鶴亜詩沙はTASである
私の名前は鶴亜詩沙。どこにでもいるような普通の女子高生だ。そして今日から夏休みなので学校も当分ない。今は近くの公園で見覚えのない男子高校生の隣にいる。
「……おい」
それにしても夏休みというのはどうもすることがない。適当に起動させたゲームのクリア記録を更新したりお菓子の開封タイムアタックの記録更新をしたりするしかやることとしては思いつかない。
「おーい」
「何?」
「どうしてお前はさ……何でトイレの壁に向かってずっと歩き続けてるんだ? 他にも棒持って謎の儀式を始めたり……」
「乱数調整」
「は?」
まだ何か聞いて来るが、そんなことを聞いている暇がない。私が行っているのは乱数調整。とてもとても重要な行為なのだ。一秒でも遅れるのは記録更新の妨げになる。まあ、今回はただの暇つぶしだ。
「何か欲しいものある?」
「へ、別にないけど……ってか乱数?ってなんだよ」
「ランダム性を生む数のこと」
「ランダム性?」
「例えば、サイコロとか振って出る数って必ずしも決まった数じゃないでしょ? そんな感じの数のこと」
「あーうん、大体わかった」
長く説明するのも時間の無駄なので簡略に話すがこの男は理解できているのだろうか。と心配する時間も無駄なのでさっさと本題に入ろう。
「その乱数を調整するとどうなるんだ?」
「望んだ通りの結果になる」
「例えば?」
「……じゃーんけん」
「は、いやちょっとま」
「ぽん」
突然の私のじゃんけんに驚いた男は急いで手を出す。そして私が出したのはグーで男もグーなのであいこだ。
「あーいこでしょ」
次に私が出したのも男と同じで今度はパーだった。そして続く三回戦もあいこ。四回戦もあいこと、どれだけやってもあいこであった。
「運がいいな。こんなにも連続であいこが出るなんてな」
「……次貴方負けるわよ」
「嘘言っても勝てないぞ?」
「……あーいこでしょ」
私が出したのはパー。そして男が出したのは、パーに対して負けてしまうグーであった。
「んなバカな!?」
「これが乱数調整、わかった?」
「いや、運が悪かっただけだ。もう一回だ!」
それから何度もじゃんけんをするが、私が宣言した後にその通りになっていた。そのお陰で九十九連勝無敗だ。なお記録は更新していない。これはお遊びなのだから。
「くそっ、なんで勝てないんだ……?」
男はとても悔しそうにしていた。そんな時──
「す、すみません……、よかったらこれ受け取ってください!」
「久しぶり良い茶葉を買えたんです! お茶会しませんか?」
「君にラブリーボムをあげよう。受け取ってくれ」
突然私の周りに公園付近にいた学生達が私に様々なプレゼントや誘いをしてきた。そして私はそれに対して相手から好感度が上がるような返答をして行った。
「お前、男女関係なしにモテモテだな……」
「そりゃそうでしょ」
「なんでそこまで自信持って言えんだよ」
「だって、乱数調整で公園付近の学生およそ十人の好感度を稼いでたから」
「何でもありだな乱数調整」
「お願い誰か! あの子を助けて!」
私が貰ったプレゼントを『無』に収納していると突然助けを求める声が聞こえた。その方向を見てみると、そこにはこの公園のシンボルである大木のかなり高い場所にある枝に小さな子供が掴まっていた。大方、木登りをしていたら戻れなくなったって感じだろう。
ちなみに私があの状況になった時は、一度飛び降りて死んで事前にセーブしたデータをロードする。
「待ってろ、今助けてやるからな!」
隣にいた男がそう言うと突然走り出し、大木を登り始めた。なんとも性格のいい男だことだ。
後で乱数調整で私に対しての好感度を少し下げておこう。あの性格は私のタイプではない。
「くっそ、どこかに梯子とかないか!?」
「梯子ならこれを使ってくれ!」
「サンキューおっちゃん!」
男以外の人も子供を助けるために試行錯誤を繰り返している。しかしどれも上手くいかずに失敗している。このままでは某ゲームらのようなリセットしても乱数が変わらなくて永久に同じ乱数を繰り返す時のように、永久にあの子供は助からない。
