第十七話 八人衆の三人目
翔鬼の胸には「太陽魂」という模様があった。
第十七話 八人衆の三人目
白狼と大天狗の清宗坊の二人が勾玉を持っていて喜んでいると、知識の本の言葉が飛び込んできた。
《翔鬼殿の胸にある【太陽魂】に、八人衆の仲間になった者の勾玉に色が着きます》
「えっ? 俺の胸に太陽魂って何だ?」
翔鬼は服を引っ張り自分の胸を見ると、刺青のような質感で8個の勾玉が太陽のように丸く配置されている模様があり、それらを縫い留めるように蔦が絡んだような刺青が描かれている。 その中の青と緑と白い勾玉に色がついていた。
「おぉ! 俺の胸に模様があるんだが、緑と赤と···白い勾玉も色が付いているぞ? 白といえば白狼か白鈴だが、白狼は青だから白鈴か? どこかに白い勾玉が付いていないか?」
「えっ? 私? 勾玉が付いている所なんて見た事ないけど···」
白鈴は袖を捲ったり足を触ってみたりしているが、どこにもない。
「本当に私? もしかして朱雀じゃないの?」
「服を脱いでみろよ。 見えないところに付いているかもしれないぞ」
白鈴は服の襟元をギュッと抑えて、翔鬼を睨みつける。
「バ·バ·バ·バカな事を言ってるんじゃないわよ!! ガキだからって変な事を考えると許さないわよ!! フン!!」
プイッ!と後ろを向いた時、翔鬼が白鈴の襟の後ろを引っ張って引きおろそうとした。
「なぁにすんのよぉっ!!!」
バキッ!!
白鈴はクルッと向きを変え、翔鬼の顔を思いっきり殴った。
バキッ!! ゴロゴロ、ズドドン!
「わぁぁっ!!いてっ!!」
翔鬼は吹き飛び、転がって木の根っこに激突した。
「なに脱がそうとしているのよぉ!! 変態!!」
逆さまになって木の下で伸びている翔鬼に向かって、白鈴は真っ赤になって怒鳴った。
「イテテテテ···白鈴の首の後ろに···勾玉の模様があったように見えたから···確かめただけだよ···」
「えっ?」
白鈴に白狼が近付いてきて、白癒羽の翼が伸びてきた。
「白鈴様、私が見て差し上げます」
白狼の翼の中ほどから白っぽい獣の腕が伸びてきて、白鈴の襟の後ろを覗き込んだ。
「白鈴様! 白い勾玉があります! 首の後ろの付け根辺りです」
白鈴は手を伸ばして確かめている。
「あらやだ! これって勾玉?!」
「白癒羽は指先で視ることができるのか?!」
やっと起き上がってきた翔鬼が白癒羽を見て驚いている。
「よく似たものです。 そうでないとケガをした所にお薬を塗れませんから」
「それもそうだな。 よくできているなぁ···青龍の力もなかなかだな」
翔鬼は腕を組んで感心しきりだ。
「感心するのはそこ?!! 私に勾玉があったのよ!」
「だから見えたような気がしたから確かめようと思ったのに···いきなりグーで殴るなよ」
「あっ···そうだったわね···てっきり服を脱がせようとしているのかと思って···」
いきなりしおらしく上目使いで翔鬼に近づいてきた。
「早とちりしてしまって、悪かったわ。 大丈夫?」
白鈴は殴った翔鬼の頬を優しく撫でた。 翔鬼はボッと顔が赤くなって白鈴の手を払いのける。
「だだだだ大丈夫だよ! そろそろ行くか」
「フフフ、そうね。 じゃぁ、町に行ってみましょうか? ここから一番近い町は【江の坂洞窟】にある【江の坂町】だわね。 この辺りで一番大きくて賑わっている所よ」
翔鬼の頭に江の坂洞窟の場所が浮かぶ。
「わぉ! 町か! それは楽しみだ。 レッツゴー! じゃなくて、しゅっぱ~~つ!!」
そうそう!その前にと、翔鬼は気が付いて振り返る。
「朱雀と清宗坊、今までありがとう! じゃぁな!」
