ふしぎなおてがみと花犬さん
てくてく歩いていると、だんだん花犬さんのおはなやさんがみえてきた。
おっきなかんばんに、『Flower Dog 花犬印のお花屋さん』ってかいてある。
「花犬さーん、ささをとりにきたよ!」
ぼくが店のおくにむかってさけぶと、にこにこえがおの花犬さんがささをもってでてきた。
「久しぶりだね、ねずみくん! 会いたかったよ。ささの予約だってでんわだったじゃないか」
「ごめんね、予約したのってほら、つゆのじきでしょう? かささして行ってもよかったけどさあ……ぬれねずみになるのがいやだったんだよ」
「たしかにそうなるねえ。とくにねずみくんはねずみだから、ほんもののぬれねずみだ」
そういっておおわらいする花犬さんを、きみはこまったようにみていた。
「……ねえ、花犬さんって、なにものなの?」
「あ、きみって花犬さんにあうの、初めてだっけ。じゃあしょうかいするね。
おはなやさんをやってる、花犬ふさこさん。ぼくの四つうえでね、おさななじみのおにいさんなんだー」
「そうなんだ!」
きみがなっとくしたようにうなずいた。
そのとき、花犬さんがとつぜん、こんなことをいいだしたんだ。
「あ、おもいだした。ねずみくん、ねずみくんあてにおてがみがあるよ」
ぼく、おもわずくびをかしげちゃった。
「おてがみ? だれから?」
「それがねえ……ふうとうに、かいてないんだよ」
こまりがおの花犬さんに、ふうとうをわたされた。たしかに、そこには『のねずみ ちゅうや さま』としかかいてなくて、だれからのおてがみか、わからなかった。
「これ……花犬さんのもじじゃないね」
「そうでしょ? だから、ぼくじゃないよ。
これね、昨日ささをよういしてたら、いつのまにかねずみくんのささをおいてたところにあったんだよ」
「ねえねえ。なかみは……なんて、かいてあるの?」
きみにきかれて、なかみをあけてみると。
『のねずみ ちゅうや さま
もうすぐ七夕だね。七夕の準備はできたかな?
今日は、君に一つ質問がある。
君にとって大切なものや大切なことって何かな?』
「たいせつなものやことって、とつぜんいわれても……」
おもわず、つぶやいちゃった。
だって、ほんとうにわからなかったんだもん。
きみもなにかかんがえていたけれど、ふいにはっとかおをあげて、ぼくにこういったんだ。
「そしたらさあ、ほかのひとにおなじしつもんをして、きいてみたら? さんこうになるかも!」
「そっか! きみってあたまいいね!」
きみのおもいつきにうんうんとうなずいてから。
「ねえ、花犬さん……」
てがみのないようについて、花犬さんにきいてみた。
「うーん、そうだねえ……ぼくにとっていちばんたいせつなものは、花、かな」
「なんで?」
「だって、花がいちりんあれば、だれかを幸せにできるでしょう? ぼくがだれかを幸せにしようとおもったらさ、それしか方法がないんだもの」
「……そ、っか……。ありがと、花犬さん!」
ぼくはおれいをいって、おはなやさんをでた。
「またきてね!」
花犬さんはそういって、てをふった。
ぼくはきみといっしょに、ささをもって、いえにかえろうとしたんだけど。でも「ちょっとごめんね」っていって、ささをきみにあずけて、花犬さんのところに行った。
「花犬さん。だれかを幸せにするためには、花をあげることしかできないっていってたけど、そんなことないとおもうよ。すくなくとも、いつも花犬さんと話すのたのしいし、幸せなじかんだもの」
ぼくは花犬さんにそう言ってわらって、はしってきみのところにもどった。
ふりかえってみてみたら、花犬さんは、めをまんまるくして、そのあと、くしゃってわらった。うれしそうなえがおだった。
「持っててくれて、ありがとう。いっかい、ささを置きに帰ろうか」
「うん!」