第十三話 大天狗 清宗坊
石になった小天狗達を助けていく。
どれだけいるんだ?!
第十三話 大天狗 清宗坊
携帯を見ると、ちょうど14時を指していた。 青龍の所を出発してから既に30分(7日半)も過ぎている。
近くの石にされている者から触って助けていく。
「アブラカダブラサッカーバドミントン! 元の姿に戻れ!!」
岩から元に戻った者には、白狼が森に戻るように指示し、白鈴が幽鬼の警戒をした。
「アブラカダブラサッカーバドミントン! 元の姿に戻れ!!」
「アブラカダブラサッカー! 元の姿に戻れ!!」
「アブラカダブラ! 元の姿に戻れ!!」
「アブラ! 元に戻れ!」
「あぁ~~~!! めんどうだ!! 呪文はなくてもいいだろ?」
呪文を言うように言ったのは白鈴だ。 長い呪文にしてしまったのも失敗だったが白鈴の言い分にも一理ある。 それにしてもめんどくさい。
なにせ数百個もあるのだ。 それを考えるだけでも癇癪を起しそうになる。
白鈴はため息をついた。
「ふっ。 仕方がないわね、せめて『戻れ』だけでも言ってあげなさい」
「おう!!それなら簡単だぞ。 戻れ! 戻れ!」
スピードが上がり、翔鬼も機嫌よく岩に手を触れていき、戻った天狗たちは白狼に言われて急いで森に戻って行く。 相かわらず幽鬼も襲ってくるが、白鈴との手繋ぎ作戦で難なく倒していった。
中ほどまで来た時に、今までとは違う大きい岩があった。 元に戻った小天狗が言うにはその岩が大天狗だという事だ。
翔鬼は特別に丁寧に呪文を言う。
「アブラカダブラサッカーバドミントン! 大天狗よ! 元の姿に戻れ!!」
ゆっくりと元の戻るのを待っていたいが、先は長い。 待っている暇もないので、白狼に任せて他の小天狗達を戻すのに専念した。
白狼は大天狗の前で元の姿に戻るのを待ち、大天狗が完全に復活すると、他の小天狗たちと同じように森で待つように指示をした。 大天狗は黙って白狼に視線を下し、翔鬼達に視線を向けてしばらく観察してから森の方に飛んでいった。
その後も次々と烏天狗や小天狗たちを元に戻していく。 やっと終わった時、白鈴が数えていたところによると、1208人の天狗を元に戻したという事だ。
携帯の時間を見てみると、14:04を指している。 天狗たちを戻すのに丸1日ほどの時間を費やしていた事になる。 やっと終わって森に向かって歩き出した。
「わぁ···丸一日かかった···疲れてないけど疲れた···」
「よく頑張ったな、翔鬼」
「へへへ」
白狼に褒められてなんだかくすぐったい。
「「翔鬼様、お疲れ様です」」
鎌鼬の二人からも労われて、翔鬼は照れている。
「なにをこれくらいで褒められて喜んでいるのよ。 疲れてもいないくせに」
「疲れてないけど頑張っただろ?」
「こんなもの頑張ったうちに入らないわよ」
「白鈴は見ていただけのくせに」
「あら! 攻めてきた幽鬼を斬ったのは私よ」
「白鈴じゃなくて俺でもできたし。 それに俺と手をつないでないと石にされるだろ?」
「クッ···生意気だわね! ガキのくせに」
「今はガキじゃないぞ。 白鈴より大きいし」
翔鬼は背伸びをして上から白鈴を見下ろして、ヒヒヒと笑って見せた。 すると下から翔鬼の顎にアッパーカットが飛んできたが、体をそらしてパンチを避ける。
「まぁ! 生意気!!」
翔鬼と白鈴が喧嘩している間に、森に着いた。
森に入るなり、大天狗が仁王立ちで出迎えているのを見て二人とも黙り込んだ。
真っ赤な顔に長い鼻。 手には取り戻した羽団扇を持ち、何といっても長身の翔鬼より更に頭一つ分背が高い大男だった。
そんな大男が仁王立ちしているので、翔鬼達は一瞬構えたが、天狗は握り締めた両手の拳を太腿につけ、深く頭を下げてきた。
「羽団扇を取り返して頂いただけではなく、拙者や仲間の天狗たちまで元の姿に戻して頂きなんと御礼を申し上げてよいやら。 誠にありがとうございます」
