9話 『三人組は雑魚って大体決まってるよね(ブーメラン)』
新しい場所になります!
今回も頑張っていきます
ハルマー山脈を隔て、広葉樹を中心とした樹木の大森林、一部の国、街、村の母なるホーテ川の間に位置する大都市。それがロゼットである。
王を頂点に置くいわゆる王国であり、人口・規模・生産・経済力はどれを取っても大国に劣ることはない。
ロゼットの周囲は街に住む民達が約三年に渡る作業で建造した城壁のような巨大な壁が聳え、円を描くような形状をしているそれに存在する四つの大門それぞれには屈強な衛兵達が目を光らせているためを不法に侵入を試みたり、危険物を輸入することはまず不可能だ。
他の国、街、村では大半が出入りは一応許可していても単一、あるいは少数種族のみの居住しか認めていないが、ロゼットは多種族の居住を許可する数少ない国である。
その為、種族間の仲も非常に良好で酒場で耳長族と黒耳長族が肩を組んで顔を真っ赤にしながら笑いあっていたり、妖精族の子供と人族の子供が街中で楽しげに追いかけっこをするなどの様子を目にするのも珍しくない。
このように種族間の交流が多いのもあってか外部との交易の規模も非常に大きく様々な物品が毎日、大量に運び込まれてくる。
ドワーフが腕によりを掛けて鍛え上げた良質な武器や海魚女族が貝殻や真珠で作った希少なアクセサリーであったりと各々の種族の特産品が商品として売り出されるのだ。
勿論、交易だけに頼るという事はせずにロゼット内でも腕利きの職人達も生産に力を入れているため適度な競争を促進し、経済力を高い水準を維持している。
更に軍事力にも力を入れており、守護を任せられている騎士団は日頃から厳しい訓練をこなしており、一般兵でさえ破格の戦闘力を誇っている。
そうなれば剣、槍、弓、双剣などそれぞれの武器を極めた天才達が誕生する場合もあり、武器の使い方を熟知した彼らの教授はどんな訓練よりも有意義なものとなり、兵の軍事力は今も向上を止めない。
しかし、この国では一つだけあまり使われていない武器もある。
それは__________
「ロゼットは大きな国とあって宿屋も数え切れないほど立ち並んでいる。只、それら全てが素晴らしいってわけじゃない...必ず当たり外れがあるんだ」
馬車に揺られる事数時間。
大山脈、ハルマー山脈の山道を抜けると景観が変わってくる。ロゼットに近づいているからか馬車が進む道がしっかりと整備されたものになっている。
山道は整備されてないのかデコボコが酷かったのだ。
左右に所狭しと立ち並んでいた樹木が無くなり、開けた平地へと差し掛かった所でセントさんがロゼットについての話を始める。
それまでは主にベイズさんの傭兵時代の武勇伝を聞いていた。ベイズさんは僅かに顔を赤らめながらずっとそっぽを向いていたが。
「俺たち行商にとってロゼットは最高の商業地だ。だからロゼットに泊まる機会は何回もある...外れを引いた時はそれはそれはヤバくて....いや、この話はやめておこう」
セントさんが肩を震わせながら苦々しげに語り始めたが、首を振って口を噤む。
めっちゃ気になるんだけど。
「これから初めて国を訪れるお前たちには出来れば...いい所に泊まって欲しいからな。一番、当たりだと思った宿を教えてやろう」
「感謝しろよ」と鼻を擦ってセントさんは続ける。
「一番良いのはアヤメ荘だな。正面門を入ってすぐの場所にある宿でロゼットの中でも人気な宿だ。人気なだけあってロビーも個室もしっかり清掃が行き届いていて清潔感があるし、宿の従業員の勤務態度も最高だし、ご飯もスッゲー美味しい」
「へえ、最高じゃないか...」
「チッチッチッ...甘いな、赤ドラゴン!これくらいの宿はロゼットにいくつかある。それなのに何故アヤメ荘を推すのか...それは別の理由があるからだ」
思わず感嘆の声をあげると、指を細かく振って息を荒くして熱弁を振るい始めるセントさん。
赤ドラゴン...って俺の事?俺にはきちんと菱田龍也って言う素晴らしい名前があるんだぞ。
不満を露わにするのを他所にセントさんがニヤニヤと頰を緩める。
「アヤメ荘が他の宿に差を付けたポイント...それはっ!宿主が滅茶苦茶美人だと言う事だっっ!!!」
「「お、おお......」」
「しかもウサ耳だぁぁぁ!!!」
