第二十一話 初めてのお買い物
白狼と二人で町に出た!
第二十一話 初めてのお買い物
翔鬼と白狼のために用意された部屋の中は結構広くて二間続きになっている。
手前の部屋は板張りで人間翔太の家のリビングより広そうだ。
家のリビングは16畳なのでそれより広いという事は、この部屋は20畳以上はありそうだ。
真ん中に大きな絨毯が敷かれているのだが、分厚く柔らかくて気持ちいい。
部屋の奥の障子を開けると縁側があり、その先にある手入れされて美しい中庭が目に飛び込んできた。 本当に大きな旅館のようで、全てが行き届いていた。
奥の部屋にはベッドがある。 いや···ベッドというより、一段高くなっている所に布団が2セット敷いてある。 寝室ということか。
その部屋の隅には50㎝四方ほどの大きさの木箱が2個ある。 蓋を開けてみたが何も入っていない。
金治が説明しれくれた。
「それは御二方でお好きに使っていただいて結構です。 ただし、これは魂手箱ですので、物を入れたらその品物を入れた人にしか開けることができなくなるのでご注意ください」
···玉手箱って、開けたら煙が出てお爺さんになるんじゃ···あっ!···さっき開けたけど大丈夫だったな···
《魂手箱 魂によって開かれる箱》
···そんなのもあるんだ···
「翔鬼様、白狼様、これをお受け取り下さい」
一通り翔鬼が部屋を見終わったのを確認すると、金治は小さな巾着袋をそれぞれ二人に差し出した。 中を見てみるとキラキラ光るキレイな砂金が入っている。
「金だ」
「清宗坊様がご自由にお使いいただくようにと···」
「うん。 ありがとう」
ここで遠慮しても仕方がない。 ありがたく頂く事にする。
···お金持ちそうだし···
「御用がある時にはいつでもお呼びください」
金治は言霊【思念通話】で会話可能にしてから部屋を出て行った。
金治が遠ざかって行ったのを確認してから白狼が金の入った巾着袋を翔鬼に渡した。
「私には必要ないから翔鬼が持っていてくれ」
「え?···でも、俺もそんなにいらないし···そうだ!」
翔鬼は寝室の魂手箱を開けて、その中に白狼の巾着袋を入れた。
「そうだ、これも入れておこう」
携帯の電源を切って魂手箱に入れ、今度は反対のポケットに入っていた小銭を取り出した。 アイスを買おうと勉強机の引き出しの中にあるカンカンから適当に持ってきたお金だ。
小銭を手のひらに広げてみると、426円あった。 百円玉3個、50円玉2個、十円玉2個、五円玉1個、一円玉1個。
「50円玉が2個も入ってたのか」
そう言ってジャラジャラと魂手箱の中に入れて蓋を閉めた。
「アイスか······凄く昔の事みたいだ···」
翔鬼は絨毯の上に寝転がる。
···お母さんはまだ飛行機の中だろうな···3日後には何としても戻りたいな···あっ···母さんが電話をしてきたらどうしよう···無精だからいつもは電話なんてしてこないけど、こんな時に限って掛けてきそうな気がする···3日か···
翔鬼はガバッと起き上がる。
「どうしようもない事を心配しても仕方がない。 もっと楽しまないと! 白狼! 町に行くぞ!」
言うが早いか翔鬼は起き上がって部屋を出る。
「白鈴に言って行かなくていいのか?」
白狼は慌ててついてきた。
「そうだな。 言っておいた方かいいか」『白鈴! 町に行くけど一緒に行くか?』
思念通話で話しかける。
『行かないわよ。 でも大丈夫? あなた達だけで』
『だいじょうぶだろう。 翔斬刀と白癒羽もいるし』
『そうね。 まぁ、楽しんでらっしゃい』
『おう!』
◇◇◇◇◇◇◇◇
相かわらず町は楽しい。 見慣れない妖怪達や言葉を話す獣達。 黒や茶色、銀色の翼狼(白いのは見当たらない)や二本足で歩く狼男なんかもいる。 そして見慣れないお店に嗅いだことがない匂い。
