第十八話 思念通話
奥に町があるという江の坂洞窟に入る。
第十八話 思念通話
江の坂洞窟の中にあるという町に近づいて来た。
突如、高い崖の縁に出た。 崖というより大きくえぐれたクレーターのような場所で中は鬱蒼と木が茂っているが、その中にはかなり大きな洞窟が口を開けているのが見えた。
洞窟の入り口近くまで木が生えているので幽鬼には見つかりにくそうだが、こんな洞窟内に町などあるとは思えない。
「この洞窟の中に町があるのか?」
「そんな所だわね。 行くわよ」
崖の上から飛んで降り、暗くて湿った洞窟内に入った。
思った以上に大きい洞窟だ。 入り口の広さは高さ20m、幅が40m以上はあり、奥はもっと広くなっている。
洞窟の中には大きな岩がゴロゴロしていて歩いて抜けるのは苦労しそうな場所だ。
しかし、入口は広いが入りを覆う鬱蒼とした木々が光を遮り、中にはほとんど光が届かず、奥に行くほど暗くなっていく。
『ここに町があるってどういう事だ? 長い洞窟を抜けた先に町があるのか?』
その時、あの薄いカーテンをフワリと潜り抜ける感覚があり、暗かった洞窟の奥から光りが差しているのが見えた。
「おい! 白狼、今の···?!」
「そうだな、私も感じた」
翔鬼は急いで携帯画面を見る。
[14:34]を指していて、秒針は動いていなかった。 やはり人間の世界に戻ったわけではなかった。
ただ、この姿のまま人間の世界に戻っても困る。 翔鬼と白鈴や清宗はもちろん、白狼まで見世物か研究材料になってしまうだろう。
暗い中に携帯の画面が辺りを照らしているのを見て、白鈴と清宗坊が驚いて覗いてきた。
「なぁに? それ」
「これは···人間の世界の、遠く離れた人と話ができる機械だよ」
「機械?」
「白鈴様、カラクリの事ではないでしょうか? 昔にこの世界に来た人間に聞いた事が···」
「そうなの? でも人間って不便ね。 遠くの人と話すのに、そんなカラクリが必要なんて」
「えっ? 機械がなくても話せるのか?」
「そうだわ! ずっと一緒だったから忘れていたわ。 言霊【思念通話】」
【思念通話】という言葉が翔鬼の胸に入ってきた。
『これで話せるわね』
白鈴の言葉が心の中で聞こえてきた。
「わぉ! すごい! これってどうするんだ?」
「心の中で私と話しがしたいと念じれば、通じるわよ」
翔鬼は念じて話してみる。
『聞こえるか?』
『もちろんよ』
「拙者もお願いいたしまする。 言霊【思念通話】」
清宗坊との話が出来るようになった。
「俺も言霊を使えるのか? 白狼とも話がしたいのだが」
「もちろんよ、さっき私がしたようにしてみて」
翔鬼は頷き、白狼に向かって「言霊【思念通話】」と言うと、白狼の前に浮かび上がった言霊が吸いこなれていった。
『白狼、聞こえるか?』
『おぉ! これは感動だな。 もちろん聞こえるぞ』
「俺にも出来たぞ! すげぇ!」
白鈴はクスクス笑う。
「自分が鬼神という事を忘れているようね」
「そうか···俺って他に何ができるんだ?」
「知らないわよ。 同じ鬼神でもそれぞれ力は違うから」
「何ができるのかわからないのか···困ったな···誰も知らないなら調べようがないなぁ···」
白鈴はまたクスクス笑う。
「大丈夫よ。 貴方の場合は元が人間だから元々の妖力が無いので、青龍の妖気を貰ってで鬼神になったけど、妖気が増えると自然と何ができるかわかるようになるはずだわ」
「え?···どうやったら妖気が増えるんだ?」
「何もしないでいいわよ。 この妖界にいるだけで」
「へぇ~~。 そういえば飛ぶのは妖気を使わないのか? 使い果たしたら困るだろう?」
「飛翔術は巻物と羽団扇の力だから、ほとんど妖気は使わないから心配いらないわ」
「そんなものなのか······」
翔斬刀と白癒羽とも思念通話ができるようにしておいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そうしているうちに洞窟の出口に近づいた。
何か見た事がある。 入り口の大きさや形など···入って来た時の洞窟の形に似ている。
表に出て振り返ってみると、やはり入って来た時の洞窟の形と同じだ。
「なぁ、白鈴。 洞窟の入り口に戻ってないか?」
「あぁ、そうだったわね。 来る途中の洞窟の真ん中辺りで結界があったのに気が付いた?」
「おぅ。 あのカーテンが結界だろ?」
「かーてん?」
「あっ···えっと···薄い布みたいなのを潜った感触の事」
「そうそう! あそこからこの結界の内側は裏表のような関係で、地形は同じなのよ。 妖界の町はこんな風に結界の中にあるのが殆どだわね」
「へぇ~~」
納得しながら翔鬼の頭の中で、変なタイトルが浮かんだ。
『【カーテンを抜けると町だった】?···いや違うな、【カーテンの向こうは妖界だった】···厳密には【カーテンの向こうも妖界だった】かな?』
将来はこの話を小説にするのも悪くないと思った。
洞窟から出て、そこを囲む崖の上に降り立つと、先には大きな町が広がっていた。 もちろん高層ビルなどはないが、1~2階建ての時代劇に出てくるような木造の街並みが見える。
端が見えないほどの大きな町だった。
「すっげぇ~~···」
ここは少し高台になっている。 坂を下り切った辺りから家が立ち並んでいる。
感心しながら坂を下りていると、ひょいと横の木の間から何かが投げこまれた。
いや、ピョンと飛んで来たのだ···傘が···?!
「えっ? 傘が飛んできた!」
《唐傘 傘の妖怪で、一つ目と長い舌、一本の足が特徴》
「そうだ、聞いた事がある! 唐傘だ! すげぇ···」
ピョンピョンと一本足で跳ねるように近付いてきて、清宗坊の前で止まった。
「旦那、お久しぶりでさぁ」
「甚平、久しいのう」
「この御方達は?」
翔鬼たちを珍しそうに見る。
「拙者の大切な客人だ」
「それはどうも」
甚平は大きな目玉だけを一度下に下げた。 どうやらこれが唐傘の挨拶の方法らしい。
「そうだ甚平、今からこの御方達を家に御連れする旨を、家の者に伝えてはくれないか?」
「がってん承知でさぁ。 では、お先」
甚平はピョンピョンと勢いをつけてジャンプすると、ブワッ!と傘を開き、クルクル回りながら町の方に飛んでいった。
「わぁ···飛べるんだ···すげぇ···」
思わず唐傘が飛んでいく後ろ姿をいつまでも見送っていた時、後ろからガラガラと何かが転がってくる音がした。
「ちょいとごめんよー!!」
慌てて道に端に避けながら見ると、木の車輪が燃えながら転がってくる。 その車輪の真ん中に、燃えている大きくて真っ赤な顔が付いていて、凄いスピードで通り抜けていった。
「な···なんだ?···」
《火車 悪行を重ねた者の死体を奪うと言われる妖怪》
今までにも色々な妖怪や獣を石から戻してきたが、獣はともかく妖怪は知らない者ばかりで面白い。
きっと人間界で見ると恐ろしく感じるのだろうが、自分も妖怪になったからなのかは分からないが、驚く事はあっても怖いとは思わなくなっていた。
そんな自分の心の変化に、翔鬼は自分でも不思議に感じていた。
次章は妖怪の町に入ります( ´∀` )b