「「ひゃはぁぁぁぁぁぁ!!!」」
馬車内に歓喜の声があがる。
ウサ耳美人って最強じゃないか!やっと異世界らしい要素が見れる喜びに煇とハイタッチを決める。
「男って...下らないですね_____」
絶対零度の瞳の真琴の拳が俺たちを襲ったのはそれからすぐの事だった。
セントさんは御者という事もあって制裁を免れていたが、真琴の無言の圧力に顔を青ざめさせ、壊れかけた人形のようなぎこちない動きで顔を背けた。
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ロゼットの正面門は商品を運び込む行商の馬車や冒険者達の乗る牛車などが続いていた。
衛兵がそれぞれに手間のかかる入国手続きを行っているためだんだんと詰まっていって、このような行列が形成される。
前にも後ろにも俺たちが乗っているものと同じような馬車が並んでいる...つまり全く身動きが出来ない状態でかなり面倒な事が起こった。
「あれぇ〜?見覚えのある強面でやんす」
「おいおい、何かなよなよとした雑魚も増えてるっすよ」
「オラとは大違いでごわす!」
馬車に近づいてくる三人の男。
武装をしているため衛兵かと思ったが、衛兵は門で入国手続きをしているため違うと気づく。
それに何かメルロー村の衛兵よりも弱そうだ。
「あいつらは俺たちがロゼットに入ろうとする度に絡んでくる傭兵達だ。確かチビがフロード、ノッポがランド、デブがタンクだ」
「「「せめて小声で話す(でやんす)(っす)(でごわす)!?」」」
耳打ちをするように大声で三人の傭兵を説明し始めるセントさんに彼らがツッコミを入れるように喚く。
「それに説明が気に入らないんでやんす!もう少し何かあるでやんす!!!」
「お前たちにはこれくらいの紹介で十分だろ」
「うう、言ってくれるでやんすね...そこの図体のデカい奴は只の腰抜け悪辣傭兵だったと言うのに...」
「おい、どういう事だよぉ?ベイズさんは偉大な傭兵なんだぞ!!!」
「....ヒカル!言わせておきゃ良いんだ!」
血管を浮き立てて立ち上がる煇をセントさんが少し強い口調で諌めるが、煇は気にする様子もなくフロードをキッと睨みつける。
それを見たフロードは下卑た笑みを浮かべて続ける。
残りの二人も面白そうにジロジロと煇を始めとした俺たちを観察する。
「何なんでやんす?ベイズの野郎を庇うって事は...ああ、そうか!お前らも雑魚でやんすか」
「味方の傭兵の手柄を恐喝する事で横取りしてあくまでも自分の功績とするなんて...はっ、悪党がする事っすね」
「傭兵を辞めたのもそれがバレそうになったからでごわす。何が伝説でごわす」
好き勝手言って笑い合うフロード達。
話の中心となっているベイズさんは普段の表情を崩していないが、セントさんの身体が微かに震えている。
ずっと一緒に働いてきた仲間が馬鹿にされているのだ。腹が立たないわけがない。
それでも...必死で我慢しているのだ。
誰も何も言い返さないのをいい事にフロード達は話の矛先を俺たちに向ける。
「よく見たらお前たち本当に雑魚っぽい顔をしてるでやんす!」
「その辺にいるトカゲを連れて良い気になってるわけっすか...ははっ、あんたら何歳っすか?」
「とんだ腰抜けに違いないでごわす!」
本当にうるさいな。
早く正面門に辿り着いてくれないだろうか。
しかし、前方を見てもまだまだ列は長くまだまだ時間がかかる事が分かる。
何とか彼らが消えてくれないかな。
「そうだ、お前ら!暇だから僕らと決闘するでやんす!!!僕らが勝ったらお前ら持ってる武器だけは良さそうだからそれを寄越すでやんす」
フロードが俺たちに剣を向けて挑発する。
このまま無視をすればいつかは彼らも退散していくだろう。
しかし、それまでこのストレスの溜まるやり取りを我慢しなきゃならない。それにこのまま放っておいたら彼らはまたセントさん達にちょっかいをかけてくる。
考えてる事は煇と真琴も同じなのか二人とも俺と顔を合わせると確かに頷いた。
言葉を出さなくてもお互い通じ合った。
こいつらはボコさなくてはならないと。
「いいでしょう。あなた達からの決闘、受けて立ちます!」
「何言ってんだ、マコト!無視してりゃ...」
