第十五話 飛翔術取得
烏天狗の姿になっている朱雀が出てきた。
第十五話 飛翔術取得
その時、滝の中ほどの水の後ろから何かが出てきた。 烏天狗だ。 しかし、与作より大きく全体に赤っぽくて手には緑の巻物を持っている。
《烏天狗に間違いないが、朱雀の成れの果て》
「あぁ、朱雀か」
いつの頃からか翔鬼は四神に対して、敬称がなくなっている。
「翔鬼殿とお見受けいたしまする。 御明察の通り朱雀にござりまする。 御待ち致しておりもうした」
目の前に降りて来た朱雀は深く頭を下げた。
「白虎も一緒だったか」
「あら! 木霊に聞いてない? 私の名前は白鈴よ。 久しぶりね朱雀」
「そうじゃった。 すまんのう」
朱雀は手に持つ巻物で頭をポリポリと掻く。
「あの巻物は?」
《緑の巻物は【飛翔の巻】 飛翔術の言霊を巻物にした物》
「へぇ~~、その巻物で飛翔術を覚えられのか」
「よくご存じで」
まだ何も説明していないのに言い当てた事に朱雀は驚いて翔鬼を見上げた。
「あ···玄武に貰った知識の本が教えてくれたんだ」
「知識の本?···」
朱雀の目キラリと光る。
「知識の本とは翔鬼様の中に言霊で意識を入れる玄武の術でござりまするな。 要するに知識の本の言葉は玄武の言葉でござりまする」
翔鬼は驚いた。 しかし時々感情があるのではと思うことがあったのだが、これで納得いった。
「今まで教えてくれたのは玄武だったのか。 今までありがとう」
《······私の話をお忘れになりましたか? 私の名前は知識の本でございます。 知識の本が必要でないのでしたらお返事を致しますが···》
「ごめんごめん!! あっぶねぇ~~!! ありがとう、知識の本」
《ククク。 どういたしまして。 知れてしまったついでにお願いがあるのでございますが、よろしいでしょうか?》
「もちろん。 なんだ?」
《朱雀が赤郎丸に不意を突かれて羽団扇を取られたと聞きました。 大丈夫なのかと聞いていただけますでしょうか?》
微妙に含み笑いをしているように聞こえるのは気のせいだろうか?
仲間同士でそんな事はしないか···な?···
「朱雀、玄武が赤郎丸に襲われたようだが大丈夫かと心配しているぞ。 大丈夫か?」
朱雀の顔がヒクっと引きつったように見えた···?
「ご心配をおかけ申した。 相談があると言われて油断をしていた所を襲われてしまいまして、少しコブができた程度で、見ての通り大丈夫でござりまする」
そう言って、殴られた場所なのだろう、後頭部をなでながら話を続ける。
「これっぽっちも心配していない彼がわざわざ心配しているふりをするのは、私の恥を翔鬼殿に知らしめるためでしょうかのう」
《とんでもないです! 私は本当に心配して···》
「本当に心配していると言っているぞ」
「翔鬼様を謀って意識の中に入り込むしか能力がないから仕方がないのかのう···」
「謀ってって、何だ?」
《騙すという意味ですが、私は決して謀るつもりなどなく、まだこちらに来られたばかりの翔鬼様が不安に思われないようにと・・・》
「わかっている。 騙されたとは思っていない。 むしろ助けられてばかりだからな」
《嬉しいお言葉です》
「いつも姑息な手段で、いてっ!!」
いつの間にか手に持っていた木刀で白鈴が朱雀の頭を殴った。
朱雀は後頭部を押さえてしゃがみ込む。
「いたたた···同じ場所を···」
「いい加減にしなさい!! ほんとに仲が悪いんだから!! 玄武···じゃなかったわね、知識の本もいい加減にしないと、今すぐあなたの所に飛んでいって殴るわよ!! 朱雀も自分の役割をサッサと済ましなさい!」
フン!いい気味だ···と、心の中に聞こえてきたのは気のせいだろうか?···
朱雀はスックと立ち上がる。
「そうじゃ! 取られた羽団扇を取り返して頂いたうえに、清宗坊や天狗達を石から戻して頂いたという事。 誠にありがとうござりまする!」
太腿に拳を当て、頭を深く下げた。 清宗坊と同じ頭の下げ方だ。 この世界のお辞儀の仕方か?