もう一度深く頭を下げた。
「拙者は大天狗の清宗坊と申す。 名寄せの制約をさせていただきたく存じます」
そう言うと、【清宗坊】という文字が翔鬼の前に現れ、スッと体に入ってきた。
《名寄せの制約。 言霊の制約の一つ。 目の前に現れるように願いながら名を呼ぶと、お互いがどこにいようと制約した者が目の前に現れる》
『へぇ~~、そんな言霊もあるんだ』
翔鬼は一人で感心する。
「必要な時はいつでも拙者の名を呼んで下され。 いついかなる時にもはせ参じます。 しかしながら、取り急ぎ済ませねばならぬ事がありますゆえ、この場はこれにて失礼致しまする」
清宗坊はもう一度深く礼をしてから飛び上がった。 そして軽く羽団扇で自分を扇いだかと思うとスッと姿が消えたのだった。
「わっ! 消えたぞ」
「あれは羽団扇の力よ。 他にもいくつかの能力あるのよ」
「へぇ~~~」
二人ともさっきまでの口喧嘩の事はすっかり忘れている。
今度は与作が目の前に飛んできた。
「清宗坊様が御礼を申しておりましたが、重ねて御礼を申し上げます。 誠にありがとうございました」
与作と共にいつの間にか増えている数千の烏天狗と小天狗たちが頭を下げた。
「それと僭越ながら私の名前もお受け取り下さい。 名寄せの制約をさせていただきます」
翔鬼は【与作】という文字を受け取った。
「私の力はそれ程強くはございませんが、この世界の中で天狗族の数は一二を争います。 数が必要な時には是非とも我らの力をお使いください」
名残りを惜しまれながら、翔鬼達は出発した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
歩きながら腰の刀の翔斬刀と白狼の翼の白癒羽がブツブツと話し合っている。 二人とも名寄せの制約をしなかった事が悔やまれると言っている。
「今からするか?」
翔鬼が提案すると、ハハハハハ!と白鈴に笑われた。
「何がおかしいんだよ」
「翔斬刀も白癒羽も、翔鬼と白狼から離れる時は元の姿に戻る時なのよ。 今は本当の名前で制約する訳にはいかないし、今の名前で制約しても意味がないのよ。 わかった?」
「へぇ~~白鈴は賢いな。 何でも知ってそうだもんな」
「当然よ。 こう見えても四神なのよ」
「ふ~ん」ちょっと見直す。
翔鬼は小声で腰にぶら下がっている翔斬刀に話しかけた。
「なぁ···四神って年寄りなのか?」
「えっ?!···そ···それは···」
見た目はただの刀なのに、焦って見えるのはなぜだろう?
その時ゴン!!と、頭を棒で殴られた。
「いってぇ~~~っ!!」
「まだガキだから知らないのかもしれないけど、大切な事を教えてあげるわ! どこの世界でも女性の年齢には触れてはいけないのよ! わかった?!」
「わかったよ···口で言えよな···すぐに殴るんだから···」
頭をさすりながら答えた。
その時、道の先に大きな石が見えてきた。
「なぁ、あれって誰かが石にされたんじゃないか?」
今まであまり気にしていなかったが、これまでも時々石があったような気がする。 気にせずに素通りしていたが、天狗達の事があって素通りするのは忍びない。
「そのような気がするわね」
「だろ? ちょっと人助け···じゃなくって妖怪助けでもしようか」
直径2mほどの大きな石だった。 翔鬼は例の呪文を唱えて石に両手を添える。
「アブラカダブラサッカーバドミントン、元に戻れ」
3人が見守る中、表面がザワザワ動き始めて何かが丸まっているような姿が現われた。
「まずい! 野槌だ!!」
先に襲われた物よりずいぶん小さかったが、それでも口の大きさが50㎝はある。
野槌は元の姿に戻った途端、その口を大きくひらいて目の前にいた翔鬼に襲い掛かってきた!!
天狗族の頂点である清宗坊を助けた。
直ぐにまた会うことになります( =^ω^)