「無視をしてたらこの人達は更に調子に乗ります。セントさん達もこれからお仕事でしょう?こんなのにストレス溜めさせられたまま仕事なんてしたくないはずです」
「.......やっちまえ」
「「「止めない(でやんす)(っす)(でごわす)!?」」」
真琴を止めようとしていたセントさんがコロリと傭兵撃退派に回ったのを見てフロード達がズコッとこける...が、すぐに調子を取り戻してそれぞれ腰にかけた鞘から剣を抜く。
「僕たちに挑んだのが最後!後悔させてやるでやんすぅ!」
「「おおー!」」
「煇君はデブ、龍也君はノッポ....チビは私が殺ります」
「「任せろ...ってやるの字違くない!?」」
真っ先に飛び出す真琴に続いて俺はいつものように三つの魔法陣を展開した。
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「ギィヤァァァァ!?何なんでやんす、この女...逃げるでやんすぅぅぅ」
「何なんすか!?この変な紋章?こいつ本当に只のトカゲか...こんなの勝てるわけねぇっすぅぅぅ」
「ちょっと、速い!速すぎるでごわす!?オラの攻撃が当たら...い、痛いでごわすぅぅぅ」
フロード達が兜、鎧をボロボロにしながらロゼットの正面門の方へと逃げていく。
傭兵と言うからどれほど強いのかと思ったらそんな大した事は無かった。動きが分かりやすすぎるし、初級魔法なんて軌道は見え見えなはずなのに全部当たってくれるし...まるで魔法を見たことないみたいだった。
周りを見てみるが、煇も真琴も目立った傷はない。
どうやらこっちも余裕の戦いだったようだ。
そんな俺たちを見て、セントさんが口をポカンと開けて呆然としていてベイツさんは僅かに目を見開いた。
「よくやったぁ!!!」
「あいつら、煩くて仕方なかったのよ!」
「素晴らしいものを見せてもらった!」
近くの馬車の行商達から拍手の嵐が巻き起こる。
彼らも自分に向けたものでなくても多少は苛立ちが募っていたらしい。
まあ、あんな大声で喚いてたら迷惑にもなるよな。
「お前ら...強くなったなぁ」
「...びっくり仰天」
セントさんとベイツさんが呆気に取られたようにそう漏らすが、それらの言葉は未だに鳴り止まない拍手の波へと消えていった。
変わって静かな待ち時間を過ごし、ようやく俺たちの馬車が正面門の前まで辿り着いた。
持ち物の検査をされて煇の持っていた片手剣は回収された。国の中で騒ぎを起こすと困ると言う理由で依頼で必要になった時、もしくは出国する時に返却するという条件で預けられたのだ。
正面門を潜ると、そこにはメルロー村とは全く異なった様相が広がっていた。
馬車が通れるような大通り沿いにお洒落なデザインの建物がズラリと立ち並んでいる。
売り子のお姉さんが呼び込みをしたり、カフェのような店でおじさん達が雑談に花を咲かせていたりと活気に満ち溢れていた。
そんな大通りを抜けると右手に屋根のついた小屋が見えてくる。中に入ると多くの馬車が肩を並べていた。
「ここは馬車を止めておく所なんですか?」
「ああ、馬車に乗ったままだと色々と移動に不便だからな。脇の小道とかに入れないし」
丁度空いていた端の空間に馬車を停め、セントさんが黒馬と白馬それぞれを紐で括り付けておく。
「お前らはアヤメ荘にチェックインでもしてこい。正面門に戻っていけば分かる...人気な宿だから早く行かないと部屋が無くなっちまうかもしれないからな」
「セントさん達は...?」
俺が尋ねるとセントさんが悔しそうに膝を叩く。
「俺たちは今日は泊まらないで別の街に行かなきゃならないんだよぉ!あぁ、働きたくねぇ」
「....セント、さっさと運べ」
「分かってるよ...っていうことだ。俺たちの事は気にしなくていいから」
荷台から木箱を抱えるベイズさんに軽く睨まれ、セントさんは手を振りながら荷台へと消えていった。
あ、そういえば。
「ウサ耳って付け耳なのかな」
「それ重要だよな」
「どっちでも良くないですか?煇君と龍也君、セクハラはしちゃダメですよ。異世界だからといっても捕まりますからね」
「「モフモフするだけだから問題ない」」
「それは限りなくアウトです」
自信有り気に胸を張る俺と煇に真琴が拳をグッと握りしめた。
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