第二十九話 酒呑童子
町中でまた鬼達が猫娘にからんでいる。
第二十九話 酒呑童子
帰り道、また鬼達がたむろしている。 今度は可愛い猫娘に目を付けてナンパしているようだ。
翔鬼に「おい!!」と呼ばれ、弾かれるように振り返った鬼達はお互いをつつき合っていたが、我先に慌てて逃げていった。
小柄で可愛い猫娘は震えている。 白鈴の肩ほどの身長しかなくて、可憐なイメージだ。
「大丈夫か? 行っていいぞ」
そう言うと、可愛らしい猫娘は頭を下げながら小走りに走っていった。
『普通の猫娘は鬼に囲まれると震えてしまうような可憐なのが普通なのか···』
翔鬼は白鈴の頭からつま先までを目線で舐める。
『まぁ、白鈴は猫娘の姿をした白虎だかたしかたがないか』
ゴン!! 「イッテッ!!」
「貴方! 今、さっきの猫娘と私を比べたでしょ」
「わぁ! 白鈴も心が読めるのか?!」
「誰でも分かるわよ!!」
白鈴がまた拳を振り上げるので慌てて後ろに下がる。
翔鬼と白鈴がふざけ合っていると「おい」と、白狼が二人を止めた。
「慶臥が···」
見ると、鬼達は逃げていったにもかかわらず慶臥が残っていて、何か言いたげに突っ立っていた。 白鈴と顔を見合わせ、翔斬刀に意識を集中しながら慶臥の前に立つ。
「なにか?」
「あ···」
心は読めないが、敵意は感じられないので警戒を解く。
「なにか言いたそうだな」
慶臥は少し逡巡していたが「さっきは悪かったな」と白鈴に謝った。
「お前等もすまん···」
翔鬼と白狼にもチョコンと頭を下げた。 慶臥の精一杯の謝罪と感じて、許してやる事にした。
それで?と、話を促す。
「酒呑童子様にお前を···」慶臥はコホンと咳払いをする「翔鬼殿を連れてくるように言われている。 一緒に来てもらえないだろうか」
翔鬼は白鈴と顔を見合わせた。
「もしかして石にされた四天王のためか?」
「酒呑童子様の考えておられることは俺には分からない。 ただ連れてくるように言われているだけだ」
白鈴が一歩前に出て翔鬼の前に立ち『貴方は黙っていてね』と念押しし、可愛い顔で長身の慶臥を見上げる。
「ねぇ···理由も分からず強者のアジトにノコノコ出向く者がいると思う?」
「······」
「四天王を石から戻すのならもちろん協力するわ。 でも、それなら手下に力ずくで連れてこさせるのではなくて、自らお願いに来るのが筋ってものだわ。 違う?······四天王の事をお願いするのなら酒呑童子自らぬらりひょんの家にいらっしゃいと伝えて。 そこで話を聞くわ。 いいこと! 翔鬼、行くわよ」
「お···おう」
「······」
茫然としている慶臥を残してその場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
サルの一件以来「石になった者を助けて」という依頼がちょくちょく入ってくるようになった。 特に金を要求してはいないが、みんなは何某かの対価を置いていくので、少しずつだが金が溜まっていく。
飴以外に特に使い道はないが、とりあえず初めに清宗坊に貰った金を返しても手元にまだ残っている。
そして暫くサボっていた武術訓練を再開した。 実は慶臥に敵わなかったことが悔しい。 少しでも上達してやると意気込んでいた。
そんな訓練を終えた時、清宗坊が改まって話しがあると言い出した。
「翔鬼様に配気をしていただきましたゆえ幽鬼を恐れる必要もなくなりましたので、東の国に散らばっている町に行って、情報を集めてこようと思いまする」
