第38話 絞り出すような冷たい息
義和団の利用と鎮圧を秤にかけ、西太后は利用を選んだ。清朝の正規軍が義和団とともに大使館襲撃を始めたとの報告を、にんまりとした顔で聞いているのは、十七歳くらいの小娘、ナキリだ。義和団では、女性ばかりの集団、紅灯照の首領として、二仙姑と呼ばれている。
ナキリは義和団の一首領として、女性団員を束ねているが、その目的は、いかに多くの死と不幸を撒き散らすか。
ろくな武装のない集団の士気だけが上がると、無謀な死者が増えるのみである。義和団に入れば外国人に勝てる、何より飯が食えるとあって、各地から食い詰めた人民がなだれ込んできていた。
その中に、若い兄妹の姿があった。
不死の男を一目見たいという。見せ物のごとくに引っ張りだこで、すぐに会えるというものではなかったが、その居場所だけを確かめて。その夜のこと。
大使館の包囲戦から離れた郊外の屋敷である。住民が逃げ出し、空き家同然となっていたものを接収し、いまはヤジとバンカが暮らしている。寝台の上、胡座をかいて眠るヤジの膝に頭を乗せ、バンカは安心しきった様子で眠っている。
月灯りを遮り、華奢な影が立った。二人の様子を、じっと見守るようにしている。その気配に気付いたヤジが、うっすらと目を開き、不思議そうに見つめた。数刻、見つめあっていただろうか。人影は、道士のソウは、絞り出すように冷たい息を吐いた。
やっと、会えましたね。あなたを今のようにしてしまったのは私です。万物の理から外れ、さまよう鬼よ、あるべきように、死んでください。




