第三十四話 大宴会
鬼の大宴会が行われた!
第三十四話 大宴会
やっぱり堂刹の隣はぬらりひょんだろうと場所を譲ろうとした。
「今回の主役は翔鬼殿ですじゃ。 わしは端でゆっくりと食べさせてもらいまする」
さっさと端っこに座ってしまった。
··· このおやじ ···
翔鬼は当然、こんな改まった場は初めてなので、出来る事なら自分も部屋の隅で見ていたいところだ。
「翔鬼殿!! ここ!!」
堂刹は自分の横の座布団をトントンと叩く。 仕方がないので堂刹の隣に座った。
「翔鬼殿、招待に応じてくれて感謝する。 どうしても手下達を翔鬼殿達に会わせたかったのでな。 白狼殿、白鈴殿、そしてぬらりひょん殿も良く参られた。 ぜひ楽しんでいってくれ」
堂刹が手を挙げると、鬼達が一斉にこちらを見る。
「こちらが翔鬼殿だ。 余は翔鬼殿の仲間になった。 ゆえに、白狼殿、白鈴殿、ぬらりひょん殿とも仲間だ! くれぐれも粗相のないように!」
「「「ウオッ~ス!!」」
鬼達が声を揃えて返事をする。 広い部屋が揺れた気がした。
「待たせたな! 無礼講だぁ~~!!」
堂刹が手に持つ飲み物を一気飲みした。
「「「うおぉぉぉぉ~~!」」」
鬼達も一気飲みをしてからは、大きな声でガヤガヤと喋り出し、目の前の食べ物にがっつき始めた。
翔鬼は少しホッとした。
··· 良かったぁ ··· 挨拶の演説でもしろと言われたらどうしようと思った ···
安心したら目の前の膳に目が留まる。 妖界に来て、初めてのまともな食事だ。
鬼の食べ物だから、生肉をデンと置いてあったらどうしようかと思っていたのだが、それぞれの料理は皿に分けて置かれていて、日本料理とまではいかないが何種類かの見た事がない料理が整然と並べられていて、ちゃんとお箸まである。
ちょっと不安なのが、この飲み物はジュースである訳がないという事だ。 当然お茶やお水ではなく······
「翔鬼殿!! 遠慮せずに食ってくれ。 この酒も美味いぞ。 飲んでみてくれ!」
··· やっぱりお酒だ ···
未成年だから飲めないという訳にもいかない。
··· でも体は大人だからいいよな ··· ここでは法律違反という事もないし ··· お母さんに怒られることもないし ···
翔鬼は腹をくくって酒を一口飲んでみた。
「美味い!」
堂刹がガハハハと笑う。
「そうだろう!! もっと飲め! 飯も美味いぞ」
言われるままに煮物を口に運ぶ。
「これも美味い!」
懐石料理のような上品な盛り付けではないが、思った以上に料理は美味いし酒も美味い。 翔鬼は夢中で食べ始めた。
堂刹はそんな翔鬼を見て一段とご機嫌だ。
「翔鬼様!」
顔を上げると沢山の鬼達が酒の入った徳利を持って翔鬼の前に集まっていた。
先頭の鬼には見覚えがある。 前に金物屋に投げ飛ばした赤鬼だ。
「いやぁ~~~翔鬼様。 お久ぶりです。 俺の名前は斜恕と申します。 やはり只者ではないと思っていたのですよ。 以後お見知りおきを。 さぁさ···一杯どうぞ」
徳利を差し出すので湯飲みのようなデカい御猪口を差し出すと、なみなみと酒をついでくれた。
「翔鬼様、一気に!」
半ばやけくそで飲み干す。
次々に鬼達が酒が入ってた徳利や瓢箪を差し出すので、酒をしこたま飲んだ。
しかし体質のせいか、鬼神になっているせいか殆ど酔う事はない。 ほんの少しフワッとして気分が良くなる程度だ。
その時、鬼達がササッと場所を開けた。
どうしたのかと思うと四天王が前に来た。 赤い鬼神の楓儀が酒を差し出し、柊斗と、阮奏もそれぞれ徳利を持っている。
「あの時はありがとうございました」
「翔鬼様、物凄く強いそうですね。 お頭から耳にタコ···何度も聞かされましたよ」
横で機嫌よく酒を飲んでいる堂刹に気を配りながら青い鬼神の阮奏が小声で囁く。 すると白い鬼神の柊斗が「それも凄いのが···」と二人を押しのけて前に来る。
「慶臥を片手で抱き上げたままで幽鬼の大群と戦ったらしいじゃないですか!」
··· 堂刹はどれだけ話しを盛っているのやら ···
「抱いてなんてとんでもない、俺と手を繋いでいると石にならないので慶臥と手を繋いでいただけだ。 彼も凄く強いから助かったよ」」
