第十二話 鬼と天狗の羽団扇
定期的に襲ってくる幽鬼を難なく倒して洞窟にたどり着いた。
中には赤鬼がいた。
第十二話 鬼と天狗の羽団扇
その後も何度か幽鬼に襲われた。 遮るものがないこの場所は幽鬼にとってはいい狩場のようで、定期的に襲ってくる。
しかしお約束のように翔鬼の顔を覗き込みに来る幽鬼は、簡単に白鈴の餌食になっていく。
そうしているうちに山の麓に到着した。
この辺りには疎らだが木が生えていて、山肌をよく見ると蔦が覆い被さっていて分かりにくいが洞窟の入り口があった。
その洞窟の前には大きな石が入り口を半分隠すような位置にある。
翔鬼達はその隙間をすり抜けて注意深く洞窟に入った。
中は案外広くて奥が深い。 ほとんど明かりがなくて真っ暗なのにも関わらず普通に中が見える。 これも鬼の能力なのかと翔鬼は感心した。
奥の方に何かがいる気配がする。 ゆっくり近づくと「誰だ!」と声がした。
翔鬼達が通路を抜けて気配のする開けた場所に入ると、そこには物語などに出てくるような鬼が胡坐をかいて座っていた。 翔鬼と違って赤い体はガッチリしていて、二本の角と下アゴから突き上げるように生えている牙が見える。
···赤鬼がいるという事は青鬼もいるのだろうな···
そんな事を呑気に考えていた。
「鬼神・・・様?」
その赤鬼は怪訝そうに侵入者達を見つめる。
「えっと···天狗の羽団扇を烏天狗に頼まれて探しに来たんだが···」
赤鬼はそっと何かを自分の後ろに隠した。 天狗の羽団扇がどんなものかは知らないが、後ろに隠したのは団扇のように見える。
白鈴が一歩前に歩み出た。 彼女も赤鬼が後ろに隠したものを見ていたようだ。
「その羽団扇は天狗のものよ。 なぜ羽団扇を盗んだの? 返しなさい!」
赤鬼は諦めたように居住まいを正し、正座をして羽団扇を前に差し出した。
赤い羽でできたとてもキレイな羽団扇だ。
「申し訳ありません。 実はこの羽団扇で扇げば幽鬼に石にされた者を元に戻す事ができるという噂を聞きましたので、つい···」
「そんな噂をどこで聞いたのかは知らないけど、羽団扇にそんな力はないわよ」
「ちょっと待て。 もしかして誰かが石にされているのか?」
翔鬼が気付いて聞くと、赤鬼はガックリとかたを落とした。
「はい···仲間がこの洞窟の入り口で石に···」
「それなら簡単だ! 俺が触ると、いてっ!!」
白鈴にわき腹を突かれた。
「なにするんだよ!」
「ちょっと来て!」
白鈴は白狼に待っているように言うと、赤鬼にも可愛らしくちょっと待っててねと言って、翔鬼の服を掴んで洞窟の入り口辺りまで引っ張っていく。
「なんだよ!」
白鈴は小声で話しだす。
「いいこと?···普通は鬼神には石にされた者を元に戻す力なんてないの」
「だから? もう白狼や鎌鼬達を元に戻してるけど、何か問題があるのか?」
「だ·か·ら···今までは問題なかったけど、貴方にそんな力が初めから備わっていると分かれば色々と問題があるのよ」
「なんで? 色々な能力があるんじゃないのかよ」
「色々あってもその力はないの! ただ、石から戻してあげる事はいい事だわ。 そこで、その特別な力は誰かから授かった事にして、石に触る前に何か呪文でも言うってのはどうかしら?
