第三十八話 気龍
翔鬼から金色の龍が現れた!!
第三十八話 気龍
『···俺はもうダメだ···翔鬼、今までありがとう···翔鬼に飼われて幸せだった』
「ダメだ!! 諦めるな!! 白狼!! 一緒に帰るぞぉ!!」
白狼の動きは止まってしまっていて、白狼の上に黒いのが山のように群がっている。 翔鬼にも無数の黒いのが止めどなく襲い掛かってきて、白狼に近づく事もままならない。
「ダメだ!! はくろぉぉぉ~~~!! 誰か助けてくれ!! 白鈴! ぬらりひょん!清宗坊! 堂刹!! 誰でもいいから白狼を助けてくれぇ~~~っ!!」
その時、翔鬼の体が金色に光り出し、細長い何かが体から浮き出てきたと思ったら、それが竜巻のように渦を巻きながら移動し始めた。
翔鬼と白狼の周りにいる黒いのは金色の竜巻に触れただけで消滅していく。
そのまま部屋の中を移動する金色の竜巻は、逃げ惑っていた黒いのをあっという間に消滅させてしまった。
翔鬼は白狼に駆け寄る
全身血まみれの白狼は、ノドを喰いちぎられて虫の息になっている。
「白狼!! 白狼!!ダメだ!死ぬな!!」
「もうダメだね」
先ほど出てきたのは4~5mほどの長さの金色の龍だった。
「お前は誰だ!」
「僕は君の気龍だよ」
「気龍? 俺の?」
「うん。 君の【気】から生まれた龍だよ」
「白狼を助けられないか?」
「だから無理だって。 君には回復の力はないだろう? だから僕にも回復はできない」
「どうにかならないのか? うっ!」
つい、千切れた左腕で気龍を掴もうとして激痛が走った。
「大丈夫?···あ···それなら治せる···ジッとしてて」
気龍は千切れた翔鬼の腕に両手をかざす。 するとほんのり光り出し、少しずつ形を成してきたかと思うと、元通りの手になった。
「戻った···じゃぁ白狼も···」
「だからぁ! それは君自身の【気】で造られたものなんだ。 白狼も自分の【気】で治さないとダメなんだ」
白狼の意識はなく、息も絶え絶えになっている。 そんな状態で【気】を使うことなどできる訳がない。
「何とかできないか? そうだ、俺の【気】をもう一度【配気】するとか···」
気龍はハッと顔を上げる。
「そうか! 白狼には既に僕の【気】が入っているんだった! それじゃぁ···」
気龍は白狼に両手をかざし、口の中で呪文を唱えると、白狼の体が光り出した。
喉の酷かった傷口が塞がりはじめ、ヒューヒューなっていた苦しそうな息遣いが落ち着いてきた。 そしてゆっくりと目を開けた。
「白狼!! 大丈夫か?」
「翔鬼···助けて···くれたのか?」
「良かったぁ~~」
翔鬼は白狼の首に抱きつき、白狼もされるがまま、目を閉じた。
「ありがとう···」
意識は戻ったが右足は千切れたままだ。 しかし、今は現実に戻る事が先決だ。
「立てるか?」
翔鬼は白狼を立たせるが、やっと気龍に気付いた白狼が固まる。
「翔鬼···こいつは?」
「あぁ···俺の【気】から生まれた龍らしい。 詳しくは後で。 とにかく戻らないと···気龍、どうやって夢から出るんだ?」
翔鬼が気龍に聞くが気龍は知るわけないだろうと突っぱねた。
「僕は君から出てきたんだ。 だから君が知っている以上の事は知らないんだよ。 わかる?」
そう子供に諭すように言ってから、湧き出てきた黒いのを退治しに行った。
「いったい何があったのか、どうなっているのか教えてくれるないか?」
白狼が聞く。 枕返しに会った事も当然知らなくて、ここが白狼の夢の中という事も分かっていなかった。 そこで寝ていた白狼の様子がおかしかった事から、ぬらりひょんが獏の夢夢を連れてきてくれた話などを一から話した。
「という事は白い糸を探せばいいんじゃないか?」
「そうか! じゃぁ···」
帰り道を教えてくれと念じたが、また何も出てこない。
「もう少し分かりやすく出てきてくれればいいのに」
ブツブツ言いながらも何度も念じ、幾つかの部屋を巡ったが一向に糸は見つからない。
気龍が黒いのを倒してくれるので、そっちの心配はなくなったが、白狼が痛々しい。 早く戻りたいと気ばかりが焦ってきた。
「なぁ。 気龍も糸を探してくれよ。 どうして見つからないんだ? これだけ念じているのに!」
今、黒いのはいないので、翔鬼の横をクネクネと飛んでいる。
「糸? もしかして、あれかな?」
気龍が指したのは上の方だった。 先が見えないほど高い天井から、例の蜘蛛の糸がキラリと光っているのが見えた。
「あった!!······けど···あんな上からぶら下がっている···俺達飛べないのにどうやって上に行けばいいんだ?」
「僕は行けるけど」
気龍はクネクネ飛んでみせる。
「お前だけが行ってどうするんだよ! 本体(俺)が行かないと意味がないだろ···それにたとえあの高さまで行けたとしても、あんな細い糸は登れないだろうし···」
「なぁ、触れればいいんじゃないか?」
「触るだけ?」
「どう考えても登れないだろう。 術が使えないのだから飛んでいくというのは論外だろうし、という事は触ればいいのでは?」
「しかし高い···」
三人で見上げる。
真っ黒な所から頼りなげな糸が「おいで」と言うように揺れている。 翔鬼がジャンプしても届かない距離だ。
···幽鬼の時のように、みんなが繋がっていればいいのかも···そのうちの誰かが触れば帰れるのじゃないか?···
「気龍···俺達がお前の尻尾を持っているからお前が糸に触ってみてくれ」
「わかった。 じゃぁ、僕の尻尾を掴んで」
白狼を翔鬼が抱き上げ、翔鬼が気龍の尻尾を掴む。
「いいぞ」
「おう、 行くよ」
気龍が糸に触った途端、目の前が真っ白になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「翔鬼! 白狼!」
聞き覚えのある声に促されるように目を開けた。 心配そうな白鈴の顔が目に飛び込む。
「白鈴···俺は戻ってきたのか?···あっ! 白狼は?」
夢夢が横たわっている翔鬼の目の前に、あのチビ象のような顔を突然出した。
「翔鬼様、今しがた白狼様の悪夢を食らいましたので、もう御目覚めになります」
···ちょっとビックリした···
気を取り直して腕枕の体制のまま体を起こして白狼に顔に見入る。 すると身じろぎする白狼の動きが腕から伝わってきた。
「白狼! 白狼!」
ゆっくりと白狼の目が開き、すぐ目の前にある翔鬼の顔にくぎ付けになる。
白狼は翔鬼の顔をペロリと舐めた。
「はくろぉぉぉ~~~!!」
翔鬼は白狼に抱きついた。
「いてっ!」
翔鬼は頭の上に痛みを感じた。 触ってみるとたんこぶのように少し腫れている。
「頭を何処かにぶつけたかな?」
しかしその事は直ぐに忘れてしまった。
無事に戻れてよかったですね(*^_^*)




