8話 『立つ鳥跡に花を残そうとして濁す』
本話でメルロー村編は終了になります
最近、夜はまた寒いですね...
今回も頑張っていきます!
「そろそろマコトちゃん達は街へ出た方がいいかもしれないわねぇ...」
俺が悪党達に貴族に売り飛ばされそうになっていたのを真琴達に救出してもらい、新しい能力『念話』の発言により会話が出来るようになってから数日が経過している。
この頃討伐依頼を受ける事が多くなり、その疲労を癒す目的も兼ねてケーキを村中に届けるというお使い系の雑用依頼に取り組み、ギルドに戻った時に珍しくカウンターにいたメイシアさんがふとそんな事を言ってきた。
「いきなりどうしたんですか?」
「真琴ちゃん達は若いわよね...正直若い力があるのは村としても非常に助かっていたんだけどねぇ...最近は貿易を始めたのもあって活気が出てきたのよ。だから私たちの事は気にせずにその力を他の場所でも活かして欲しいの」
「つまりお荷物ってことか」
「どうしてそうなるんです!?...ち、違いますよねっ?」
「勿論よ!私は別にそういうつもりじゃ....」
煇にツッコミを入れながらも真琴が不安そうな表情を浮かべるとメイシアさんが焦りながらも確かに頷く。
メイシアさん曰く街ならばもっと多くの依頼があり、報酬も多くなるらしい。
更に戦術訓練を受けるなんて依頼も存在するそうで依頼をこなしながら戦闘能力の向上を図るという事も可能だということだ。
「とにかくどうするの...?無理にとは言わないけど」
「いつもメルロー村で生活してきましたから驚きではありますけど...他の街というのも興味がありますね」
「エルフとかケモ耳とかドラゴンがいるかもしんねぇからありだな!」
「....涎垂れてますよっ!うわ、近寄らないでくださいっ!」
目を輝かせながら親指をグッと立てる煇の口元には透明な雫が輝いている。
真琴が顔を青ざめさせながら距離を取り、それを面白がった煇の接近を必死で抑えていた。
「あの、こんなに近くにドラゴンがいるんだが...」
「中身がタツヤだから残念すぎてドラゴンとは言えねぇな」
「欠陥品みたいなオーラ出てますもんね」
「どういう事だよぉぉ!?もっと俺を讃えろよ!」
魔法が使えて、空が飛べて、念話も出来るドラゴンだそ...こんな完璧なドラゴンいないだろ。
なのに真琴や煇に適当にあしらわれるんだけど。
ベタベタされるのも困るが、気にされないのもそれはそれで嫌なんだけど。
「...じゃあ行くという事でいいかしら?」
「すみません、よろしくお願いします」
「移動手段は私がいつもお世話になっている商人さんにお願いをしておくわ。丁度三日後に大きな街に商品の搬入があるらしいからその馬車に乗せてもらえるようにね...」
こうして俺たちは村を出る事になった。
それにしても商人の馬車に乗せてもらうとかセントさん達の時みたいだな。
何だかんだで商人の荷物と一緒に運ばれる事が多い。
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夕食を終え、部屋に戻ると真琴がジャージのポケットから見慣れた機械_____スマホを取り出した。
ちなみにこの世界だと当然電波が全くとんでいない。
異世界に来たばかりの時に元の世界と連絡を取ろうとしても圏外となってしまう。
電波がとんでいないわけだからアプリゲームも出来ないし、マップも使えないし動画も見れない。
だから持っていても無用の長物なのだが、真琴はベットに腰をかけてスマホを操作し始めた。
「ここWi-fi飛んでんのか?なら『アドベンチャーオンライン』やらせてくれよぉ」
「飛んでるわけないでしょう!?それにそもそもインストールしてませんし」
「『アドベンチャーオンライン』入れてねぇとか人生のほとんど損してるぜ...なあ、タツヤ?」
「全くだ...そんなの人間じゃない」
「本当に人間じゃないあなたが言いますか...」
