第二十六話 配気
大天狗邸でくつろいでいると、訪問者があった。
第二十六話 配気
ある日、翔鬼に訪問客があった。
呼ばれて入り口まで行くと、清宗坊の前にいたのは着物を着たサルが3匹···いや···3人立っていた。
ちょっとテレビで見た猿回しを思い出す。
「俺が翔鬼だが、何か用か?」
三人は顔を見合わせてから、お互いをつついてお前が話せよ的な様子だ。 一番大きなサルが(立ち上がっても1mほどの高さだが)遠慮がちに話しだした。
「おいらは東町の食事処をしています染太と申します。
噂では···翔鬼様は石にされた者を元に戻す力をお持ちだと聞きましたが···本当でしょうか?」
「本当だが、それがどうした?」
三人は再び顔を見合わせてから、突如ひれ伏した。
「おいら達の石にされた仲間をお助け下さい!!」
「「お助け下さい!!」」
とても切実な様子だ。 大切な仲間なのだろう。
「いいぞ」
「へ?!」
こんなに簡単に返事をもらえると思っていなかったようで、3人は呆気に取られている。
「その場所はどこだ? 誰か一人道案内をしてもらわないといけないが」
「あっ! ありがとうございます!」
「「ありがとうございます!!」」
「あのぉ···それが···」
また染太だ。 さっき以上にモジモジと遠慮がちにしている。
「どうした?」
「あのぉ···石にされたのは1人ではないのですが···」
「何人くらいだ?」
「···申し上げにくいのですが、に···20人以上は···おりますと思いますです」
「それだけか? もちろんいいぞ。 すぐに行くか?」
三人は破顔して顔を見合せて頭を下げた。
「「「ありがとうございます」」」
染太が他の猿達の顔を見て頷いてから一歩前に出た。
「おいらが案内します」
「染太、頼む。 白狼、行くぞ」
歩き始めようとすると、清宗坊が呼び止める。
「翔鬼様、拙者もお供いたしましょうか?」
大天狗の清宗坊の言葉に3人のサルは目を見張る。
「いや、白狼と二人で大丈夫だ」
今度は驚いた顔で翔鬼を見る。
「では、何かありましたら【名寄せの制約】をお使いください。 それなら結界に左右されずに拙者を呼び寄せる事ができます。 お気をつけて行ってらっしゃいませ」
頭を下げる清宗坊を見て、3人は翔鬼と大天狗を交互に見比べていた。
「どうした? 行くぞ」
その言葉にやっと正気に戻った3人は動き出した。
前を歩く3人はチラチラ翔鬼を盗み見しながら歩いている。
···何だよ。 ちょっと気になるだろう?···
「俺に何か聞きたいことでもあるのか?」
「いえいえ、そういう訳ではないのですが···ただ、翔鬼様の事を大天狗様がいたく敬っておられる様子に少し驚きを···」
「そういうことか。 それは俺が清宗坊と小天狗達を千人以上は助けたからな、ハハハハハ!」
その話を聞いて3人は転びそうになっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
江の坂洞窟入り口まで2人は見送りに来た。
「頼んだぞ」
「気をつけてな」
「お···おう···」
染太は死地にでも赴くような死にそうな顔をしている。
「ここから飛んでいく。 俺の背中につかまれ」
「し!!···翔鬼様の背中にでございますか?! お···恐れ多い事です! 大丈夫です、走って行けます」
「飛んだ方が早いから···じゃぁ白狼の背中でどうだ?」
「よ···よろしいのでしょうか?」
白狼に恐る恐る聞く。
「かまわん、乗れ」
翼を下して乗りやすくしてやると、失礼しますと乗ってきた。
「行くぞ」
「しっかり掴まれ」
「はいぃ! ひゃあぁぁ~~~~······」
飛ぶのは初めてなのだろう。 振り落とされないように四本の足で白狼にしっかりとしがみついていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
江の坂洞窟をでて、染太が示す北の方に行くと、一つの山が幽鬼の集中攻撃を受けたように禿山になっていた。
「あの様子だと、一人や二人の幽鬼ではなかっただろう」
「はい。 あの時は十数人の幽鬼に囲まれて逃げ場もなく、全員が恐怖と混乱で正気ではいられませんでした」
「さぞ怖かっただろうな···」
「···はい···」
翔鬼は初めて幽鬼に襲われた時の恐怖を思い出したが、遠い昔の事のようでもあった。
その禿山に降り立った。 所々に青々とした木が残ってはいるが、ほとんどが茶色く変色して、葉は枯れ落ちていて、何だか痛々しい。
目の前にも石があったが、助ける前にやっておきたい事があるのだ。
「白狼、お前に試したいことがあるんだけど···」
ぬらりひょんに気孔を閉じる術を教えてもらってから、妖気が確実に溜まっていくのを感じた。 それに伴い新たな力を感じるようになったのだ。
「なんだ?」
「ちょっといいか?」
翔鬼は白狼の額にある勾玉に手を触れる。
「我が力を分け与える···【配気】!」
一瞬白狼の勾玉が光り、白狼から声が漏れ出た。
「うぉぉぉぉぉ・・・・」
「どうだ?」
「不思議な力が勾玉から入ってきた。 暖かくて優しい【気】だ。 これはなんだ?」
「多分これで幽鬼に襲われても石にならないはずなんだ」
「ほ!! 本当か?!! それは凄い!! 奴らに一矢報いる事ができる。 楽しみだ」
「俺の心がそうだと言っているが、本当に石にならないかは分からない。 それで試してみた」
「おう! 幽鬼が来たら私に任せろ」
とりあえず石になっている者を探し出して順に戻していると、冷気を感じた。 見上げると黒雲が近付いてくる。 染太と元に戻ったサルたちは慌てて木や岩の陰に隠れる。
「私に任せろ! 行ってくる!」
白狼が嬉々として飛び出した。
「あっ······しかたがないな···この辺りに隠れていろよ」
念のためサルたちにそう言うと、翔鬼は白狼の後を追う。
キラキラと光の残像を残して猛スピードで幽鬼に向かって行く白狼の口元に、長い刀が現われる。
「えっ?」
そのまま攻撃するのかと思いきや、目の前で止まって幽鬼の冷気をわざと受けている。
『翔鬼! 見えるか?! 大丈夫だぞ。 石にならないぞ。 ハハハハハ!』
それだけ言うと口にくわえた刀で幽鬼を仕留めた。
振り返った白狼は千切れんばかりに尻尾を振っている。
「翔鬼! 見たか? やったぞ!」
「うん。 良かったな。 ところで白狼は刀を出せるのか?」
白狼は「不思議な事を言うな?」的な顔を向ける。
「白鈴も清宗坊も刀を出せるだろう?」
「そういえばそうか。 白鈴は木刀も出すけど」
その木刀でしょっちゅう殴られる。
「翔鬼も出せるはずだぞ」
翔鬼は刀を出してみる。 手元にスッと刀が現われた。
「おぉぉぉ!」
刀と言えば翔斬刀と思っているからなのか、出てきたのは翔斬刀とそっくりな刀だった。
配気で幽鬼に襲われても石にならなくなった!
他の仲間にも配気してあげよう!!
( 〃▽〃)




