第十一話 烏天狗
沢山の小さな妖怪に囲まれた!
第十一話 烏天狗
しばらく行くと、どこから出てきたのか突然黒っぽい妖怪が群れを成して飛んできて翔鬼達を取り囲み、こちらに槍を向けている。 百羽以上はいそうだ。
「なんだこいつら?」
《小天狗。 カラスのような真っ黒な翼と嘴をしており、自在に飛翔することが可能。 幾つかの階級があり、小天狗、烏天狗、鼻高天狗、大天狗などがある》
「俺たちに何か用か?」
翔鬼は小天狗達を見回す。
大勢でこちらに矛先を向けている割には、みんな腰が引けている。
ただ襲いに来たのではなさそうだ。 なにやら小さいの同士で話し合っている。
「「鬼だ! 鬼だ!」」
「おい! この鬼とは違うぞ」
「鬼は鬼だろう?」
「この鬼は神鬼だ」
『神鬼?』
《神鬼。 鬼の力を超えた三本角の鬼》
『鬼の力を超えているってなんだ? 要するに俺って、ただの鬼じゃないのか?』
《鬼には無い特殊能力を備えている。 鬼神によって能力は様々》
知識の本に教えてもらっている間にも、小さいの達の相談は続いている。
「そうだ。 この御方は神鬼だ」
「それにあの鬼は白翼狼も猫娘も連れていなかったぞ」
どうやら人(鬼)違いのようだ。
「しかし仲間かもしれないぞ」
「でも、あれを持っていないし」
「うん。 あれがないと困る」
「あれの事を聞いてみろ」
「あんな貴重な物の事は知っていても話さないのじゃないか」
「しかしあの御方が、あれがないと困ると仰っていた」
「あそこを棲みかにする鬼が持って行ったのは分かっているのに」
「俺たちには行けない」
「なぁ・・・この神鬼様に向けている矛先をどうする?」
「あの鬼ではないがあれを知っているかもしれないから脅すより聞いた方がいいのじゃないか?」
「そうだな。 これだけの数に囲まれているのにこいつらには恐れがない」
「脅すより下手に出た方がいい」
「しかし下手に出て俺たちに襲ってきたらどうする?」
「その時は散るか隠れるかで逃れるとしよう」
「こいつら、俺たちに話しが丸聞こえなのが分かっていないのか?」
小声で白狼にささやいた。
「親玉らしきものがいないな」
「そうよね···確か大天狗がこの辺りにはいたはずなんだけど、どこに行ったのかしら?」
白鈴は周りを見回すが、それらしき影は見当たらなかった。
翔鬼達が小声で話している間に、小天狗たちの話しがまとまったようだ。
一羽だけ少し大きいのがいる。 それが烏天狗だと知識の本が教えてくれた。
その烏天狗が槍先を下して低姿勢で話しかけてきた。
「御高名な神鬼様とお見受けします。 私はこの群れのまとめ役をしている与作と申します。 ところであの山の麓に住む鬼は御存じでしょうか?」
与作は東にある高い山を指差した。 もちろん他の鬼を見た事もないし、この地より東にも行った事もないし、御高名でもない。
「残念ながら知らないな。 なぜだ?」
与作たちはまた頭を突き合わせて話し合いを始めた。 さっきと同じような会話が聞こえてきたので、こちらから聞いてみる。
「何かがなくなったのか?」
翔鬼のその言葉を聞いて、与作と小天狗達は弾かれるように顔を上げた。
「なぜその事を?!!」
···本当に俺達に聞こえてないと思っていたんだ···
「さっきの君たちの話が聞こえたから···」
「そ···それは御見それ致しました」
与作は頭を下げるが、君たちの話し声が大きかっただけなんだけど···烏天狗って少し頭が弱そう···
しかしそう思わせておくのもいいだろう。
「それで何がなくなったんだ?」
与作は少し言いあぐねていたが、他の小天狗につつかれて「実は···」と、話しだした。
「天狗の羽団扇を鬼に奪われてしまいました。 さる御方にお貸ししておりましたのですが、不覚にも不意を突かれて奪われたと」
「天狗の羽団扇?」
《天狗の羽団扇。 大天狗の持つ団扇で···》
「力の強い大天狗が持つ団扇で、羽団扇自体が強力な神通力を持つ特殊な団扇なのよ。 本来天狗の羽でできているという事なんだけど、朱雀の羽でできているという噂もあるのよ」
知識の本が説明してくれているとは知らずに、白鈴が説明してくれた。
《チッ!》
チッ?
