第三十話 幽鬼の群れ (前編)
酒呑童子に配気をした。これで幽鬼に襲われても石にならなくなった。すると酒呑童子が···
第三十話 幽鬼の群れ (前編)
慌てて自分の胸の太陽魂を見ると、一つが黒く輝いている。
「わぉ! 堂刹がそうなのか! すげぇ! 白鈴、白狼、見たか?」
「酒呑童子が八人衆に入ってくれるなら心強いわ」
「良かったな翔鬼、これで5人目か」
堂刹が格下の翔鬼に呼び捨てにされたのにも関わらず嬉しそうに笑っているのを見て慶臥は驚いている。
実は、翔鬼達が来る前に自分は席を外されて、堂刹とぬらりひょんの二人で何やら話をしていた。 それからの堂刹は、ウキウキしていて楽しそうに見えた。
一体何の話をしたのだろうか。 慶臥には知る由もなかった。
「翔鬼殿、配気を」
「おう!」
ぬらりひょんに促されて翔鬼は立ち上がり、肩肌を脱いでいる堂刹の大きな背中の前に立ち、勾玉に手を置く。
「我が力を分け与える···【配気】!」
さすがに堂刹は声を漏らさなかったが、目を見張って翔鬼が離れてからも余韻を楽しんでいるようだった。
「これで···」
「おう。 もう大丈夫だ。 幽鬼に襲われても石になる事はないはずだ」
「かたじけない。 これで余も其方の御供ができるな」
「おれの御供?···」
翔鬼は驚いた。 酒呑童子とは鬼のボスだと聞いているのに、俺の御供をするって?
それ以上に驚いているのは慶臥だった。 配気の事も、堂刹に幽鬼の攻撃が効かなくなった事も、翔鬼のタメ口だけでも驚いているのに翔鬼の御供をするだって?!
信じられずに耳を疑った。
「部下たちを助けに行くのに、余も同行させてもらいたい」
「も···もちろんいいぞ。 では行こうか」
ぬらりひょんは留守番をするというので堂刹と慶臥、白鈴と白狼の5人でぬらりひょん邸を後にしたのだが、なんだか虎かライオンを連れて歩くような気分だった。 なにせすれ違う妖怪達みんなが慌てて道を開けてくれ、少し怯えた表情で振り返るのだ。
町を抜けて洞窟の所から飛んでいく。
堂刹が翔鬼に近付いてきた。
「翔鬼殿、思念通話の言霊を交わしてもらえないか」
「もちろん。 こっちからお願いしようと思っていたんだ」
お互いに言霊を交わした。
『どうだ? 通じるか?』
『もちろん』
『そうかそうか。 ハハハハハ!』
初めてでもないだろうに、堂刹は子供のようにはしゃいでいる。
『幽鬼がいるせいで、外には出ていなかったのか』
『外どころか、町にも出ることがなかったな。 怖いと思う訳ではないが、気分が沈んで何もする気にならなかったのだが、幽鬼の脅威がなくなったというだけで、気分がいい!
こんなに気持ちのいい遠出は初めてかもしれんハハハハハ!』
『それだけでも八人衆に加わってもらって良かったと思えるな』
『翔鬼殿の八人衆に加えていただけて、光栄でござります』
『やめてくれよ』
「「ハハハハハ!」」
思念通話を使って楽しそうに話し、笑い合っている堂刹と翔鬼の後ろ姿を、慶臥は複雑な表情で見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
四天王が石にされた場所は富士山の麓。 けっこう遠い。
その時、遠くに黒い雲が見えた。 幽鬼だ。
「余が行く!」
堂刹が飛び出していった。
「俺も行ってくる。 ここで待っててくれ」
大丈夫だとは思うが念の為に翔鬼もついていく。
堂刹は幽鬼の前で両手を広げて自ら冷気を浴びている。 もちろん何も起きる事はないのでハハハハハ!と、大笑いしている。
··· みんなやる事は一緒かよ ···
満足したのか堂刹の右手に身の丈ほどある長く大きい大刀が現れ、横に払って一瞬で黒い霧に変えた。
「見たか翔鬼殿。 痛くも痒くもなかったぞ! ハハハハハ!」
··· はいはい ···
その後も二度ほど幽鬼を退け、目的地はもう直ぐという時の事だった。
慶臥が富士山の手前にある小山を指さす。
「あの辺りです···あっ?···あれは?!···」
顔を上げた目に飛び込んできたのは、富士山の東の山向こうから真っ黒い雲が湧き出てきたのだ。 それがいつもと違ってモクモクといつまでも湧き出てきて、巨大な真っ黒い雲になって迫ってくる。
「あれは幽鬼だよな···どれだけの大群なんだ?」
「大雑把に見ても数百はいるぞ」
「なんて出鱈目な数なんだ。 妖界にこんなに幽鬼がいるとは知らなかった」
「そうだ慶臥、俺と手を繋げ」
翔鬼は慶臥に向かって左手を差し出す。
「いやだよ! 男と手を繋ぐなんて」
「俺と手を繋いでいれば石にならないんだ」
慶臥は翔鬼の差し出された手を見つめて迷っている。
「それともお前だけサッサと石になって待っているか? 終わったら元に戻してやるぞ」
「嫌だよ」
慶臥は仕方なく差し出された翔鬼の手をグッと握った。
『翔斬刀、頼む。 慶臥も離さないように頼むぞ』
『承知』
翔鬼(翔斬刀)はスラリと刀を抜いた。 慶臥の左手にも刀が現われる。
堂刹は余裕で構えている。
「幽鬼など、どれだけいても攻撃が効かないのだから問題ない。 ハハハハハ!」
どんどん黒い雲が広がってきた。 夕立雲どころじゃなく真っ暗な夜が迫ってきているように見える。
その時、白狼が叫ぶ。
「見ろ!! 幽鬼達が刀を持っているぞ!」
「「「えっ?!!!」」」
全員が目を凝らす。 そう言われれば何かがキラキラ反射している。
「本当だ! 刀を持っている」
全員に緊張が走った。 冷気の攻撃だけならこちらには被害はないのだが、武器を持っているとなると話しは変わってくる。 あれだけの数の幽鬼だとこちらもタダでは済まないだろう。
「皆の者、離れず固まって戦え! 下から攻撃を受けないように地面すれすれで戦うのだ!!」
堂刹が指示を出す。
全員が地面近くまで降りて幽鬼が到着するのを待ち構える。
白鈴と堂刹は両手に刀を出して構え、白狼は柄の両端に刀が付いている双刃刀を銜えている。
全員が地面近くまで降りて幽鬼が到着するのを待ち構えた。
『翔鬼、大丈夫?』
白鈴が心配してくる。
『翔斬刀が戦ってくれるから大丈夫だ』
『気をつけるのよ』
『おう』
翔鬼は翔斬刀を握り直した。
「来るぞ!!」
真っ黒い雲と共に、幽鬼の第一陣が到着した。
幽鬼の大群が刀を持つって反則だろう!!
( ̄□||||!!




