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7話 『変わってしまっても変わらない事を願うのは間違っているだろうか』

そろそろ新しいシーズンの始まり!

今回も頑張っていきます

窓からの仄かに暖かさのこもった光が部屋を照らす。

外では小鳥の群れが可愛らしく戯れている。

すっかり明るくなった部屋で目を擦りながら、真琴は身体を起こした。


「うっ.......」


身体中を走る痛みや不快な頭痛に顔をしかめながら、周りの様子を確認する。

いつも眠っている二つのベッドには誰の姿もない。

どうやら床で眠ってしまったらしい。

同じく近くの床ではTシャツを腹まで捲り上げながら鼾をかいている煇君がいる。


「ん...おかしいですね」


眠る時には私はカーテンを閉めることにしている。

どんなに眠くても忘れたことはない。

しかし、そのカーテンは今朝は全開に開いていた。

そして、もっとおかしいのは眠りに落ちた記憶がないということだ。

覚えているのは夕食を食べて部屋に戻り、煇君と少し雑談をしていたところまでだ。

そこから先はまるで思い出せない。

風呂にも入らずに眠ってしまったのか?

昨日の依頼(クエスト)はいつもより難しく、確かに疲労はあったはずだが、風呂にも入らなくなるほどの疲労では無かった気がする。

疑問は限りなく湧いてくるが、そんな事を気にしていても仕方ない。

ベットの傍に備え付けられている時計を見るとそろそろ朝食の時間だ。

取り敢えず煇君を起こそうか。


「あれ...ドラゴンは何処へ行ったんでしょう?」


いつもなら真琴のベットで身体を丸めて眠る赤い塊が見当たらない。初めは煇君のベットで眠っていたが、寝相が悪すぎて毎晩蹴飛ばされているので、私と一緒のベットに眠る事にしているのだ。


「出かけてるんでしょうか...まあ、勝手についてきただけですし元の場所へ帰ったのかもしれませんね」


言葉も通じない、人間でもない、仲間...と言ってもいいのか微妙な存在。

最初は警戒心しかなかったが、最近は信頼の方が勝って...


「な、何言ってるんですか!?そんなわけない...」


心の中で不意に芽生えた考えを慌てて振り払う。

相手はいつ襲ってくるかもわからない魔物だ。信じるなんてどうかしてる。

そもそも私は龍也君を探さなきゃいけない。

大切な幼馴染であり、親友である。

口には出さないが、片時も忘れたことはない。

煇君は忘れてるかもしれない。

でも、あの赤いドラゴンに信頼...に似た感情を持つようになってからそれが少し薄れてきている。

何というか、私たちととても息が合うのだ。

まるで昔から一緒にいた...そう、龍也君みたいに。

私はドラゴンを______龍也君の代わりにしようとしているのだろうか?