「そんな大事な物を奪われたのか?」
「これは放っておけないわね! あそこの山って言っていたわよね!」
白鈴に聞かれて与作はすくんでしまった。 蛇に睨まれたネズミのように···
「あら! ごめんなさい。 つい気を放ってしまったわ。 大丈夫よ、私は怖くないからね」
ウフッ! と、可愛い振りをしても与作は金縛りにあったままだった。
顔は可愛いけど···たまに放つ気は怖いんだよ。
「とにかく行きましょうか」
「おう」
「翔鬼、草原が続くから、幽鬼に注意しろよ」
白狼は心配そうだが翔鬼はニッコリと笑う。
「幽鬼なんてもう怖くないさ。 心配するな」
「そ···そうか···そうだな。 行こうか」
少し前まであんなに怖がっていたのに、ほんの少しの間に成長したものだと白狼は安心すると同時に、少し寂しさを覚えた。
森を出て草原の中を、鬼がいるという山に向かった。
草原には膝ほどの高さの草の中に1mほどの大きな石がゴロゴロと転がっている。 気をつけないと躓いてしまいそうだ。
さっそく幽鬼が近付いてきた。
翔鬼は白鈴と白狼に覆い被さり、じっとしているとやはり翔鬼の顔を覗き込みに来る。
翔鬼は幽鬼が近付くのを待って切り捨てた。
起き上がって歩き出してから、翔鬼は何か悩んでいる。
「どうしたんだ? 何か問題でもあるのか?」
「うん···なぁ、俺が斬る必要はないと思うんだよな」
白狼は翔鬼が何を言おうとしているのか分からずに首を傾げる
「どういう意味だ?」
「だから···俺より白鈴の方が上手いんだから幽鬼が近付けば、白鈴が斬ればいいと思うんだ。 白鈴は俺と手をつないでおけば大丈夫だろう?」
白鈴はビックリして振り返る。
「あら! 私が斬るの?」
「だって俺は反対の手で白狼を掴んでいないといけないし」
「そう言われればそうね。 貴方と手をつないでいれば石になる事もないし、ちょっと幽鬼を警戒しすぎていた気がするわ。 分かったわ。 任せなさい」
「おう! 任せた」
また暫くすると幽鬼が襲ってきた。 翔鬼は白鈴と手をつなぎ白狼の肩に手をまわして、屈むのも面倒なので、顔を覗きに来るようにみんなで俯いて幽鬼が近付くのを待った。
案の定翔鬼の顔を見ようと近づいて来たところを白鈴が難なく仕留めた。
「あらやだ! 簡単すぎて気味が悪いわ」
「ハハハハハ! 石にさえならなければそんなものなんだろう」
「あら! 翔鬼も初めは結構緊張していたように思えたけど?」
「は·は·は···」
翔鬼は乾いた笑いでごまかす。
緊張どころか、初めて幽鬼に襲われた時は恐ろしさで死ぬかと思ったほどだ。 後ろから迫りくる恐怖に追い立てられ、シロの毛を握り締めて引きずられるようにして縺れる足を必死で前に動かしていた事が思い出される。
それなのに慣れのせいか、鬼になったせいかは分からないが、今では笑えるほど平気になっていた。
その後も何度か幽鬼に襲われた。 遮るものがないこの場所は幽鬼にとってはいい狩場のようで、定期的に襲ってくる。
しかし、お約束のように翔鬼の顔を覗き込みに来る幽鬼は、簡単に白鈴の餌食になっていった。
三人の息が合ってきましたね。
天狗の団扇は手に入るでしょうか?!
(;゜0゜)




