第二十五話 八人衆の五人目
石になった影之丞を元に戻しに結界の外に向かう!
第二十五話 八人衆の五人目
敬之丞は白狼の背中に飛び乗ってしがみ付く。
「では行ってくるが、白鈴、厳之丞に勾玉の事を聞いておいてくれ」
白鈴にそれだけ言うと、翔鬼と白狼は敬之丞を乗せて結界の外に向かって出発した。
結界を出て少し南に行ったところの森の中に居るという。 幽鬼が通った後の枯れ木の道があるので分かりやすい。 森に少し入ったところで枯れ木の道が途切れているのが見えた。 あの辺りだろう。
その時、空気が冷たくなってきた。 空を見上げると、黒い雲が凄い速さでこちらに向かってくる。
「幽鬼だ。 白狼はそいつと隠れていてくれ」
「わかった。 頼んだ」
白狼は敬之丞を背負ったまま大きな木の陰に身を潜ませる。
敬之丞は白狼の背中から翔鬼が幽鬼に向かって凄い勢いで飛んでいくのを見上げる。 幽鬼は素早い。 厳之丞でも一度で止めることが出来なかった。
『あんな弱そうな奴は返り討ちにあって石になってしまうんじゃないか?』
敬之丞はそう思って固唾を呑んで見ていたのだが、幽鬼に近づいたときにキラリと刀が光ったと思った途端、黒い雲と共に幽鬼が黒い霧になって消えてた。
一瞬で終わったのだ。
「·········」
翔鬼は余裕で戻ってきて、白狼に背中にしがみ付いたままの敬之丞に聞いた。
「待たせたな。 で···影之丞はどこだ?」
敬之丞は一つの岩を指差す。 木の陰に1mほどの石がある。
「こいつか。 いくぞ、アブラカダブラサッカーバドミントン! 元の姿に戻れ!!」
翔鬼は岩に優しく触って呪文を唱えてから少し離れて見ていた。
岩がザワザワと動きはじめ、厳之丞のミニチュア版が現われた。 敬之丞よりも一回り小さくて可愛い。
敬之丞は8つある目を凝らして少しずつ元に戻って行く兄弟を見つめていたが、本当にちゃんと元に戻った姿を見て喜んだ。
「本当に戻った···よかった! 実は翔鬼様が···」
敬之丞は影之丞に経緯を説明し、驚いて聞いていた影之丞は翔鬼の前に来て丁寧に頭を下げる。
「翔鬼様、ありがとうございました。 幽鬼を簡単に倒すなんて凄い御方なのですね」
8つもある目をキラキラさせて見上げる顔は、とても可愛い。
···影之丞は礼儀正しいんだな···あれ?··· さっき敬之丞が俺の事を翔鬼様って言わなかったか?······まぁいいか···
「翔鬼、厳之丞が待っているからさっさと帰ろう」
「そうだな、じゃあ一人は俺の背中に乗れ」
てっきり影之丞が乗りに来ると思っていたのだが、影之丞を押しのけて敬之丞が翔鬼の背中に飛び乗ってきて、影之丞は白狼背中に乗った。
なんでこいつが俺の背中なんだよと少し思ったが、そのまま飛び上がった。
敬之丞は器用に背中にしがみ付く。 まるで新製品のデイバックのように肩と腹に足をまわし、しっかりと固定されていて、思ったより重さも感じない。
背中の敬之丞が話しかけてくる。
「なぁなぁ、さっきの呪文、カッコいいなぁ。 あぶらかけたら···だっけ? そういえばあの術を誰かから授かったって言っていたよな、 神か? 魔物か? それとも人間の仙人からか?」
話してみるとやっぱり子供だなと思った。 自分も子供だけど···
「まぁ、そんなところだ」
「やっぱりそうか。 ところで翔鬼様は飛ぶのが早いな! さっきの幽鬼に向かって行った時もそうだし、厳之丞の足を斬った時には早すぎて見えなかったぞ!」
···あっ! やっぱり翔鬼様って言った···
「それに厳之丞の糸からどうやって抜け出したんだ? 土蜘蛛の糸から抜け出した奴なんかいるとは思わなかった。 その技も仙人から授かったのか?」
「まぁ、そのようなものだ」
