第50話 蛇足編
物語としては完結済みです。
国へ帰って、その後のチヨの話で、ちょうど切りよく50話となりました。
投稿は前後していますが、時間軸としては、明治妖狐譚シリーズ「化して生くる者の戻らざるや如何に」本編へ繋がっています。
明治日本の帝都、東京は神田川にほど近い赤煉瓦倉庫において。まだ、舩坂和馬少佐、風間正三、冬柴千代の三人で仕事を回していたころの話だ。
事務机に置いてあった鋏を手に、千代がなにやら思案顔。それを見た少佐が、
「鋏なんか持って、なにを考えている?」
と声をかけ、そこに正三が茶々を入れた。
「少佐、あれですよ。振られた男を刺し殺すか、半殺しにするか迷ってるんじゃないですか?」
「するわきゃないだろ。正三の馬鹿が! ちょっと昔を思い出していただけさ」
「なら、良いがな。まだまだ、おまえには一緒に働いてもらわないとな」
「ふふん、少佐、あたしが必要かい?」
「ああ、必要だとも」
「それは仕事だけ?」
「ん? うまい飯も食わせてもらいたいな」
「はぁ、どっかに女心のわかる男はおらんもんかな。あいつも、一言、行くなといってくれればね」
「振られた男の話ですか?」
「振った男の話さ。おまえと一緒にすんない!」
「いたた! 何で蹴飛ばすんですか」
「そういやそうだね。蹴り心地が良いからかね。もう一回、試していいかい?」
「いいわけないでしょ。少佐、見てないで助けてください」
「まあ、いいじゃないか」
「よくないですよ〜」
「男のくせに情けない声を出してんじゃない。だいたいね……」
と、これでは切りがないので、これにて終幕。
大陸から海を越えて日の元へ、果たして奴は渡ってくるのかどうか。さてそれは、縁があるかどうかなど誰にわかろう。縁は水物、自由にゃならぬ。目に見えぬ縁は断ち切れぬ。
断てるは、人の執着と未練のみ。
希望の灯りをお手元に、ともしていただければ幸いかな、幸いかな。あなかしこ、あなかしこ。