3人が歩き始めると、清宗坊がちょっとお待ちを···と、引き留めた。
「なにか忘れ物か?」
清宗坊は翔鬼の前に来て両手を太腿に付けて頭を下げる。
「翔鬼様、拙者も御供させて下され」
「清宗坊も来るのか? かまわないけど、烏天狗達はいいのか? やっと元に戻って、みんなを護ってやらないといけないのじゃないのかよ。 それに名寄せの制約をしているから、必要な時には来てもらえるし···」
烏天狗達をも纏める大天狗に一緒に来てもらうのは気が引ける。
「いいえ。 翔鬼様がこの世界にいらっしゃる間はずっと御伴させていただこうと決めておりましたでござる。 それに江の坂町に拙者の家がありまする。 そこを拠点として動かれてはいかがでしょうか?」
それを聞いて白鈴が胸の前で手のひらを合わせて喜ぶ。
「まぁ! そう言えば、大天狗の凄い家があるって聞いたことがあるわ。 それを見ることができるなんて楽しみ! さっそく行きましょう!」
白鈴が江の坂町まで飛んでいこうとすると、ちょっと待てと翔鬼が止めた。
「飛んでいかずに歩いて行こう」
「どうして? せっかく飛べるようになったのに。 飛んで行けば直ぐよ」
「そうだろうけど···石になった妖怪をできるだけ元に戻してやりたいんだ。 もしかしたら石にされた者の中に清宗坊のように勾玉が付いている者がいるかもしれないし、石魂刀のありかを知っている者がいるかもしれないだろ?」
「それはいい考えだ。 どちらにしても助けてやるのはいい事だな」
白狼が賛同し、清宗坊が嬉しそうに頷いている。
「あら! 翔鬼がそんなに思慮深いとは思わなかったわ。 その意見には賛成よ。 急ぐこともないから、助けながら行きましょ」
珍しく白鈴も素直に賛同した。
もう一度丁寧に朱雀に礼を言ってから四人は歩き始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
暫く行くと不思議な石があった。 木の枝に布のように薄っぺらい石がぶら下がっているのだ。
「これって妖怪だよな」
「多分ね」
翔鬼はいつものようにして石に触ってから、少し離れて見守った。
徐々に元に戻ってきたが、布がぶら下がっているだけだ。
「あれ? 幽鬼はただの布切れを石にしたわけじゃないよな」
近付こうとした時、風に揺られるようにフワッと布が捲り上がると、そこには目と口があり、手までがちゃんとあった。
《一反木綿 長さ約1反 幅1尺》
『【1反】とか【1尺】ってなんだよ···わからねーよ』
一反木綿は揺れながら翔鬼の前に飛んできた。
「助けてくれたんは、あんさんでっか?」
「あんさん?···あぁ、俺の事か···そうだ」
「ほんまにおおきにです」
「それはいいんだけど、聞きたいことがあるんだ」
「なんでっか?」
「体に勾玉が付いている妖怪を見た事ないか? こんなのだが」
白狼の額にある勾玉を指差す。
「勾玉でっか?···知りまへんな」
「じゃぁ、石魂刀という魔剣の事を聞いた事はないか?」
「石魂刀でっか?···申し訳ありませんがそれも知りまへんな」
「そうか。 ありがとう。 じゃぁ幽鬼に気をつけて行けよ」
「ほんまにおおきに。 おおきにでおます」
一反木綿は何度も頭を下げながら、森の木々の間をヒラヒラと飛んでいった。
そうやって妖怪や獣を次々と元に戻していったが、勾玉も石魂刀も知る者はいなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
<参考>
約1反(10m) 幅1尺(30㎝)
白鈴が三人目だったのですね。
(///ω///)♪




