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第8話 殭屍


 ロンとトウショウが墓穴を掘っている脇で、女性二人は倒木に並んで腰かけていた。まず話の口火を切ったのは、白い道服姿のソウである。


「まずは御忠告から。私どもは、旅をしながらの化物退治と災害や戦争で死んだ人々の供養をしています。兄も私も道士の端くれ、化物と闘う術を心得ておりますが、それでも常に死と隣り合わせです。

 お二人とも武の心得はおありのようですが、それだけでは、化物には勝てません。以後、理外のモノに関わることのなきよう……」


「御忠告いたみいると言ったところかね。頭には入れておくよ。ところで、あんたの兄様はあまり術は得意じゃないのかな?」


「どちらかといえば、そうですね。あれで武の達人でもありますから、私が術を操る時を稼ぎ、また護ってくれています」


「なるほどねぇ」


 チヨの視線の先で、そのロンが、炎に包まれたまま立ち上がった殭屍きょうしに足を掴まれ、振り回されていた。


「あれ、大丈夫なのかい?」


 と、さすがに落ち着かなげなチヨである。対するソウの返事は、にべもない。


「大丈夫です。心配して欲しくてやっているだけです。殭屍に入っていた悪い気は霧散しましたから、あの死体を動かしているのはその残り滓みたいなもの。兄様がいれば問題ありません」


「まあ、そういうなら」


 とのやりとりの向こうでは殭屍の残り滓〈?〉との死闘が続いていたが、その騒ぎを気に止めることもなく、涼しげな顔で話を続ける。


「どうやら異国の方のようですから、今後のためにもお伝えしておきますが、俗に殭屍きょうしというものにも、種類があります。外見は同じでも、それぞれ全くの別物。中身が違うのです。

 さきほどの殭屍には、人や山、また獣の気が入っておりました。不死の化物ではありますが、陰の気で膨れた風船の如き死体であり、さしたるものではありません。それと……」


 と言いかけて口ごもり、パッと身をかわしたところに、殭屍に投げ飛ばされたロンが落ちてきた。


「あたたた。ちょっと、ソウ、いま避けたよね。受け止めてくれとは言わないけど、もうちょっと、なんかあってもいいんじゃない?」


「なんかとは、なんですか。どさくさ紛れに私やチヨさんに抱きつこうっていうんでしょう?」


「いやいや、そうなったら良いとは思うけど、わざとじゃないよ」


「わざとでしょう? この程度の殭屍に何を手こずっているのです。早く鎮めて墓穴を掘ってください。ほら早く、トウショウさん一人じゃ危ないですから」


「わかったわかった、人使いが荒いんだから。……それも可愛いところだけどね」


 余計な一言を付け加えて、睨まれながら退散するロンである。すぐにも途切れた話を再開するかと思えばそうでもなく、黙ったままのソウに話を促す。


「それと、なんだい?」


「ええ、それと、俗に鬼とも呼ばれる殭屍には近付かないことです。ほとんどの殭屍は、人の気、山の気、獣の気、様々な陰の気が死体に宿ったものですが、中には、生きながら鬼になるものがある。

 禁術により、あるいは魂を魔物に喰われるか。これらは霊性が強く危険です。頭も良く残忍で、術をなす者さえいる。あなたは、そういったものと縁があるようです。早く国へ戻られた方が良い」


「そうかねぇ。いろいろな経験をしてきたが、妖怪や鬼のたぐいとは縁がないよ。まさか本当に化物とはね。けど、遠路はるばるやってきて、もう帰ろうというわけにも行かないのさ。少なくとも、この村にだけは行っておきたいね」


 懐から例の手紙を取り出してみせると、封書に書かれた住所を目に止めて、常に涼しげなソウの表情が、ぴくりと動いた。


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