あちらにしても有難味が増すでしょうし、霊験あらたかな感じがするでしょ?」
白鈴は赤鬼がいる奥の方をチラリと見た。
翔鬼は腕を組んで考えていたが、一つ頷くと「オッケー」と親指と人差し指を輪にして三本指を立てて見せた。
「おけってなに?」
「あっ···」
オッケーは英語だ! 妖界では使えない事に気が付いた。
「了解って事だよ。 じゃあそういう事で···」
翔鬼は赤鬼の前に戻る。
「コホン! 実は誰からとは言えないが、拙者は石にされた者を元に戻す力を授かっておるのだ。 其方の仲間を元の姿に戻してしんぜよう! エッヘン!」
赤鬼の顔がパッと明るくなった。
「本当でございますか!! 鬼神様! ありがとうございます!!」
「翔鬼と申す」
「失礼致しました! 翔鬼様!!」
赤鬼は頭を下げて地面に角をこすりつけていた。
みんなで洞窟の入り口に向かう。
白鈴がまた翔鬼の脇腹を突いてきた。
「あなた···話し方が変よ···また殴られたい?」
「えぇ~~···分かったよ」
ちょっと偉そうでいいかと思ったのにと、翔鬼は少し残念だった。
入り口の大きな石の前に立った。
入口にある邪魔な石が例の石にされた仲間だそうだ。 言われてみれば赤鬼と同じくらいのサイズの鬼が入り口を隠すようにしたままで石にされたようにも見える。
「いくぞ」
「お願いします!」
赤鬼が羽団扇を握り締めて、祈るようにして見ている。
翔鬼は暫くの間、祈るようにして石に両手を付けてから、アニメか何かで見た事がある祈祷師ように両手をこすり合わせるような仕草をした。
「アブラカダブラサッカーバドミントン! 元の姿に戻れ!!」
赤鬼が固唾を呑んで見ていると、岩の表面がザワザワし始めて、岩肌が溶けるようにして青い体が現われた。
それは額に二本の角がある青鬼だった。
赤鬼は青鬼に駆け寄り、抱きしめた。
「青兵衛丸!! おいらだ!! 分かるか?!」
しばらく呆けていた青鬼の焦点が合ってきて、目を見張る。
「赤郎丸!! お···おめえは無事だったのか!!」
赤鬼と青鬼は抱き合っていたが、赤鬼が事情を説明すると二人で翔鬼に向かってひれ伏した。
「「ありがとうございました!!」」
「元に戻れてよかったな」
赤鬼が天狗の羽団扇を捧げ持ってにじり寄る。
「お返しいたします。 朱雀様にはくれぐれも申し訳ございませんでしたとお伝えください」
「もしかしてこの団扇を朱雀から盗んできたの?」
白鈴が羽団扇を指差して呆れたように驚く。
「···はい······申し訳ありません!!」
青鬼は赤鬼を驚いて見つめ、赤鬼は再び地面に角を押し付けた。
二人はいつまでも頭を(角を)地面にこすりつけたままだ。 もういいから起き上がるようにと言っても聞かないので、早々に戻る事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
森に戻ると、小天狗たちがいない。
あれっ?と思っていると、何もなかったあちらこちらの木から、ワラワラと小天狗たちが出てきた。 どうやら木や枝に擬態して身を隠すことができるようだ。
与作が出てきたので、翔鬼は「ほらよ」と、羽団扇を投げて渡した。
慌てて受け止めた与作は羽団扇を裏表返して確認したのち、大事そうに胸に抱えた。
「確かに天狗の羽団扇です。ありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
周りの小天狗たちも一斉に礼を言う。
「ねえ、どうして大天狗がいないの?」
白鈴のその声に小天狗たちは一斉に黙り込み、バツが悪そうにお互いをチラチラと見合っている。
「どこかに行ってるの? それとも幽鬼に恐れをなして、あなた達を置いて逃げたの?」
「とんでもございません!!」
与作が両手を左右に振る。
「実は···あそこに···」
与作が指さしたのは先程の草原の方だ。
「もしかしてさっきの鬼の所か? そこにはいなかったぞ」
「いいえ···幽鬼に石にされて···」
三人は草原を見た。 凄く沢山の石が草原に点在している。 もしかして······
「もしかして、あの石は全て天狗達なのか?!」
そう聞いたのは白狼だ。 言われてみれば生き物に見えなくもない。 しかし、草原一面にある石の数は数百は下らないだろう。
「そうでございます。 朱雀様が羽団扇を盗まれたのが分かり、取り戻そうと鬼の洞窟に行こうとしたのですが、羽団扇がないので大天狗様が石にされ、何とか鬼の所に行こうとした小天狗たちも次々に石にされてしまい、途方に暮れておりました」
与作はガクンと肩を落とす。
「翔鬼···私からも頼む」
白狼が主人を見上げる。 自分も助けてもらった身だ。 放っておけない。
しかし数が多い···多すぎる。 しかし時間はたっぷりあるしお腹も空かないし疲れない。 それにあのままにしておく訳にもいかない。
「お···おう。 もうやけくそだ。 与作!」
「はい?!」
「実は誰からとは言えないが、拙者は石にされた者を元に戻す力を授かっておるのだ。 其方の仲間を元の姿に戻してしんぜよう!」
「本当ですか?!」
先ほど鬼に言ったのと同じように話すが、言葉使いがおかしいと白鈴に注意されたことを思い出した。
すかさず白鈴が拳を振り上げたので条件反射で思わず頭を押さえる。
「えっと···」
ビビった翔鬼を与作が不思議そうな眼差しで見ていたので、慌ててシャキッと姿勢を正した。
「コホン! せっ···俺が元に戻してやるから安心しろ。 森の外は幽鬼が来るからここで待っていろよ」
そう言うと、翔鬼、白鈴、白狼は草原に飛び出した。
今度は数百の天狗達を助ける事になった!!
数が多い···( >Д<;)