「....少し寂しいのかもしれませんね」


そんな感情を抱く自分に驚きながらも私は窓に映る二羽仲良く飛び去る鳥達を見つめていた。













************************













檻が規則的なリズムで揺れる。

時折、大きな揺れが襲うがそんな事は全く気にならなくなっていた。

あれから何日が経っただろうか。

薄闇に包まれたここには太陽の光が届かない為、今が朝なのか夜なのかも分からない。

最近気づいたことだが、俺は何か乗り物のようなものに乗せらせているらしい。

時間の経過は分からないが、体感的に大分移動してしまっている気がするのでもうメルロー村からはかなり離れてしまっているのだろう。

煇や真琴はあくまでも俺の存在を勝手についてきている奴くらいの認識なのでわざわざ助けに動く...とは考えづらい。

恐らくこの揺れが止まった時には...。


「俺は貴族に______売られる」


その事実は何日もかけて心を蝕んでいる。

もう希望なんて文字は随分前に消え失せた。

あるのは圧倒的な絶望と諦念。

一定の時間に質素な飯は出されるが、食べようとしても喉に通らず堪らずに吐き出してしまう。

不味いのもそうだが、知らない間に精神的にも追い詰められているのかもしれない。

こんな時に思い出すのは...この世界に来たばかりの時に冒険者やクラスタウルフの群れに追われた事だ。

あの時は...本当に死を覚悟した。

迫り来る死の恐怖に頭が真っ白になりそうだった。

こんな事はもう経験したくないと心から思った。

今回は違う。きっと貴族に売られたところで俺は殺されないだろう。

殺すなら睡眠薬で眠らせた時にでも殺せばよかったのだから。

死の恐怖に震える事はまず無いはずだ。

ただ、俺はそれでも...怖かった。

貴族に売られるという事は俺は貴族の所有物になる。

つまり、一生をかけてその貴族に縛られる。

貴族の望むままに振る舞い、望むままに生きる。

自由に生きることなど許されない。

死にたくても死ぬ事を許されない。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁああああ....!?」


人間が聞いたら魔物の鳴き声にしか聞こえないような音が響き渡った。

数え切れないほどの嘔吐でもうほとんど残っていないはずの胃液が込み上げてくる。

堪らず冷たい床に薄い黄色みがかった液体をブチまけた。

燃えるような痛みが喉にこびり付く不快感に思い切り喉を掻き毟る。

何もしていないはずなのに息は絶え絶えだ。

貴族に売られる事を待つしかないこの状況は龍也自身に想像以上のダメージを与えてきたのだ。


「何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で」


未だに離れない悪党の下卑た笑い声に耳を塞ぎながらそれを消し去ろうと俺は頭を何度も床に打ち付ける。

脳がその度に衝撃で暴れまわり、意識が遠のきそうになるが口元に滲む赤黒い血液の味が意識を引き戻す。

意識が戻った途端にまた頭を一心不乱に振る姿はまるで何かに心を奪われた狂人のようだ。

普通に生きたかった。

大げさな富や名声なんて欲しくはない。

そんなものを手に入れてしまったらきっと変わってしまう。今までのようにはいられず更に変わってしまう。変わる事は魅力的でかつとてつもなく怖いのだ。

だから普通に生きたかった。

例え、俺の正体がこの先ずっと気づかれなかったとしても。


「なのにっ!ど、どうしてぇぇぇ...」


熱のこもった雫が頰を絶え間なく伝う。

それと共に込み上げてくる嗚咽にただ子供みたいに泣きじゃくる。

朧げな揺れる視界に幼馴染の姿が映る。

昔から共に遊び、たまに喧嘩し、そして...共に笑いあった大切なかげかえない仲間(しんゆう)たち。

突然の転生で不安に沈みそうになる異世界でも。

こんな化け物みたいな姿のせいでいつも近くにいても気づいてもらえない寂しさを密かに噛み締めていても。それらを忘れていられるほど楽しかった。

いつも一緒に依頼(クエスト)に行って、ご飯食べて、楽とは言えない戦闘訓練に文句を言いながらも耐えて...まるで毎日、よく遊んでいた小学生の頃の日々を思い出すような異世界での思い出。

その楽しい思い出が...絶望に塗りつぶされていく。

結局、変わってしまうのか。

追いかけても、追いかけても、追いかけても。

距離が縮まる事はない。

大切な幼馴染(煇と真琴)が俺に背を向けて暗闇へと歩き去っていく。

待ってよ、俺を置いていかないでよ。

俺を、俺を.......


