第47話 祝砲
ナキリとの因縁に結末をつけ、廃村にその墓を作って供養した。ちょうどその頃、義和団の乱も終息し、北京を占領した列強諸国は祝杯をあげることとなった。清朝の残党との関係も修復し、戦争終結を祝う催しも行われた。
その催しに、哥老会を通じてトウショウらも誘われたのである。各国大使館の連中や、戦後処理にあたる清朝の役人、大陸浪人のような輩も数多く、中でも、派手な着物姿のチヨと、白い道服姿のソウとが耳目を集めていた。ひっきりなしに声をかけてくる男どもを避けて、会場の隅で話をする。
「あの時、最期に話していたのは、ナキリじゃなかったんだろ?」
「おそらくは。昏い魂だけが感じられました。トウショウさんと縁の深い方だったのですか?」
「そうだね。惚れた女を手にかけてか」
寂しげに呟くと、急に調子を変えて声をあげた。
「おっと、祝砲の時間だ。こいつだけが楽しみで来たんだ。大砲に触る機会なんて滅多にないからね」
哥老会から、祝砲を撃つ機会を二人分もらっていた。ロンとソウの分だ。しかし、ロンは亡くなり、ソウも大砲になど興味がないというので、代わりに、チヨとトウショウが撃つこととなった。
まず、撃ったのはチヨだ。たーまやー、と大陸では通じない声を上げていた。
「ざんねん。外れだ」
「なんだ、外れって?」
「祝砲ってのは空砲だけど、ひとつだけ実弾が入っているらしい。そいつを引いたら当たりだ」
「なんだそりゃ。危なくて仕方ないじゃないか」
「誰もおらんところだから大丈夫さ。あんたも叫んでおやりよ。たーまやーってね」
「そりゃ、どういう意味だい?」
「花火の掛け声さ。あたしの国では、夏に花火を打ち上げて亡くなった人を偲ぶんだ。あの人に、さよならを告げたよ。あんたもさ?」
「ああ、そうだな」
頷いて、トウショウが祝砲を撃つ。たーまーやーと叫びながら、さよならと心でつぶやいた。
「お、実弾じゃないか。当たりだね」
「国へ帰るのか?」
「近いうちにね」
「気持ちの整理がついたら、あんたの国へ行くよ。いろいろ案内してくれ」
「その時こそ抱いてやるよ。でも、いまは抱きしめてやろうじゃないか」
言って、チヨはトウショウを優しく抱きしめた。




