第45話 投げた球の行き先は?
ソウの涙をハクウに任せて、チヨは、かつての恋人に目を向けた。だが、ヤジは、もうチヨのことを覚えていないらしい。
化け猫の胃液まみれの体をバンカが懸命に拭いていた。二人に近付いて少しだけ話をすると、トウショウのもとへ戻り、鋏を取り出した。目の高さまで持ち上げて、チャキッと動かしてみせる。
「さあ行こうよ。ナキリを追うんだろ」
「ああ、いいのか?」
ちらりとヤジを見て、トウショウが問う。
「いいんだ。忘れようってわけじゃない。断ち切るべきは断ち切って、先へ行こうじゃないか」
「わかった」
と屋敷を出て歩き始めた二人の後をソウが追った。端正な顔を血と涙で汚したままだ。
「私も行きます。もうヤジさんを仇と狙うことはしません。最初からわかってはいたのです。仇がいるとすれば、それは私の弱さです」
「そう自分を責めるんじゃない。あんたのおかげで、遠い島国で命を救われた娘もいる。
人は誰でも、より良い未来を願って道を選ぶんだ。投げた球の行き先は、お釈迦様でもわかるまいて。世の出来事に責任を取ろうなんざ、傲慢な心の裏返し。自由に、奔放に、誰かのためにも含めて、一切合切、自分のために生きればいい。あたしたちの手助けをすることも、自分で決めたんだろう?」
こくりと頷くソウに頷き返し、もちろん私も行くというハクウとともにナキリの後を追う。