「みなさんこちらへついてきてくだされ」
そう言って飛び上がり、滝の落ち口の横に連れて行った。
ここからの景色も素晴らしい。 しかし幽鬼が通った後にできる枯れた木の道はこの辺りにも数本通っているのが見えるのだが、緑一面のこの地ではそれさえも粋な模様にも見える。
「それでは今から翔鬼殿に飛翔術を御授け致します。
飛翔術はこの巻物を取り込むことで取得できるのじゃが、実はこの巻物は性能に問題がありまして、速さと敏捷性に欠けるのじゃ。 要するに早く飛ぶ事が出来ないのですじゃ。
残念ながらこれは訓練や経験で克服できるものではなく、元々の性能という事なのじゃの」
「では、どうするんだ? 何かいい方法があるのか?」
「はい。 そこで巻物で飛翔術を覚えると同時に、天狗の羽団扇の飛翔術を重ねてかけるのですじゃ。 天狗の羽団扇は早さも敏捷性も申し分ないのじゃが時間制限があるので···今、翔鬼殿に掛けている飛翔術もそろそろ切れる頃ですのじゃ」
「重ねてかける?」
「はい。 今から言霊で飛翔術を取り込んで頂きますが、それと同時に天狗の羽団扇で扇ぐのですじゃ。
ただ、扇ぐと言っても思い切り扇ぐので吹き飛ばされてしまいますが、地面に落ちるまでに制御できれば完了ですな」
「簡単だな」
「もし、制御が叶わぬ時には【とまれ】と念じてもらえれば大丈夫です。 声に出していただいても止まるはずですのじゃが、くれぐれも地面に落ちて止まってしまうと羽団扇の力は得られないと心得て下さりませ」
「わかった」
「それでは参りまする 【飛翔術取得】と唱えて下され」
「いくぞ···【飛翔術取得】」
朱雀が捧げ持っていた巻物が浮き上がり、翔鬼の胸の前に来ると、スッと胸の中に吸いこまれる。
「参ります!! 超高度飛翔術!!」
それと同時に清宗坊が両手で持っていた団扇を下から斜め上に力一杯扇いだ。
すると思った以上の凄まじい風に吹き飛ばされて、錐揉みしながら空に吸い込まれていった。
「わぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」
上も下も分からない。 コントロールどころではなかった。
「わぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!! どうすればいいんだよぉ~~~!!」
錐揉みしながら飛ばされていく。 すぐ下に森が近付いてきたのが分かった。
「やばいよぉ~~!!」
ザザザザッ!! 高い木の枝の間を落ちて行く。 地面はすぐそこだ。
「翔鬼様!! 止まれと!!」
翔斬刀が慌てて大声で教えてくれた。
「そうか!! 止まれぇ~~~!!」
その途端、ピタッと止まった。
頭が下に向いたまま止まり、上からバラバラと木の枝や葉っぱが落ちてくる。
ホッとして地面を見ると、白狼が翔鬼と地面の間で構えていた。
「白狼!」
「さっさと止まれよ!! 肝を冷やしたぞ!!」
珍しく白狼が怒り心頭の様子だ。 翔鬼が地面に激突するのを身を挺して受け止めるつもりだったようだ。
「ご···ごめん···」
「コントロールはできるか?」
「うん」
下向いていた体の向きを変えて、白狼の前に降りてきた。 それを見て白狼はホッとした。
「習得できたみたいだな」
「「おめでとうございます」」
そう言ったのは翔斬刀と白癒羽だ。
「翔斬刀のおかげだ。 ありがとう」
これで飛べるようになりましたね!




