第十話 訓練
三人の旅が始まった。
第十話 訓練
「それと武術の訓練もしないとね」
白鈴は剣を振る真似をしてみせた。
「あっ! それなら僕・・・俺は子供の頃から剣道と空手を習っていたから、少しは自身があるよ···ぞ」
「なにを習っていたのかは知らないけど、通用するかしら? 翔斬刀を抜いてみて」
「これは真剣だぞ? 大丈夫?···か?」
「フフフ、目を閉じていても貴方には負けないわよ。 もちろん翔斬刀は手助けなしよ」
「承知しています」
「ケガをしても知らないぞ」
翔鬼はスラリと刀を抜いて構える。
「どこからでもかかってきなさい」
翔鬼は正眼に構えた。
こちらは鎌鼬の恐ろしくよく切れる真剣に対して、白鈴はたいして太くもない棒切れを構えている。 あんな棒切れは簡単に斬れてしまうと思うので、本当に斬り込んでもいいものか迷っていた。
「なにを躊躇っているの? さっさと来なさい」
「本当に行くよ」
翔鬼は勢いよく踏み込み振り下ろした。
コン! コン! 「いってぇ~~!!」
軽くかわされ、二度も頭を殴られた。
「一回は訓練で、一回は行くよって言ったバツよ。 もう一度」
「くっそぉ~~!!」
何度やっても棒切れで受けてかわされる。
「どうして真剣を棒で受ける事が出来るんだ?」
「フフフ、気が付いた? 鎌鼬の翔斬刀は特別に斬れるからどうかと思ったけど、大丈夫だったわね。
真剣は角度が大事なの。
刃の方向と力の方向を同じ角度で斬りこむ必要があるのだけど、それを『刃筋を立てる』と言うの。
角度が合っていないと斬れない。 だから角度が合わないようにこちらも棒の角度を考えて打ち合えば、斬られる事はないのよ。 分かる?」
「うぅ···なんとなく···」
「だからこれをこうすると···」
白鈴は細かく説明と実践を交えながら丁寧に教えてくれる。
「とりあえず、刃筋を立てる練習からしてもらうのだけど、翔斬刀。 貴方の刃は切れすぎて練習にならないから、少し刃を鈍らせてくれない?」
「承知」
翔斬刀が返事した。
「そんな事も出来るの?···か?」
「ただの棒切れにもできます」
「はははは、それは凄い」
それからはその辺りの枝や草を刀で斬りながら歩いた。 太めの枝を切るのも難しいが柔らかい草を斬るのはもっと難しい。
白鈴は丁寧に何度でも教えてくれる。
真面目に教えてくれている姿は···可愛い···
開けた場所に出た時には休憩がてら体術を教えてくれる。
なんで休憩がてらかって? 妖怪の事は分からないけど、なぜか翔鬼と白狼は疲れるという事がない。
だから休憩というものはなくてもいいのだけど、たまには気分転換をしないとね!
しかし空手の2級程度の実力は素人同然だという事を思い知った。
白鈴は凄い! しかし翔鬼も、めきめきと実力を付けている。 鬼の体だからだと白鈴は言うが、本当に体が軽く敏捷性が半端ないと自分でも思う。
剣術にしても体術にしても楽しくて仕方がなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなある日、久しぶりに幽鬼の襲撃にあった。 この辺りはまばらにしか木が生えておらす、幽鬼からは丸見えで逃げる場所もない。
翔鬼は白鈴に覆い被さり、その上から白狼が覆い被さった。
鬼の姿になったせいかあまり寒さを感じない。 そして前ほど恐ろしさを感じなかった。
幽鬼は気を吸いながら(翔鬼達の気は吸えないけど)なぜか顔を近づけてくる。
翔鬼が鬼と気づいて仲間と思って覗きに来たのか? 翔鬼は思わず顔を上げて幽鬼と目が合った。
以前はあれほど怖かったのに、骸骨のような顔が気持ち悪いとは思うが怖いとは思わなかった。
しかし、いつまでも覗き込もうとしてくる幽鬼がウザイ!
ウザイ!! ウ ザ イ ッ!!
「ウザいんだよ!!」
翔鬼は思わず白狼を押しのけ、刀を抜いて幽鬼を切りつけると、ギュエ~~~! と、気持ちの悪い雄叫びをあげて、黒雲と共に黒い霧になって消えていった。
「あれ? 倒せたぞ?」
「あら、そうね」
「弱いな」
三人は顔を見合わせる。
「しかし、近づいて来なければ斬ることもできないが、飛翔術を習得すれば幽鬼なんてもう怖くないな」
「あんたはね」
「えっ? 白鈴は強いし空も飛べるなら、幽鬼なんて怖くないんじゃないのか?」
「私達もそう思っていたわよ」
白鈴は大きくため息をついた。
「達って?」
「私達四神よ。 玄武、朱雀、青龍、白虎の4人で奴らを倒そうとしたのよ。 元々幽鬼は恐ろしい妖怪なんかじゃなくて、例えば······ちょっと怖いなと思った時に寒気がしたりする事がない?」
「おぅ。 もちろんここに来て何度か経験したぞ」
「あれは幽鬼の仕業よ。 元はその程度の力のはずなの。
なのに突然凄い力を得て、あっという間に私達の神気は全て吸い取られてしまって、残る妖気で何とか逃げ果せたのよ」
「逃げてきたのか?」
白鈴はムッとして睨みつけるので、翔鬼は一瞬たじろいだ。 可愛い女の子と思いがちだがこれでも白虎だ。 ふとした時に放つ気は、金縛りにあったように全身を硬直させるほど強烈だ。
「仕方がないでしょ。 私達が石になってしまったらこの国が滅びてしまうもの。 先ずは生きている事でこの国を守ったのよ。 そして···」
「そして?」
翔鬼が白鈴に顔を近づけてきて、今度は白鈴がたじろぐ。
「な···何でもないわよ。 さぁ! 朱雀の所に急ぐわよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
みんなは森の中を歩き出した。
朱雀がいる南の方を目指して歩く。
この辺は木々が生い茂り、太陽の光が遮られて少し暗い。 その分丈の高い下草があまり茂っていないので歩きやすかった。 しかしこの森の西の方は高い木がなく、広い草原の先には高い美しい山が見えていた。
そんな森の中から西に広がる草原を指差しながら白翼狼と楽しそうに前を歩く若き鬼を、白鈴は後ろからジッと見つめた。
『そして···奴を倒すために類い希な気を持つ人間を待っていたのよ···まさか子供が来るとは思わなかってけど、感化しやすいから良しとしましょう』
訓練をしながらの旅が続く。
しかし、白鈴が最後に呟いた意味深な言葉は何だったのでしょうね(;゜0゜)




