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第十九話 江の坂町

とうとう妖怪の町に入った。

見るもの全てが珍しい!


 第十九話  江の坂町




 そうしているうちに街に入った。 



 思った以上に立派な建物が多くて(にぎ)やかだ。


 大通りに出ると両側にずらりと店が並ぶ。 呉服屋に下駄屋、家具屋に鍋屋、ゴマや香草が並び御食事処や宿屋もある。 それぞれの店にはその商品の絵を描いた看板が掛けてあり分かりやすい。 例えば下駄屋なら下駄の模様が描いてある。



 とても活気があり大勢の妖怪が行き来していて、もしもその姿が人間なら、どこかの田舎の繁華街にでも来ているような気分になる。



 しかし面白い事に店員の殆どが獣か小鬼だ。 


 タヌキやサル、ネズミやクマまでいる。 みんな簡単な服を着ていたり前掛けを付けていたりして可愛い。


 そして小鬼は小さくて風貌も子供のようだが、あれで大人らしい。 翔鬼の胸ほどの高さしかない。 そしてみんな一様に一本角で、鬼といえば棍棒(こんぼう)を担いだ男のイメージがあるが、ほぼ半数は女鬼(めおに)だった。



挿絵(By みてみん)



 翔鬼は珍しそうに一軒一軒の店を覗き、すれ違う妖怪にいちいち感心していた。


「姿だけは大人だけど、やっぱりガキだわね。 恥ずかしいからあんまりキョロキョロしないでね」

「お···おぉ···」


 注意されても珍しいものは珍しい。 翔鬼は楽しくて仕方がなかった。




 その時、少し前の路地から坊主頭の子供が出てきて先を歩いて行くのだが、白くて短い着物に黒いスカートをはいていて提灯を持っている。


「おい白狼、あの坊主頭、スカートを履いているぞ。 それに昼間で明るいのにどうして提灯(ちょうちん)を持っているんだ?」

「さぁ?···」


 こっそり話したつもりだが、坊主頭は振り返って(にら)んできた。 なんとその顔には大きな目が一つしかなく、同じく睨んできた提灯には大きな一つの目と真っ赤な長い舌がベロンと出ている。


《一つ目小僧と提灯妖怪(ちょうちんようかい)。 二人一緒にいると提灯小僧とも言われる》


『に···睨まれた···』

《そのようですね》



挿絵(By みてみん)



 これからは妖怪を見ても声を出して感想を言うのは止めようと翔鬼は決意した。




 その時、前から何かが歩いてきた。 風船のようだがブヨブヨしていて、大きな肉の(かたまり)のようだが体中にある(しわ)の中に無数の目がある。


『なんだこれは···気持ちわる···』

百目(ひゃくめ) 沢山ある目の中には【透視(とうし)】や【千里眼(せんりがん)】等の力がある》



挿絵(By みてみん)



