠れた」
「じゃぁ、行こうか」
「どこに?」
「堂刹の家」
楽しみにしていた街中は、昼間と殆ど変わりない。 妖怪の目では普通に明るくて照明もいらない。 店もいつも通りに開いている。 街中を歩いている妖怪の顔ぶれが微妙に違うようだが、よく分からんし最近は見飽きて興味が無くなったからどうでもいい。
道すがらぬらりひょんと思念通話で先程の清宗坊の話しと、今から堂刹の屋敷に行く事を話しておいた。
結局、真っ直ぐに酒呑童子邸に着いた。
門番の青鬼は翔鬼達のことを知っているので、堂刹に会いたいと言うと二つ返事で案内してくれた。
酒呑童子邸は清宗坊邸のように渡り廊下はなく、それぞれの建物が独立している。
相かわらずカラフルでキレイだと思いながら歩いていると、すぐ前の建物の陰から慶臥が出てきた。
翔鬼達を見て一瞬驚いて立ち止まってから近寄ってきた。
「翔鬼殿! やっと起きたのですか? 一緒に飲もうと待っていたのですよ」
『白狼、どうだ? 慶臥の態度はおかしくないか?』
『特に不審な態度はないように見える』
···少しはアタフタしてくれれば犯人だと分かるのに···
「そうだったのか? すまないな」
「今日は?···」
「「「翔鬼殿!! 白狼殿!!」」」
横の建物から三バカトリオ···じゃなくで、残りの四天王が出てきて、翔鬼を見つけて駆け寄る。 それぞれの手下だろう、20~30人の鬼もゾロゾロついてきた。
「翔鬼殿、白狼殿、お久しぶりです!」
翔鬼と白狼は眠っていて四天王と会ったのはついさっきの事のようだが、彼らにしてみると10時間以上過ぎている。 人間時間で半年ほど過ぎているのだ。
「酒を一緒に飲もうと何度か連絡したのに、いい返事がもらえずに寂しかったです」
「今日はどうされたのですか?」
「堂刹に話しがあって···」
「なら、俺達が···」
そう言って、案内してくれている門番の青鬼を追い払う。
「後で俺達と飲みましょうぜ」
それには返事をせずに笑って誤魔化した。
青い鬼神の阮奏は白狼の横について歩く。
「白狼殿もお元気でしたか?」
「あぁ」
白狼はいつも返事は短く翔鬼以外には心を開かないが、阮奏が青鬼で白狼の青い模様に惹かれたせいなのかは分からないが、やけに白狼に懐いている。
「良い寅三つ時ですね」(4時~4時半)
「あぁ」
寅三つ時が何か分からないし、何が良いのかも分からないがとりあえず返事だけした。
「白狼殿の体から、白い光が漏れていて綺麗です」
「漏れている?」
自分の体をよく見ると、動くたびにわずかに体から光を放っているのが見えた。 今までは周りが明るかったので気が付かなかったのだ。
「そうなのか···」
白狼は一人納得してから、白癒羽と思念通話で話しをしていた。
堂刹に会いにいって、どうするの?
(;゜0゜)




