かみなりぐもの上で話そう
ぼくはレジぶくろのなかみをたしかめた。
そうめんは、6人分ある。ぼくときみと、かえるくんにとくちゃんの分。そして、おに吉さんの分も。おに吉さんがあそびにくるということは、きっともう1人いらっしゃることになると思うから、6人分買っておいてせいかいだったね。
レジぶくろのなかみをたしかめたあと、おに吉さんととくちゃんの方を見てみると、2人はなかよく話していた。それを見て、ぼくはホッとした。
「ところでねずみくん、ふくちゃんは来てるかー?」
「まだいらっしゃってないよ。かえるくんとあの子は来てるし、とくちゃんもいるけどね」
「なかなかにぎやかじゃないか! ねずみくんは友だちがたくさんいるなぁ」
「ぼくも、ねずみくんの友だちの多さにはびっくりしちゃうよ」
おに吉さんやとくちゃんの『友だち』ってことばで、きのうのことをおもいだした。
かえるくんのはなしてくれたこと。そして……あのてがみ、なぞのてがみのことも。
ぼくにとってたいせつなもの、たいせつなことって……なんだろう?
花——だれかをしあわせにすることだって、花犬さんは言ってた。
友だちをたいせつにすることだって、かえるくんは言ってた。
ぼくはどっちもたいせつだと思う。でも、いちばんかっていわれると、そうじゃない気がするんだ。
いちばんたいせつなものって、たいせつなことって、なんだろう?
まだまだ分からなかったから、2人にもきいてみた。
「ねえ。ふたりにとって、たいせつなものやたいせつなことって、なあに?」
「どうしたんだ、ねずみくん?」
「どうして急にそんなことを?」
ぼくは、あのふしぎなてがみについてせつめいした。
「ふーん、へんなてがみだなあ。あ、もちろん、おれじゃないからなー」
「ぼくもちがうよーっ。うーん、でもなぁ……ぼくは、じぶん、がいちばんたいせつかな」
すぐにとくちゃんがこたえてくれた。じぶん、かあ。
「どうして?」
「ほかのひとになにかしたくても、じぶんがつかれてたり、つらかったりしたら、なにもできないじゃん。じぶんをたいせつにしないと、いつかじぶんがこわれちゃうよっ!」
……たしかにそれもそのとおりだなぁ、って思った。だって、ほかのひとのために、って思って行動して、ほかのひとのことばかりかんがえすぎて、それでじぶんがこわれちゃったら、元も子もないよね。
「そっかぁ……とくちゃん、ありがとう! おに吉さんは、たいせつなものやことってなに?」
「そうだなぁ……先入観をもたないこと、かな」
おに吉さんは、かみなりぐものスピードをゆるめて、くもを空中でとめた。あとできいたら、だいじなかんがえごとをするときは、いつもくもをその場に止めてからかんがえごとをするっていってた。
「どうして?」
ぼくがきくと、おに吉さんはわらっていった。
「いつもおれが、先入観をもたれるからなぁ。ほら、だいたいおれらは『おに=こわい』って先入観をもたれるんだよな。ま、もうなれてはきたんだけどな……それでも心がちくっていたくなるんだ。だからせめて、おれは先入観をもたないようにしようって、そう思ってる」
「……そっか……。ありがとう!」
ぼくはわらっておれいをいった。うまくわらえたかどうかは分からなかった。
ぼくのおれいに「いいってことよ!」とごうかいにいってわらったおに吉さんは、再び、くもをびゅーんとうごかしはじめた。
——でもね、ぼく、わすれないと思う。
先入観をもたれるってはなしていたときの、そのおに吉さんの、かなしそうで、さみしそうなえがおを。




