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第四話 幽鬼

翔太とシロは、幽鬼に襲われた!!

第四話 幽鬼(ゆうき)




 再び二人は歩き出した。


 少し落ち着いたとはえ、相変わらず翔太はシロの毛を握ったままだ。




 その時、日が傾いてきのか少し肌寒くなってきた。 いや、どんどん寒くなってくる。


「寒い···」


 シロがハッとして上を見た。 黒い雲が頭の上に覆い被さってきている。


「翔太!! 走れ!!」

「えっ?!」


 シロにつかまりながら翔太は走った。 後ろから大きな手が迫ってきているような恐ろしい感覚に追い立てられるように走った。


「なに?! シロ! なに?!」


 走りながらシロに聞く。 怖くて周りを見る事もできない。


「急げ! 幽鬼だ!」

「ひっ!!」


 足がもつれそうになる。 シロがいなければ3回はコケていただろう。 しかし恐怖で気ばかりが(はや)り、足が上手く運べない。


「ダメだ! 翔太! 草むらに隠れろ!」


 草が生い茂った低木の中に押し込まれ、シロも身を潜める。


 どんどん寒くなり真冬のような寒さになってきた。

 翔太は震えながらシロにしがみ付く。


 寒さからなのか、恐怖からなのか、自分の震えが伝わった草木が揺れて立てる大きな音で幽鬼に気付かれるんじゃないかと思うと、余計に震えてくる。


 周りの木々からピシピシ···パシパシ···という音が聞こえて来たかと思うと、青々と茂っていた葉が変色していき、みるみる枯れていく。 しがみついているシロの体が一段と緊張するのがわかり、翔太も体を硬くしてそっと上を見上げた。


「ひぃ~~っ!!」


 翔太が顔を上げた時、宙に浮かんだ黒いフードマントを被ったそのフードの中には恐ろしい顔があった。 額に2本の角と下顎から突き出た牙があり、そして骸骨のように瞳のない真っ暗な穴だけが開いている目と目が合った。



挿絵(By みてみん)



「翔太!!」


 シロが翔太に覆い被さる。 


 一段と冷気が激しくなり、吸い上げられるような感覚が続いた。


 周りの枯れた草木がパキパキと音を立てて崩れ落ちていき、二人をを覆い隠していた草木が完全に枯れ落ちてなくなって翔太とシロの体は丸出しになってしまった。


 しかし逃げる事もできず、二人共ジッと丸まっているほかはなかった。




 そのうち冷気は治まり幽鬼はどこかに飛んでいったようだ。


「シロ!! シロ!! 嫌だ!! シロ!!」


 翔太はシロの下から這い出して、ぐったりした白く大きなフワフワの体にしがみ付いた。


「シロ!! 死んじゃいやだぁ~!!」


「あれ?」シロは顔を上げた。 そして立ち上がる。

「なんともないぞ?」


「シロ? なんともないの?」

「おぉ···なんともない······そうか、翔太は私を石から戻してくれたという事は、もしかすると翔太も、翔太と一緒にいる私も石にならない···という事なのか?···よく分からんが、とにかく無事だ」


 翔太はシロの首にしがみ付いた。


「よかった!! シロが死んじゃったかと思ったぁ~~!! 助けてくれてありがとう」


「結局何もしていないが、もう幽鬼は怖くないという事が分かっただけでも良かったな」


 翔太は大きく首を横に振る。


「ううん!! シロが体を張って僕を護ってくれた事は忘れないからね!」


 シロはフフフと笑って翔太の顔をベロンと舐めた。


「だから翔太が好きなんだ。 さぁ行こうか」

「うん!!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 それからも長い間歩いた···と、感じた。 


 知らない場所を歩くせいなのか、怖がりながら歩くせいなのか、気持ち的には丸2日は歩き続けていると思うのに、太陽は傾かないし、お腹もすかない。 携帯の時計もやっと[13:15]になったところだった。



 あれ以来幽鬼にも出会わず、森の中を歩くのもずいぶん慣れてきた時、やっと湖の湖畔に辿り着いた。




 かなり広くて美しい湖だ。 水は澄んでいて波もなく、対岸の森が湖面に鏡のように映り、まるで下に向かって木々が生えているようにも見える幻想的な景色だ。


 翔太達が立った場所は短い下草が芝生のように地面に敷き詰められ、上から大きな木が覆い被さり木陰を作り、とても清々しくて昼寝でもしたくなる場所だった。



 湖畔から2~3mほど先に水の中から大小の岩が3個突き出ている。 そこに向かって呼んでみた。



「こんにちは! 緑子(みどりこ)っていう亀さんはいる?」


 しばらく待つが、何も現れない。


「いないのかな? この湖でいいんだよね?」

「思った以上に広いから、聞こえないんじゃないか?」


 翔太は一段と大きな声で呼んだ。


「こんにちは~~っ!! 緑子っていう亀さんはいるぅ~~っ?!」



 すると、湖の中の岩の横の水に小さな波紋ができると、小さな亀の顔がヒョッコリ出てきた。


「あっ! きみが緑子さん?」


 当然のように亀に話しかける自分が少し可笑しかった。


「木霊が言っていた人間の子供ですね。 よく無事に来られました」


 丁寧な亀だ。 亀は手を伸ばしてよっコラショと岩の上に登る。


「こんにちは。 僕は神木翔太で、こっちはシロ。 木霊を知っているの? っていうより、電話もないのにどうして僕たちの事を知ってるの?」


 ホホホと、緑子が笑った。


「それはですね···山で大きな声を出すと、同じ声が聞こえてきたりする事を知りませんか?」

「あっ! 知ってる! ヤマビコとかコダマっていうんだよね」


「よく知っていますね。 あの声は精霊の木霊が木々を移動しながら人間の声真似をする為に、山から声が聞こえているように感じるのです」


「へぇ~、精霊の木霊が山から聞こえてくるコダマの正体だったのか」


「それだけ木々の間をすばやく移動できるのです」

「そうか! だから僕たちより早く来て緑子さんに知らせたんだね」


「正解です」


 へへへと、翔太は褒められて少し嬉しそうだ。


「そういえば、ここに来るまでに幽鬼に襲われませんでしたか? 良く御無事で···」


 翔太はまたヘヘヘと得意そうに笑う。


「実は僕、幽鬼に襲われても石にならないみたいなんだ。 だから一度襲われたけど、何ともなかったんだよ」


 あれだけ怖がっていた事は、すでに忘れているように明るく笑う。


 緑子は少し驚いた風に翔太の顔を見つめた。


「木霊の言う事は本当だったのですね。 この人間の子供が······」



「ところで、元の世界に戻る方法を緑子さんが知ってるって木霊さんが言っていたけど、本当?」


「あ···あぁ···その事ですか···その前に玄武様に会っていただく必要がありますので、そのまま暫くお待ちください」




 そう言うと、返事も聞かずに湖の中にスッと潜っていった。






玄武って、あの玄武?(;゜0゜)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勘違いをしていました。 情景描写に力をいれたからではなく、語りが『伝説のドラゴン』や『エンジェルハートデビル』のような一人称ではなく三人称に変えたのですね。今まで気がつかなかった私もマヌケ…
2020/05/04 09:45 退会済み
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