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第二十七話 慶臥

幽鬼への恐れがなくなった白狼は、楽しくて仕方がない!!


 第二十七話 慶臥(けいが)




 再び石になった者達を戻していくのだが、白狼は尻尾をブンブン振り、舌を出してハッハッといいながらずっと空を見上げている。



 こんな白狼を久しぶりに見た。



 この妖界に来てからはいつも落ち着いていて頼りになる相棒だったのだが、人間界では俺が投げるボールをもっと投げてくれと、こういう表情で催促する。


 よっぽど楽しいみたいだ。



 暫くすると、遠くの方に2つの黒雲が見えてきた。

「任せろ!」と、飛び出していこうとする白狼に「待て!」をする。


「まだ遠い、もう少し近くに引き付けてから倒せ」

「お···おぉ」


 盛大に尻尾を振りながら構えて待っている。


「まだか? もういいか? もういいだろう?」


 興奮する白狼がなんだか可愛い。


「よし!」


 俺が号令を言うが早いか白狼は飛び出していき、あっという間に二つの黒雲を消して帰ってきた。




 幽鬼退治は白狼に任せる事ができるので、こちらの仕事がスムーズに進む。 初めは幽鬼が現われると逃げ惑っていたサルたちも、緊張はしているようだが落ち着いてきて、石になった仲間の位置を教えてくれる。



 結局、助けたサルは34人と退治した幽鬼5体だった。



 町に戻る時はもちろん抱いては行けないのでサルたちは走ってついて来るが、さすがに早い。

 四つ足で走るのもそうだが、木々を飛び移り、岩を飛び越えてついて来る。 30人以上なので上から見ているとなかなか壮観だ。





 江の坂洞窟内の結界を抜けた洞窟の出口に2人のサルがそのまま待っていた。

 助けられた者たちとキャッキャと抱き合い喜びを分かち合っている。



「翔鬼様、白狼様。 ありがとうございました」


 染太が代表して礼を言いに来た。


「これは少ないですが、オラ達の精一杯です」


 小さな巾着袋を差し出してきた。 中には砂金が入っている。 遠慮なく貰う事にした。


 サルたちはお礼を言いつつ散っていく。 それを見送ってから、翔鬼が突然振り返る。


「見てくれ! 初めて自分でお金を稼いだぞ!」


 袋の中の砂金がどれくらいの価値があるのかは分からないが、金額の問題じゃない。 翔鬼は少し大人の仲間入りをした気分になって嬉しかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 町に戻らずに久しぶりに土蜘蛛の巣に向かった。


 近付くと敬之丞(たかのじょう)が8本の足を広げて飛びついてきたので慌てて抱き留める。


「おい、ちょっと見ない間にデカくなったな」


 敬之丞は翔鬼の体を伝って背中に回り、特大のリュック状態になっている。

 初めて会ったときは1mもないほどで少し大きめのリュックのようだったが、今は翔鬼の胴体だけには収まらずに下側は足に(から)みついている。



「どうだ? 訓練しているか?」


 背中に向かって聞く。 顔のすぐ横に8つの目があるのだが、本当に可愛い。こんなぬいぐるみが欲しい。


「当然だ。 厳之丞(げんのじょう)影之丞(かげのじょう)もいるから練習相手には事欠かないぞ」

「そうか、頑張れ」

「おう!」


 その時、厳之丞の巨大な顔が近付く。


「翔鬼様、何かご用事でしょうか?」

「あ···そうそう。 敬之丞、降りてくれるか?」

「何かあるのか?」


 翔鬼の体から降りた敬之丞が見上げる。 


「俺の力を少し分けてやろうと思ってな」

「翔鬼様の力をくれるのか?!!」

「ていうか、幽鬼の攻撃にあっても石にならない力だ」

「「「えぇっ!!」」


 三人で驚く。


「ジッとしていろよ」と、翔鬼はしゃがみ込んで敬之丞の足に付いている勾玉に触れた。


「我が力を分け与える···【配気】!」


「おぉぉぉぉ···すげぇ~~!! すげぇ~~!! すげぇ~~!!」

「これでもう石になる事はないはずだ」

「すげぇ~~!! すげぇ~~!!」


 敬之丞はピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。


「厳之丞、影之丞。 勾玉を持つ者にしか与えられないんだ。 済まない」

「とんでもございません。 敬之丞を強くして下さってありがとうございます。 一層精進いたします」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 町に入って染太に貰った(きん)で肉味の飴を買い、舐めながら歩いていると、前から例の鬼達が翔鬼を(にら)みながら近付いてきた。 もちろん後ろから慶臥(けいが)が付いてきている。

 面倒だなと思いながら、飴の入った袋の口をしっかりと閉じてこぼれないようにしてからポケットに押し込んだ。



 案の定、鬼達が行く道を塞ぐ。


「なにか?」

「俺達についてきてもらおう」

「断る」


 知らない人に付いていったらダメよって、いつもお母さんに言われているからこんな胡散臭(うさんくさ)い奴らに付いていくわけにはいかない。


「では、力ずくでもついてきてもらう」


 前にコテンパンに()られたくせにと思っていたら、鬼達はザザッと下がっていき、慶臥の後ろに立つ。 なのに態度だけはやたらデカくて笑える。


 慶臥は頭を()きながら前に出てきた。


「俺達について来る気はないか?」

「ない」

「しかたがないな」


 慶臥の手に刀が現われ、少しめんどくさそうにゆっくりと構えた。


『白狼は下がっていろ』


 分かったと、白狼は少し下がる。



『翔鬼様、俺が···』


 翔斬刀が思念通話で言う。


『いや···自分でやってみる』


 白鈴や清宗坊との訓練で、かなり上達したと自負している。 どこまでやれるのか試してみたかった。


 翔鬼も正眼(せいがん)に構える。 

 ジリリと間合いを詰めてから打ち込んだ。


 カン!カン!カン! 簡単に受けられ、一歩飛び下がる。


『ヤッパ無理だ、頼む』

『承知』


 かなり上達したといえ、やはり本物の鬼神には敵いそうにないのであっさりと翔斬刀に主導権を渡した。

 翔斬刀の邪魔にならないように全身の力を抜いて構えなおす。


「まだやるのか? 痛い思いをする前に俺についてこないか」


 慶臥はめんどくさそうに聞いてきた。 先ほどの三太刀で大体の実力が分かったのだろう。 コテンパンにする前にちゃんと聞いて来るだけ優しさを感じる。


 ただ、面倒なだけかもしれないが···



「そっちこそ油断していると負けるぞ」


 選手交代した事は教えられないが、油断しないようにと注意してやるのも翔鬼の優しさだ。 しかし慶臥は「ふん!」と鼻で笑って攻撃してきた。


 袈裟懸(けさが)けに振り下ろした刀を受け流し、横に()ぎ払う切っ先をギリギリで(かわ)し、突いてきた刀を払い上げてそのまま刀の切っ先を驚いている慶臥の喉元でピタリと止めた。


 慶臥の手に持っていた刀がフッと消え、両手を上げて降参のポーズをした。



「行ってもいいか?」


 翔鬼が聞くと、慶臥は両腕を上げたまま、指先をピラピラ動かして追い払う仕草をする。


 翔鬼は自分と白狼の口に飴を放り込むと、ザザッと道を開けてくれた鬼達の間を悠々と通って家路についた。





『翔斬刀、ありがとう』


『恐れ多いです』






翔斬刀は強いのですね( ゜ε゜;)

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