清宗坊の采配で、この町に小天狗や小鬼を放って情報を集めていたのだが、一向に集まらない。 引き続き情報収集は行うが、幽鬼のせいで他の町との交流ができず、外からの情報が入ってこない。 そこで清宗坊が直接情報収集に行くという。
「俺達も一緒に行こうか?」
「御心配には及びませぬ。 小天狗達も連れて行くので心配御無用でござりまする」
結局、清宗坊は5人の小天狗と共に早々に発っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
主のいない大天狗邸で白鈴と白狼と共に武術訓練をしていると、金治が呼びに来た。
来客があるという。
急いで玄関に行くと、一人の小鬼が立っていた。 着物の様子からしてぬらりひょん邸の使用人のようだ。
「翔鬼様、酒呑童子様がいらっしゃると連絡がありましたので、ぬらりひょん様から御三人様を直ぐにお連れするようにと仰せつかってまいりました」
小鬼についてぬらりひょん邸に行くと、門の前に数十人の鬼達がたむろしていた。 翔鬼達を見るとザザッと道を開ける。
「あいつだ···翔鬼とか言ったか···」
「慶臥殿より数段強いって本当か?」
「あの猫娘、チョ~可愛いんだけど!」
「バカ、あの猫娘は恐ろしく強いんだ! お前なんか片手で捻り倒されるぞ」
心を読まなくても鬼達のヒソヒソ話は丸聞こえだ。
白鈴は強いと褒められて悪い気はしないようで、フフンと鼻を鳴らしている。
『なぁ白狼、女の子が強いって言われて嬉しいものなのか?』
人間なら「強い」と言われて喜ぶ女性は少ないと思う。
『当然強い方がいいだろう。 メスも強い方が強い子孫を残す。 それに俺も褒められると嬉しいしな』
···犬に聞いた俺が間違っていた······
屋根の上にいる見越し入道に手を挙げて挨拶してから中に入る。
通された部屋の中には既に酒呑童子らしき鬼と慶臥が、ぬらりひょんと並んで座っていた。
しかし、座っていて確かな事は分からないが、その鬼は2m半はありそうなほど大きい。 銀色の長髪で額には5本の角が生えていて、何と言っても恐ろしく美しい男だった。
翔鬼は思わず息を呑む。
「翔鬼殿、白鈴様、白狼殿。 こちらは酒呑童子殿でござります」
「余は酒呑童子の堂刹と申す」
酒呑童子は軽く頭を下げる。 三人が正面に座ると酒呑童子は翔鬼に目が釘付けになっている。
「先ずは手下どもが無礼を働いたようで、申し訳なかった。 余は言葉が足りんようだ。
改めてお願いに上がった。 石になった余の仲間を助けてくれないだろうか」
「四天王の三人が石になったという噂を聞いたが、彼らの事か?」
「そうだ。 余の知らぬうちに功を焦って···」
「酒呑童子殿」
ぬらりひょんは酒呑童子の話を遮る。
「その三人だけでよかったのかのう?」
「慶臥も一緒に行ったらしいが、こやつだけ命拾いして戻ってきた」
「では慶臥は三人が石になった位置がどこか知っているのか?」
翔鬼の問いに慶臥は頷く。
「それなら簡単だ。 さっそく行こう」
翔鬼が立ち上がりかけると待つのじゃと、ぬらりひょんに止められた。
「翔鬼殿はせっかちじゃのう。 その前に、話しておくことがあるのじゃ」
「なんだ?」
翔鬼は座り直した。
「少し前に百汰がわしの所に来てのう」
「あの···百目の?」
「ふむ。 清宗坊が留守ゆえ何かあると、わしに報告するように言われておったそうじゃ」
「それで? 何か分かったのか?」
「ふむ。 勾玉の持ち主がまた一人分かり申した」
「そうか! 誰だ! 俺が見た事ある奴か?」
「余だ」
答えたのは酒呑童子だった。
「へ?」
酒呑童子が右の肩肌を脱いで背中を見せると、肩甲骨の辺りに黒い勾玉があった。
あの酒呑童子が仲間!?(゜_゜;)