アドベンチャーオンラインとはスマホアプリとして配信されているMMORPGだ。
フィールドの真ん中に聳える塔を攻略するというシンプルな世界観なのに関わらず、装備や衣装、サブクエストなどの充実、更に生産職となってのんびり暮らす事もできる自由さが売りで世界で爆発的なヒットを叩き出した。
今年の夏は十周年記念で過去最大規模の夏イベが予告されていたので普段は課金しない俺もお年玉やお小遣いをちょびちょび貯めて待っていた...のだが、その一週間前に死んでしまった。
過去最大規模の夏イベ...気になるな。
初めて元の世界に戻りたいと感じたかもしれない。
『アドベンチャーオンライン』の話について花を咲かせ始める俺と煇に真琴が溜息をついて続ける。
「違いますよ...私が授業の一環でネットで調べたホームページのスクリーンショットを見ていたんです」
そう言って真琴は俺たちに向けてスマホの画面を向ける。電池を半分ほど残し、圏外という文字が上に出ているスクリーンには飾り気のない文字が羅列されていた。
「農作における良い土の条件...か?」
「はい、学校で農作物を育てる活動の事前学習で写真に収めておいたんですよ」
「でも何でそんなもんを...面白くねぇじゃんそれ」
枕をくるくると回しながら興味なさそうに尋ねる煇の枕を回収して真琴が応える。
「今までメルロー村の人達にはとてもお世話になりましたよね?」
「そうだな...」
特にメイシアさんとゲンツさんはギルドの経営で忙しい中戦闘訓練をしてもらい、お金のない俺たちに格安でギルドの部屋を貸してくれた。
今は正規の料金を払っているがそれが無ければ宿に泊まる事すら出来なかったし、討伐依頼を受ける事も出来なかっただろう。
「立つ鳥跡を濁さず...と言う言葉もありますので勿論この村に迷惑をかけて去るなんて事はしないつもりです。っていうかさせません。でも、それだけじゃダメじゃないでしょうか」
「迷惑なんてかけるわけないだろ?」
「誰の事だよぉ?そんなロクでなし...全く呆れるぜ」
「あなた達が一番心配なんですけどね!?」
こめかみに手を当てながら苦しげに呻く真琴。
心外だ。煇はともかく俺までロクでなし扱いってどういう事だよ。
俺ほどまともな人間とかいないぞ?
あっ、人間じゃなかった...。
「村を出るなら何か感謝の気持ちを伝えられる事をしたいんです。この前の依頼の帰りに畑をの作物を観察しましたが、どうも私たちの慣れ親しんだ野菜や果物よりも大きさが大分小さく、農家の人たちの話だと完全に育ち切る前に枯れてしまう苗も少なくはないらしいんです。水は毎日あげていて、あげすぎるという事もなく、温度や日射条件もメルロー村はベストだと貿易で外から来た農家も口々に称賛していくそうで...聞く限りは完璧です、でも何かが足りないのは確かと考えた時に思いついたのが...」
「土の質_____ってわけか」
俺がボソリと漏らすと真琴が嬉しそうに「そうなんです!」とコクコクと頷く。文字の羅列の内容がほとんど土についてだと気づいただけだったが見た事ないような満面の笑みが拝めたので良しとしよう。
「それを改善すれば作物も今よりもすくすくと育ち、野菜や果物も大きくなるはずです。そうすれば村の人たちの生活も楽になると思うんですよ」
「うぇ!?な、何がどういう事、だぁ?」
煇は頭を抱えながら頭から煙をあげていた。
そもそも授業ですらまともに聞けないほど難しい話が苦手なのだ。
それを意に介さず、スマホをポケットに閉まってベットから思い切り立ち上がる。
「さて_____あと三日しかありません。その準備を始めましょうか」
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良い土と言ってもいくつか条件がある。
まずは根が十分に張れるという事だ。
水や栄養を効率よく吸収するためには幅広く根を張れるという環境は重要だ。