糸が溶けた事は知らないようだ。 しかしそれも人間の力だから間違ってはいないだろう。
なぜか最初と態度が違う。 明らかに嫌われていたように感じていたのだが、今は好意がギンギンだ。
···いい事だからいいか···
「そういえば厳之丞が縫い付けたという幽鬼がいなかった。 そいつも糸から抜け出したんじゃないのか?」
「そりゃぁ、毒で死んで消えたのだろう」
「何の毒?」
「知らないのか? 土蜘蛛の糸には毒がある。 まぁ、猛毒ではないけど長時間糸に巻かれていると、少しずつ【気】がそがれて動けなくなり、そのうち眠るように死んでいくのさ。 死んでいく事も気付かないうちにな。 厳之丞の毒は多種多様で凄いし、逆に厳之丞に効く毒はないんだ」
「へぇ~~凄いな。 でも、厳之丞ばかり褒めているがお前も土蜘蛛なんだから、お前もじゃないのかよ」
「···俺は···いつかは厳之丞を超えるさ。 今はまだ毒もないし耐性もないが、厳之丞に鍛えてもらえば妖界一の毒使いになるさ」
「ハハハ、頑張れ······あっ···ちょっと待て! そういえば俺達も厳之丞の糸に捕まったぞ! 大丈夫なのか? 後から効いてくるという事はないのか」
本当に何も知らないんだなと笑う。
「あの程度の間なら心配ないさ」
よかった···ちょっと焦った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
戻ると、厳之丞が首を長くして待っていた。
白狼の背中に乗っていた影之丞は飛び降りて厳之丞の元に行く。
「厳之丞! 翔鬼様が助けてくれたんだ!」
「そうか···そうか···よかったなぁ」
···影之丞も父親を呼び捨てかよ···
厳之丞と影之丞は翔鬼の前に来て頭を下げた。
「「ありがとうございました」」
「いやいや···それより、あったか?」
白鈴に勾玉の事を聞いたのだが、首を横に振る。
「それが、清宗坊と一緒に厳之丞の隅々まで探したんだけど、どこにもなかったのよ」
「百汰が間違えるはずはないのですが···」
「ちょっと降りてくれるか?」
いつまでも背中につかまっている敬之丞を下して自分の胸にある勾玉を見ると、紫が確かに増えている。
「どこかに付いているはずだぞ。 確かに胸の太陽魂に紫の勾玉が増えている」
「勾玉って何のことだ?」
敬之丞が興味津々なので説明する。
「もしかして翔鬼様が言う勾玉ってこれの事か?」
影之丞の声に、みんなが一斉に振り返ると、影之丞は敬之丞の後ろ脚を指差していた。
「「「えっ?!!」」」
「えっ? わぁ、こんな所に何か付いてる」
敬之丞の後ろ脚に小さな紫の勾玉が付いていた。
「なぁ! これか? 翔鬼様が探している八人衆って、俺の事か?!」
「···そのようだな」
「やったぁ!!」
敬之丞はよほど嬉しいのかピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。
『なぁ白鈴、八人衆って何か強い者達のイメージがあったんだけど、こんなチビで合ってるのか?』
『いめーじってよく分からないけど、私も想像と違う事は認める』
いつまでも飛び跳ねて喜んでいる敬之丞は置いておいて、厳之丞が寄ってきた。 顔だけで2m近くあり、正面から見ると大迫力だ。
「白鈴様から詳しいお話は聞きました。 しかしご心配はいりません。 土蜘蛛は3日もあれば成獣になります。 それまでに十分に仕込んでおきます」
「俺の実力を見せてやるから楽しみにしておけよ!」
「そうか···楽しみにしているぞ」
やたら自身満々だが、とりあえず期待しておくことにしよう。
少し不安もあるが、敬之丞と言霊【思念通話】をして別れた。
敬之丞は生意気かと思ったら、なかなか良い子のようですね( =^ω^)