全てが新しいアトラクションのようだ。
どこからか甘い匂いがしてきた。
探してみると、小鬼が店番をしている飴を売っているお店があった。 白、茶色、緑色、黄色、桃色。 色んな色の飴が木の箱に入っている。
色々あるんだなぁと覗いていると、後ろから法被を着たニホンザルが入ってきた。
「小鬼さん、緑と黄色を2袋ずつ」
「毎度」
小鬼は大きなスプーンのような物で緑の飴をすくい、紙袋にザザッと入れた。 黄色い飴も同じように袋に入れて金を受け取り、サルに渡す。
「ありがとう」と言いながら大事そうに袋を抱えて店を出て行くサルの後姿が、テレビで見た猿回しのおサルさんを思い出して、何だかおかしかった。
飴を食べてみたい。 そして「初めてのお買い物」のように、この妖界で買い物をしてみたいので、思い切って声をかけてみた。
「小鬼さん」
声をかけると、弾かれた様に顔を上げて、翔鬼の顔を見つめてからニッコリと破顔した。
「旦那。 飴をお求めですか?」
「これは色によって味が違うのか?」
「さようでございます。 これが薄荷、生姜、お茶、酒、肉でございます」
『に···肉?!』と思ったが、どうにか口に出さずに済んだ。
「全部の種類を2個ずつもらえるか?」
「毎度! この袋には一種類ずつ入っています。 全種類が欲しいという御方がよくいらっしゃるもので···」
そう言って、店の棚に置いてある飴が入っている袋を2個取る。
翔鬼は金の量が分からないので、掌に少しの砂金を出して差し出すと、小鬼はその中の小さい粒を一つ摘まんで自分の首に掛けてある袋に入れてから、飴の袋を翔鬼に渡した。
ついでに勾玉と石魂刀の事を聞いてみたが、知らないという答えだった。
「知り合いにも聞いてみます。 毎度ありがとうございます」
小鬼は翔鬼が店を出て行く間、深く頭を下げていた。
「やたら丁寧なんだな、小鬼さんって」
すると翔斬刀がクックックッと笑いながら答えた。
「翔鬼様のようなお強い御方が小鬼を《小鬼さん》と呼んだので、戸惑っていましたが嬉しかったのだと思います。 四神様をも呼び捨てにされる翔鬼様が小鬼を『さん』付けで呼ぶので、思わず吹き出しそうになってしまいました」
「先に入っていたサルがそう呼んでいたので、そう呼ぶものかと思ったんだ」
「そうでしたか。 小鬼や小天狗に敬称は必要ないかと···」
しかし、せめて四神様には敬称を付けてもらいたいものだと、翔斬刀はこっそり思った。
歩きながら飴の袋の中から一つ取り出した。 緑色だ。 口に入れると、ほんのりお茶の香りがして、美味しい。 人間界の物と同じように甘い。
肉味が楽しみだ。
「白狼も食べてみろよ。 美味いぞ」
次につまみ出したのが茶色の生姜だ。 それを白狼の開けた口に放り込んだ
バキッバキッ
白狼は放り込まれた飴をバキバキと噛んで、一瞬で食べてしまった。
「おいおい! 飴というのは口の中で舐めてゆっくり溶かしながら味わうもんなんだ。 一瞬で食ってしまうなよ」
「そういうものなのか?」
「一瞬で食うなよ」
次に取り出したのは桃色の肉味だ。 匂いを嗅いでみたが甘い匂いしかしない。 もう一つあるから後の楽しみにしておこうと思い、白狼の口に放り込む。
今度は噛まずにちゃんと舐めていて、口の中でカラコロと音が聞こえてくる。
「美味いか?」
「美味い」
「だろ~~?」
21章に突入しました!
妖怪の町で新たな生活が始まりました!
これからの翔鬼達の成長を楽しみにしていて下さい( v^-゜)♪
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