「これもダメか……お前もなにか考えてくれよ!」
「……ん、あぁごめんね。もう済んだからいいわよ」
「済んだって、何が」
「………」
「ん、何で大木の横に立って……てか、なんだその盾いつから持ってた?」
その瞬間私は、先程貰ったラブリーボムもとい爆弾を取り出し上に突き出した。
「な、それ爆弾!?」
「少し離れておきなさい」
「そんなこと言ったってお前が──」
男が話していた途中に爆弾は爆発し、辺りに衝撃と爆風が起こった。と言っても爆弾は小さめなのでそこまで大したことは無い。
「大丈夫か!?」
「大丈夫よー」
「よかった、流石の至近距離での爆弾は……って、何かお前浮いてね?」
「続けていきまーす」
そのまま私は爆弾先程と同じように爆発した爆弾に近ずきそこでバック中をした後に持っている盾で防ぐ。これぞボムホバリングだ。私はあのほんの隙間の時間に残像剣を発動させ、無から盾を取りだしたのだ。
これを繰り返すことでどんどん私は子供が待つ大木の上へと登って行く。そしてついに子供の回収に成功する。
「よし、なんだかよくわからないが子供の救出に成功したぞ!」
「でもあの高さからどうやって降りるんだ?」
子供がいたのは大木の結構下の方だが、大木自体が大きいためその場所から地面の距離は十メートルくらいもある。普通の人ならまず登りもしないし飛び降りもしない。
というか、この子供は一体どうやって登ったのだろうか。もしや、この子も私のように登ってきたのか?
「待ってろ、すぐにはしご車が来るからな!」
「その必要は無い」
「ちょ、お前!」
「太郎うぅ!」
私は時間の無駄なのではしご車が来る前に木の上から飛び降りた。その光景を見て周りの人達は驚き、同時に無謀だと思ったのか絶望したような表情をしている。
「ヤッ」
しかし、飛び降りた私は何故か怪我一つしていなかった。それを見た人達は何が起こったのかわからない表情をしていた。表情豊かだなこの人達は。
「は、いや、何で怪我してない? てか、なんだその体勢?」
「何簡単なこと。超高度からの飛び降りでもヘッドスライディングでノーダメージにできるんだ」
「んなバカな」
「ちなみにこれはテクニックだから素人でもできるわよ」
「どう足掻いてもお前しかできないよなそれ!?」
「そういう物語なんだから大目に見なさい」
「急にめたいなこいつ」
ノーダメージで飛び降りたところで、私は掴んでいた子供を離して母親の元へと行かせた。なお人助けタイムアタック(降りれない編)の記録は更新できなかった。最高記録は三秒なのに今回は三十秒だ。
いつもなら上に落ちてそのまま掴んでヘッドスライディングの流れだ。今回は邪魔が入ったのでできなかった。まあ今回のことは別ルートということでの検証と見ればいいだろう。
いや、邪魔というかは乱数調整すれば問題なかったのだろう。……しておけば良かった。
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
母親はお礼を言うと、そのまま子供と一緒に公園を出て行った。何故帰ったのかを考えると空が茜色だということに気がつく。
「もうこんな時間か」
「一件落着ということで、私も今日のエンディングロールを召喚しようかしら」
「どうやって?」
「これを使うのよ」
そして私は地面に落ちている梯子から吐き出させたとあるものを掴み、それを両手で持つ。
「……これって、何も持ってないじゃん」
「『無』を取得してるの」
「あーそう。で、それで何ができるんだ?」
「これを使うとエンディングロールを呼び出せるの。こんな風にね」
そして私は『無』を使ってエンディングロールを出現させた。
「あれ、これってこのまま終わる流れじゃね?」
その通りです。
ザ・エンドってね。TheEND──(デーン)
ザ・エンドってね。