「助けてくれ___________!!!」


届かない事は分かっていても、そう叫ばずにはいられなかった。


「な、何だぁ....!?」


一瞬、悪党たちに俺の叫びが気づかれたのかと思い、身体を硬ばらせる。

しかし、彼らの注意はどうやら別の方に向いているようだった。

複数の足音は次第に大きくなり、俺の乗る荷車の近くで止まる。

突然、薄暗かった檻に暫く拝めなかった太陽が顔を出した。あまりの眩しさに思わず目を手で覆い隠していると誰かに檻ごと持ち上げられる。


「おい、こいつドラゴンじゃねぇか!?タツヤはどこに...」

「多分、それは大丈夫です!とにかく煇君はその檻を荷台に積んでください」

「お、おうっ!わかった」


聞き覚えのある声を聞いてゆっくりと手をどかすと、慌てたように辺りをキョロキョロと見回す煇に真剣な面持ちで指示をとばす真琴の姿があった。


「おいっ!お前ら悪党どもめ...これまで働いてきた悪事で纏めて突き出してやるってんだぁぁぁ!!!」

「ちょっ、迎え撃てって...ひいっ!?」


ゲンツさんの怒鳴り声と共に炸裂音と何かが破壊される轟音が響く。


「嘘でしょ...馬車がもう半壊状態じゃないの!?あの一発だけで!」

「退散だぁぁぁ!!!退散だぁぁぁ!!!」

「待てぇ!ゴラァァァァァァ!!!」


悪党たち各々が悲鳴をあげ、鬼の形相のゲンツさんに馬車の所々を破壊されながらも、最終的には馬たちの疾走が勝り、見えなくなってしまった。


「くそっ!覚えてろよ....次は逃さねぇからな」


攫われた身で何だが悪党が哀れに思えるほどゲンツさんは悪党以上に恐ろしかった。











************************











「ゔぅ、ご、怖かったよぉぉぉぉぉぉ!!!うわぁぁぁん!!!」

「あの、龍也君...気持ちは分かるんですけど静かにしてもらえません?....あっ、ジャージで鼻水拭かないでください!!」


檻の鉄格子と鎖をゲンツさんが強引に破壊し、解放されて真琴に泣きつくと、真琴は優しく窘めるだけで無理矢理離そうとはしなかったがジャージに透明な液体が伸びると顔色を変えてペシペシと俺の頭を叩く。


「いや、龍也はドラゴンになったのかぁぁぁ!カッケーな」

「煇君はもうちょっと空気を読んでください...」


煇の言葉に少し眉をひそめるのを見るや真琴が静かに煇を諭す。

俺と真琴たちはコミュニケーションが取れるようになった。

だからと言って俺が人間の言葉を話せるようになったわけではないし、真琴たちがドラゴンの言葉を理解できるようになったわけではない。

いわゆるこれは『念話』というものである。

真琴と煇がゲンツさんにお願いして馬車をとばして助けに来てくれたのもこれのお陰らしい。

どんな理屈かはわからないが、俺が真琴と煇に助けを求める思いが強すぎて新たな能力が無意識に発揮していた...という事だ。


頭の中に突然俺の声が響き、最初は戸惑ったらしいが、すぐに真琴が俺の位置情報まで伝えられていることに気づき、それをメイシアさん達に報告。

メイシアさんはギルドの経営の忙しさから協力は出来なかったみたいだがその代わりにゲンツさんが準備をしてくれたのだそうだ。


「しかし、何で龍也君は攫われたんでしょうね...」

「ドラゴンって言うのは基本珍しいからな...それもこいつは幼体みたいだし狙われるのは当然だ...しかし、こいつはどう考えてもトカゲにしか見えねぇからなぁ。誰かが情報を漏らしたと考えるのが良さそうだな」


指を唇に当てて考え込む真琴にゲンツさんが首だけ振り返りながら「俺の村の奴らじゃなければいいがな」と苦々しげに呟く。


「しっかし、睡眠薬を盛られてたとはな...これは残りの肉の塊にも盛られてると考えていいな」

「え、あれめっちゃ美味いのに...」

「諦めろ、処分だ処分」

「うぇ〜.....」


確かに少し残念だな。

本当に信じられないくらい美味しかったから...でも睡眠薬で眠って目を覚ます時の頭痛は不快すぎるからもう経験したくない。

ギルドに帰り、ゲンツさんがメイシアさんに話をして、ギルドの冷蔵庫にあるマンガ肉は跡形もなく処分された。

日の経たぬうちに睡眠薬が盛られていたのは俺たちが食べた肉だけだと知って、煇がゲンツさんに本気で斬りかかる事件が発生するのだがそれは別の話。



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