「いやいや御謙遜を。 お頭からさんざん···沢山話しをきいていますよ。 本当に凄いって」
それ程でもと頭を掻きそうになるのを我慢して、口の端でフッと笑って見せた。
「いやぁ~~翔鬼様、カッコいいです!」
「アニキと呼んでもいいですか?」
「お頭の次に尊敬してます!」
多分、物凄く強い三人なのに、お調子者でノリが軽い。
テレビで放映中の<エンジェルハートデビル>に出てくる<三バカトリオ>という三人組のキャラクターを思い出して、そっくりだと笑いそうになった。
俺の次に、三バカトリオは隣の白狼の前に行く。
「白狼さんも強いそうですね!」
「強いうえに回復まで出来るなんて! 最強じゃないですか!」
「回復まで出来る白翼狼は、初めて聞きましたよ。 凄いですねぇ」
相かわらずよいしょの嵐だが、風儀が差し出す徳利を白狼が御猪口で受けた。
『えっ?!!』
よく見ると、普段はない親指が生えていて、器用に御猪口を持っている。
そういえば前に団子の串を持っていた事に驚いた覚えはあるが、今は箸まで持って器用におかずをつまんでいる。
『常識というものがない場所だ···』
思わず白狼の手に見惚れていた。
「翔鬼殿?」
声をかけられて驚いて顔を向ける。 目の前に慶臥が座って翔鬼の御猪口に酒を注ごうと待っていた。
「あっ···あぁ···あれ?」
瓢箪の色が他のと違うのだ。 普通は薄茶色だが慶臥が持っているのは赤い瓢箪だ。
「あぁ、この酒は知り合いの酒蔵から無理を言って秘蔵酒を分けてもらいました。 果実の酒で美味いですよ。 どうぞ···」
注がれた酒は少し黄色がかっていて香りはブドウジュースのようだ。 一口飲むと思った通りブドウの香りが口に広がり、ほんのりとした甘みがあって驚くほど美味い。
「この酒は本当に美味いな!」
「喜んでもらえて良かったです。 ところで翔鬼様が石にならないのは生まれつきですか? それとも何かの術で?」
「これはさる御方から授かったものだ」
「その御方を紹介してください。 俺も石にならない体を手に入れたいです」
「残念ながら名前もどこにいるかもわからない。 すまないな。 ところで···」
慌てて話題を変える。
「慶臥は四天王の中で一番弱いのか?」
白鈴に夢中になっている四天王の三人に聞こえないようにこっそりと聞いた。
慶臥がは自嘲的に笑う。
「奴らと直接戦った事はないです。 俺が一番新参だから···」
「それだけの理由で? 慶臥は強いのに」
「俺を一瞬で抑え込んだ人に言われてもなぁ。 でもここだけの話し、奴らには負ける気はしません」
堂刹にも聞こえないように小声で話す。 堂刹の周りにも鬼達が集まっていて、わいわいと騒いでいるので聞こえないだろう。
「とにかくありがとうございました。 この酒は、もし余ったら持って帰ってください」
そう言って白狼の前に移動した。
「白狼殿、先刻はケガを直していただいてありがとうございました」
白狼は「いや」と言うだけだった。
白狼の隣にいる白鈴は大人気だ。 四天王はもちろん、その後ろから鬼達も順番待ちをしている。
··· 顔は ··· 可愛いからな ···
慶臥がいなくなった途端に鬼達が押し寄せて、酒を勧めてくる。
みんな楽しい奴ばかりだ。 そのうち歌や踊りも始まって、いつまでもバカ騒ぎが続いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
多分、人間時間で数日は宴会が続いただろう。 お腹がいっぱいになり、初めての酒も沢山飲んで、慶臥に貰った赤い瓢箪を片手に気持ちよく大天狗邸に帰ってきた。
奥の部屋の布団に倒れ込むように横になると、自分でも知らないうちに防御結界を張って、死んだように眠りに落ちた。
そして白狼も自分の布団ではなく翔鬼の布団で一緒に寝ようとしたのだが、翔鬼が張った結界のために近付けなかった。 人間界でもいつも翔太のベッドに乗って一緒に眠っていたのに残念だ。
仕方がないので、すぐ横に丸まって眠りについた。
三バカトリオは私の小説の《エンジェルハートデビル》の3章に登場します(*^_^*)
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( v^-゜)♪




