第43話 唸り、死に、殺す
化け猫の本性を現したナキリに、ヤジが丸ごと飲み込まれた。だが、満足げに舌舐めずりをしていた巨大な黒猫は、不意に苦悶の表情を浮かべ、長い尾を振り回し、狭い室内をのたうち回った。壁を壊し、ステンドグラスの窓を割り、文机をひっくり返し、花瓶を跳ね飛ばす。ぐぅと喉を鳴らして、ヤジを吐き出すと、苦しげに呻きながらいう。
「くそったれ。こんな不味いものが喰えるか! 空っぽの器どころか、ガキのように純粋な、善も悪もない魂が宿ってやがる」
巨大な黒猫の体が縮んで人の形を取り、短く伸ばした黒髪と、真っ黒な瞳が白い肌に印象的な少女、ナキリが口元を拭いながら立ち上がった。
「はぁ、まいったな。あてが外れた」
「残念だったね」
腕を組んで堂々とチヨが対峙する。「さあ、観念してもらおうか。あと八つ、あんたの命、刈り取らせてもらうよ」
「はっ、一度やれたから、またやれるとでも? 調子に乗るなよ。だが、宝具持ちと道士が三人か。ちょっと面倒だな」
「逃げるなよ。おまえの相手は俺だ」
チヨと入れ替わるように、トウショウがナキリの前に立った。
「おまえが?」
はっはっはっ、と声をあげて笑うが、その顔は驚愕の表情で凍りついていた。気付いた時には、すでに首が宙を舞っていたのだ。切り飛ばされ、回転する視界の隅で、トウショウの持つ剣が輝いて見えた。
落ちてくる首を、首のない体が受け止める。胸元に抱えられた首だけのナキリが歯を剥き出しにした。
「貴様、法術を学んだか。その剣、七星剣だな」
「あと七つ」
「また削りやがったな。だが、不死の体を奪えないのに、ここに留まる必要はない」
言って首を元に戻すと、ぐっと体を丸めて窓から外へ飛び出そうとした。しかし、木枠の窓がまるで鉄の如く、ナキリを跳ね返した。床に転がったその胸に、七星剣が突き立てられる。
「あと六つ」
冷たく数えるトウショウの声を掻き消すような唸り声が響き、七星剣を弾き飛ばして、ナキリが巨大な黒猫の姿をとった。毛を逆立て、尾を振り回して周囲を威嚇する。
「屋敷から出られぬように結界を張ったか、腐れ道士どもが! だが、わかる、わかるぞ。迷いを抱えた者がいるな? 半端な気持ちで止められると思うなよ」
天井近くまで飛び上がった化け猫が、ソウに向かって踊りかかった。




