第三十一話 幽鬼の群れ (後編)
刀を持っている無数の幽鬼が襲ってくる!
数が多すぎる!!
第三十一話 幽鬼の群れ (後編)
堂刹が大刀を一振りするだけで3体の幽鬼が霧となって消える。 それを皮切りに数えきれない幽鬼が一斉に襲ってきた。
幽鬼の剣技自体は大したことはないが、なにせ数が多い。 そしてどうやら幽鬼には恐怖心というものがないのだろう、打ち込む事をためらう事もなく構えながら隙を窺うという事さえなく、ひっきりなしに斬りつけてくるので、一瞬の油断が命取りになる。
こちらの5人は強い。 次々と幽鬼を霧に変えていく。
しかし幽鬼の数は減るどころかどんどん増えてくるような気がする。 黒雲がこの辺りを覆って真っ暗になっている。 もちろん鬼の目なら十分に見えるのだが、幽鬼は黒いマントを被っているので見分けにくい。
相かわらず幽鬼は翔鬼の顔を覗きに来る。 鬼神に興味があるのだろうか、慶臥の顔も覗き込みに来るのだが、不思議な事に慶臥の顔を見ると逃げてく。
『あっ、まただ···』
幽鬼は慶臥の顔が嫌いなようだ。 しかし今はそんな事を考えている暇はない。 翔斬刀はよくやってくれているのだが、手を繋いでいるのでどうしても動きに制限がかかる。
「ぐぁっ!!」
慶臥が後ろから腰辺りを斬られた。
「大丈夫か!!」
「あぁ···」
傷は深くなさそうだが動くたびに血が噴き出るが、今は白癒羽の治療を受けている暇はない。
『翔鬼様、慶臥殿と繋いでいる手を逆にして下さい。 そうすれば死角がなくなります』
翔斬刀が教える。 左手同士を繋げば背中合わせになる。
『もっと早く教えてくれよ』「慶臥! つなぐ手を左手に!」
背中同士になり、見極めやすくなった。
しかし、いつ終わるのか··幽鬼の数は一向に減らない。 慶臥以外大きなケガをしている者はいないが、それでもあちらこちら斬られていて、細かい傷が増えていく。
『翔鬼殿! マズいなこれは。 一旦引くか?』
堂刹が聞いてくる。 彼の体力は底なしのようでケガもないようだが幽鬼の数が多く、翔鬼達を庇うように戦ってくれているので戦局は厳しいようだ。 白狼の毛と白鈴の着物が赤く染まってきているのも痛々しい。
『引くと言ってもどこへ?』
『ここから一番近い町は桃の山村だ』
『でも幽鬼も結界を抜けられるんだろ? その村の中まで入ってくるんじゃないか?』
『クッ! 何かいい案はないか?』
堂刹と翔鬼は戦いながら思念通話で話し続ける。
『超高速で逃げるか。 堂刹は幽鬼を振り切れるか?』
『多分···しかし他の者は?』
『俺が慶臥と白狼を抱いて飛ぶから白鈴を頼めるか?』
『どちらの方向に?』
『とりあえず富士山から離れる方向だな』
『承知した!』
翔鬼は白狼を呼ぶ。
『俺が抱いて飛んでこの場を離れるからこっちにこい!』
『わ···わかった···ちょっと待ってくれ』
白狼も幽鬼に囲まれて身動きが取れない。
『白鈴! 堂刹がお前を抱いて逃げるから、奴の方に行け』
『分かったわ。 でも行けって言われても!! この野郎!! 邪魔よ!!』
固まって戦っていたはずだが、気付けばバラバラになっていて、近づくだけでも苦労する。
「慶臥! 俺がお前と白狼を抱えて超高速で飛んでこの場を離れる。 いいな」
「わかった」
「白狼の方に行くぞ」
堂刹も白鈴の方に行くのに苦労している。 白狼や白鈴の方に無理に移動すると隙が出来て攻撃を受けるので下手に移動できず、気持ちだけが焦る。
「うおぉぉぉ!! くっそぅ~~~っ!!」
その時、慶臥が叫ぶ。
「幽鬼が引いていくぞ!」
「どういうことだ?!」
慶臥が言う通り、幽鬼が富士山の方に帰っていく。
目の前で戦っていた幽鬼達も踵を返し、何かに呼び寄せられるように黒雲を引き連れて飛んでいく。
幽鬼達の突然の退却に、5人は去っていく黒雲を茫然と見送った。
「翔鬼殿。 どうなっているのでしょうか?」
「さぁ?···どちらにしても良かった」
「······」
慶臥はいつまでも幽鬼が消えていった富士の山を見つめていた。
···慶臥が敬語になっている···まぁいいか···
一緒になって幽鬼の黒雲を見送っていた白狼が思い出したように振り返る。
「ケガの治療をするから、とりあえず地面に降りてくれ」
白狼がみんなに声をかけるが、堂刹と慶臥はなぜ白翼狼が?と首をひねっている。 普通、白翼狼に回復の術はないし、傷薬を持っているとも思えない。
地面に降りると白狼の翼から手が伸びてきて白鈴の傷の手当てをし始めた。
「白翼狼には治癒の力もあるのですか?」
慶臥は不思議そうに聞いてくるが、思ったよりキズが深かったようで地面に降りた途端、座り込んでしまった。 腰から下が血で真っ赤になっている。
「白狼、慶臥を先に治してやってくれないか」
「わかった」
翼から伸びた指が傷口に薬を塗っていく。
しかし、さすがに堂刹にはキズの一つもないのには驚きだ。
みんなを治療していく白狼を、堂刹は腕を組んで見ていた。
『鎌鼬の傷薬は本当に凄いな』
堂刹が思念通話で話しかけてきたが、そんな事まで知っているのが驚きだ。
『どうして知っている?』
『ぬらりひょん殿に聞いた』
そういう事か。 勾玉を持つ者には知っておいてもらった方がいいだろう。
···しかし、慶臥にはどこまで話せばよいか···
完全にキズが治り、流した血まで消えているのに仰天している。
「白狼殿!! そんな力をお持ちとは! ありがとうございました」
感激して白狼に頭を下げ、今度は翔鬼に向き直る。
「翔鬼殿。 貴方のおかげで生き残れました。 ありがとうございました」
物静かで殆ど喋らない慶臥が感激してくれたことが、翔鬼も嬉しく照れ臭かった。
「い···いやぁ···大した事では···」
翔鬼は頭を掻く。
『しまった! クールに決めるのを忘れていた!』
一人後悔して落ち込んでいる翔鬼だった。
酒呑童子は直ぐ殴るのですね( ゜ε゜;)
三十一章に突入しました。 楽しんでいただけていますでしょうか?
まだまだ続きますのでよろしくお願いいたします!!




