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第9話 縁切り鋏


 封書に書かれた住所を目に止めて、常に涼しげなソウの表情が、ぴくりと動いた。それと気付いて、チヨが問いかける。


「なにか知ってるのかい?」


「いえ、立ち寄ったことのある村でしたので。寂れた村でしたね。異国の方がいるという話は聞きませんでした。そちらを訪ねて?」


「そうだねぇ。もう何年も前の話だ。いまもいるのかいないのか、本当にその村にいたのかどうか。手紙のやりとりだけでさ。ただ確かめたくってね」


「チヨさんは、その方の……」


「帰ってきたら結婚するつもりだったよ」


「山東省一帯では、疫病や災害で多くの方が亡くなったと聞きます。音信不通であれば、そうしたことも覚悟はされておいた方が良いでしょう」


「ああ、わかってるよ。そもそも最初から死んでいたかも知れないしね」


「それは……」


 驚いたような様子のソウと寂しげなチヨの間に、トウショウが転がり込んできた。息を切らしながら、やっとこさ吐き出すようにいう。


「で、できました。いつでも良いそうです」


 その背後で、殭屍きょうしの残り滓〈?〉に、ロンが強烈な飛び蹴りを喰らわせ、仰向けに倒れた化物はそのまま墓穴へと納まった。


「では、供養いたしましょう」


 と為すべきことを終え、それぞれの傷の手当てや旅支度を整えた。チヨとトウショウは西へ、ソウとロンは東へ旅立つ。別れ際、ソウがチヨを呼んで小さなはさみを託した。


「これは宝具の一種で、悪縁を斬り、魔を断つものです。御守り代わりに渡しておきますが、気休めのようなものですから、化物と出会った際には、まず逃げることを考えてください。

 旅の目的が達成できたら、すぐに国へ帰ることです。大陸全土がきな臭く、虐げられる人々の恨み辛みから陰の気が立ち昇ってきています。このままここにいては、良くないことに巻き込まれますよ」


「いろいろとありがとよ。できるだけ気をつけるさ。あんたは冷たいような声音で、本当は優しい情の深い娘だね。また会いたいもんだ」


「ええ、いつかまた。くれぐれも気をつけて」


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