表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/50

第6話 ガブリ


 調子に乗っていたチヨは、哀れ、空飛ぶ化物に足を掴まれ、頭を丸ごとガブリとやられた。思わず目をつぶったトウショウが、


「ああ、やられちまった。人を食ったようなろくでなしだったけど。こんな目に合うようなことなんて、していたような気もするし、自業自得のような気もするけど。可哀想に。あんたのことは忘れないよ。ちゃんと供養してやるからな」


と嘆いていると、チヨの声が聞こえた。


「勝手に殺すんじゃない。あんたがあたしのことをどう思っていたか、よくわかったよ。ろくでなしは、どっちだい」


 恐る恐るトウショウが目を開けてみると、そこには五体満足なチヨの姿だ。見知らぬ優男に抱きかかえられている。


「間一髪、この人が助けてくれたんだ」


「いやいや、危ないところだったね。世の中には本当の化物だっているものさ。この先は俺たちに任せてくれ。素敵な女性が殺されちゃ勿体ない。どれ、助けた御礼に軽く口付けでも」

 

 と唇を近付ける優男に裏拳をくらわせて、


「まったく、助平ばかりで嫌になるね」 


と飛び下りるチヨである。そんなくだらぬやり取りの合間に降りてきた化物が、優男の肩を掴んだ。


「あ、こりゃまずいかも」


 つぶやく優男だが、その声には余裕があり、噛み付こうとした化物の動きが止まった。その体に、呪符を織り込んだ網が巻きついている。助けてくれたのは優男のお仲間であろうか。同年輩の別の男かと思えばさにあらず、


「まったく兄様は。綺麗な人を見るとすぐに鼻の下を伸ばして。そのうち足元を救われますよ」


と不満気に言うのは、まだ幼さを残した少女だ。凛とした声に相応しく、涼やかな眼差しで、油断なく化物に気を配っている。


 優男は頭を掻き掻き、目を見張るような身のこなしで少女の元へ向かうと、呪符を織り込んだ網を受け取って、ぐっと身を沈めた。あわせて化物もぐっと身を沈める。ひざまずくかのような格好だ。


 化物の眼前に立つ少女と、ひざまずく化物の姿だけをみれば、なにやら臣従の儀式のよう。両手で複雑な印を結び、口中で呪を唱えると、拝礼する化物に向かって高らかにいう。


「万物の理より外れしモノよ。斉天大聖孫悟空の名の下に命ずる。天のモノは天へ、地のモノは地へ、人のモノは人へ。疾く去り、疾く還れ。遍く陰の気を引き連れて、去ね!」


 気合いとともに放ったのは鋭い針だ。それは化物の眉間に突き刺さった。と思う間に針から炎が巻き起こり、化物に巻きついた呪具に燃え移る。前のめりに倒れ伏した化物を眺めながら少女は、小さな声で、違うと言って首を振った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