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第49話 さあ、笑ってサヨナラだ!


 義和団の乱とは何だったのか。


 いまだに理解しがたい面も多い出来事で、数年後には西太后せいたいこうも北京へ戻り、変わらず権力の中枢であり続けた。西安での贅沢三昧ぜいたくざんまいで自身の健在ぶりを示してみせたとも言われ、とうに滅んでいておかしくない清朝をからくも生き延びさせた。


 そのような時代、いや、どのような時代であれ、人々はそれぞれ生きていかねばならぬ。生き残った者たちのその後である。


 禁術に手を染めたソウは、ハクウ預かりとなった。あわせてバンカとヤジもだ。ヤジは、新たな魂の目覚めとともに不死性を失いつつある。


 トウショウは、流民のない国をなどと大陸浪人の気に当てられたようなことを言い出しているし。


 最後に、チヨはというと。そんな時代ではないのだが、名所旧跡めぐりに、美味い酒と食事と、ちゃっかりパトロンを見つけて堪能したらしい。だが、どこかで区切りは必要だ。上海の港から船に乗って帰ることとなった。見送りに来たトウショウにいう。


「世話になったね。そろそろ帰るよ。あたしを必要とする人がいるような気がするんだ」


「寂しくなるな。みなに挨拶は済ませたのか?」


「ああ、はさみもソウに返してきた。もう必要ないからね。切るべき縁は切った。いや、違うな。縁はずっと繋がっている。あんたとも、ソウやバンカやヤジやロンとも、ナキリだって。断ち切るべきは、己の執着と未練のみ。さあ、笑ってサヨナラだ!」


「ああ、また会おう」


 手をあげて言うトウショウを引き寄せて口付ける。ペロリと唇を舐め、さらりと身をひるがえすと、春風のように舷梯げんていを駆け上った。


 船が桟橋を離れる。


 元気一杯の笑顔で手を振って一路東へ、帰るべき島国へ。涙が流れてくることに気付いて、チヨは舳先へと向かった。大海に浮かぶ幼子のような船の上、天狐てんこの面で涙を隠して海を突っ切っていく。

 

 その面が向かい風に剥ぎ取られて空高く舞い上がると、あふれ出た涙とともに、激しく打ち合う波の合い間へと消えていった。



 これにて終幕です。


 おまけで、一話だけ追加予定ですが、話としては蛇足でしょう。


 ナキリを幸せにしてやれなかったことだけが心残りです。なんとも不憫な子でした。いつかどこかで救いとなる話が書ければと思います。


 貴重な時間を割いて読んでいただいた方、互いに顔もわからぬ出会いですが、これもまた、ひとつの縁で御座います。


 ご縁があれば、またお会いしましょう。ありがとうございましたmm

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