『千里眼?』

《遠くの物や出来事を感知できる能力》

『へぇ~~、凄いな』



 百目は真っ直ぐ翔鬼達の方に向かってきて、目の前で止まった。



「旦那。 お久しぶりでごぜえやす。 珍しい御方達と御一緒されているのが視えたので御挨拶に気やした」


 清宗坊の知り合いのようで、百目はプルルンと体の上半分を折り曲げて挨拶をした。 しかし、話している口の中にまで目があるのが見えて、鳥肌が立つ。



『声に出して気持ち悪いって言わなくてよかった···』



「この御方は翔鬼様、白鈴様、白狼様。 これからしばらく拙宅に御在宅される」

「わしは百汰(ももた)でごぜえやす。 お見知りおきを」


 体をプルルンと震わせながらお辞儀をするので翔鬼も軽く頭を下げた。



「そうだ百汰、お主に聞きたい事がある」

「なんでやすか?」


 プルルンと体を震わせ、嬉しそうに答える。 清宗坊に使われることが嬉しいように見える。


石魂刀(せっこんとう)の在り処について何か知らないか?」

「石魂刀でやすか?······残念ながら知らないでやす」


 (しばら)く考えていたが首(?)をプルルンと左右に振る。 明らかに落胆している。



「では、体に勾玉が付いている者を知らないか?」

「旦那、御冗談を···旦那方御三人様に付いているじゃないでやすか。 それと翔鬼様にも勾玉とは少し違いやすが、御三人様の勾玉と(つな)がりがある何かが···」


「百汰は流石(さすが)だな。 しかし我々以外に勾玉を持つ御方が何人かいらっしゃるはずなのだが、その御方達を探しておるのだ」

「旦那方以外で? 少し御待ちを······」


 百汰の沢山ある目が忙しなくキョロキョロと動き回り、何かを探しているようだ。 千里眼だと言っていたから、遠くの者の事を探っているのだろう。



『やっぱり気持ち悪い』



「今は見つからねえでやす。 遠すぎても見えないでやすし、結界の外にいても見えないでやすから、また注意して探しておきやす」

「頼んだ」


 プルルンと頭を下げてから百汰は去っていった。




 清宗坊がいつまでも百汰の後姿を見ている翔鬼に遠慮がちに声をかける。


「翔鬼様、この少し先の道を曲がると拙宅がございます。 参りましょう」



 再び歩き出したが、前から甘くていい匂いがしてきた。

 その店の前には長椅子が2台置いてあり、店内にも何台かの長椅子が並べてあった。 そして看板には三つの丸に棒が刺してある団子のような模様が描いてあった。


「わぁ···もしかして団子?···」


 つい声を出してしまうと、清宗坊が「召し上がりますか?」と聞いてきた。


 江の坂洞窟の町に来た時に[14:30]だったから、そろそろ小腹が空く頃だ。 それに妖界に来てからまだ何も口にしていないし、なにより妖界の団子を食べてみたかった。


 白鈴を見るとうんうんと頷いているので「食べてみたい」と言うと「それではここに御座りになり、お待ち下さい」と翔鬼達を座らせると、もし!と、中に呼び掛けた。



 中から可愛い女鬼が顔を出し注文を受ける。 清宗坊が懐から出した巾着袋の中からキラリと光る何かを女鬼に渡した。


『何だろう···お金かなぁ?』

(きん)です。 厳密には砂金。 団子程度なら砂金で払います》

『へぇ~~お金の代わりに(きん)を使うのか···そりゃぁ人間のお金なんてあるわけないもんな』




 翔鬼は長椅子に座ってボォ~~~っと道行く妖怪達を見ていると、3D映画かゲームの中にでも入り込んだみたいな気がしてきた。 

 特殊メイクやCG画面を目の前で見ているようで、現実味がない。


『まさか夢じゃないよな』


 よくテレビでするように、自分の頬をつねってみる。


「って」


 当然痛い。


「どうかしたのか?」


 白狼が心配そうに見上げるので「なんでもない」と、笑って見せたが、突然家とお母さんが恋しくなった。


『お母さんが帰ってくるのは3日後だからそれまでには戻らないとなぁ···宿題があと少し残っているのに夏休みが終わる前に戻れるのかなぁ···』


 翔鬼が感傷に浸っている時、女鬼がお茶と小皿に2本ずつの団子を持ってきた。


「団子だ! 美味そう~~!」


 女鬼はクスッと笑って、今店に入ってきたばかりの客のタヌキの注文を聞いて奥に入っていった。


 翔鬼は団子にかぶり付く。 今までに食べた団子と味や風味は違うのだが、思った以上に美味しい。


「うま!」


 お茶も飲みなれた緑茶とは味が違うが、以前に一度だけ呑んだ事がある柚茶(ゆずちゃ)に少し似ていて美味しい。


 美味しい団子とお茶で、さっきまでの感傷的な気持ちなどはどこかに吹き飛んでいた。



 そういえば白狼はどうやって食べているのかと見てみると、普通に手(前足)で串を掴んで美味しそうに食べているのに驚いた。 更に驚くことに前足の親指が伸びてきて普通に手のようになっている。




 さすが妖怪・・・・





白狼って、やっぱり妖怪! 

何でもありですね(;^_^A

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