次に通気性や排水性が良いという事。
これがないと少しでも水をあげすぎたりする時に枯れてしまう可能性が高まる。
他にも土が乾いたり、栄養が逃げたりしないような保水性・保肥性。
適正な酸度である事、異物が混ざっていない清潔さという条件もあるが、その中に微生物が多く含まれるというものがある。
微生物が多く含まれる土はこの世界には売っていなかったが、そのような土は落ち葉がふんだんに落ちている山にもあるのではないかと考え、俺たちは近くの大山脈へと向かった。
ギルドからリヤカーのような形状の荷車を借りてひたすらに大山脈の土を積み上げる。
途中で出てくる魔物は俺が初級魔法で森を過度に破壊しないように倒し、真琴と煇はひたすらに土をリヤカーにスコップで注ぎ込む。
次の日も一日中同じ作業を続けてとうとう一つの畑に混ぜられる分の土をメルロー村に運び込む事に成功した。
全部の畑に必要な分を運ぶのは流石に時間がかかるし、失敗したら申し訳ないので実験的な意味も込めて一つの畑の分だけという事になった。
そのあたりはギルド経営を担うメイシアさんとゲンツさんとの協議の結果だ。
ゲンツさんは少し抵抗感を示していたがメイシアさんがやるだけやってみようと提案をし、俺たちが全て準備をするという条件で実行に踏み切る事が出来た。
翌日に土を混ぜる作業を予定していたが、思った以上の筋肉痛が襲いそれらは村の人たちが俺たちが村を出た後に総出で受け持ってくれる事になってしまった。
あれ、何か迷惑かけちゃってる気が...?
雲一つない澄んだ青空。
まだ完全には取れない痛みに渋い顔になりながら俺たちはそれを待っていた。
そして、とうとうメルロー村の門の前にメイシアさんがお願いをしてくれた商人の馬車が停車する。
「あれ.....?」
「おお!!」
「マジかよ....」
「よお、久しぶりだな。一ヶ月ぶりくらいか?」
馬車の御者は見覚えのあるセントさんだった。
口をポカンと開けたまま固まる俺たちにセントさんが「おいおい、死んでんのかぁ?」と冗談交じりに手を振ってくる。
「三人とも元気そうで何よ...って三人!?」
セントさんが満足そうに頷いていたが、途中でガバッと俺たちの方をまじまじと見てくる。
あ、セントさんは俺が『念話』使えるの知らないんだっけ。
「俺だよ。赤いドラゴンの奴だ」
「頭の中に響く声...これが念話ってもんか」
「この村に来てから使えるようになったんだ...改めて前はありがとうございました」
「あ、ああっ!いいって、いいって....これは話したらマズそうだな」
「ん?」
「いや、こっちの話だ」
話したらってベイツさんにかな。
別に話しても構わないけどな...というより荷台に乗ってたら聞こえてる思うし。
『念話』と言っても広い範囲を対象とするタイプと個人を対象とするタイプに分かれている。
今はエネルギー消費の少ない広い範囲を対象とするタイプの『念話』を使用しているためある程度の範囲にある人なら誰でも俺の声を聞くことが出来るのだ。
何故広い範囲に伝えられる『念話』が燃費がいいのかは謎だが。それを言ったら簡単に使いこなせてる俺も謎だからね。
「....じゃあそろそろ行くか。お前たちを乗せるって分かって来たから今日は座り心地のいい椅子を用意して来たぜ」
「ありがとうございます。ところでセントさん、私たちがこれから行く街ってどんな場所なんです?」
荷台に乗り込みながら尋ねる真琴にセントさんが前方を親指で示しながら応える。
「あの大山脈を越えた場所に位置する人もモノも最大規模の数が集まる街。その名は__________」
メルロー村の人達の見送りを背に馬車がゆっくりと発進する。
新しい場所ではどんな発見が待っているのか。
期待と不安を詰め込みながら馬車はまだ見ぬ街への道筋を描き始めるのだった。
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