第33話 悪いのは誰か
ソウは、ヤジが鬼と化した経緯を語り終えた。自分のせいでなのだという。チヨが応えて曰く、
「あんたは何も悪くない。悪いとすれば、あたしだよ。話を聞くに、その禁術は本人が自分の死に気付いたら駄目なんだよね?
あたしはさ、周りからヤジが死んだと聞かされて、ついつい疑っちまったんだ。手紙をやりとりしている相手は別人なのじゃないかって。本当は、もう死んでいるんじゃないのかい? って書いちまったんだよ。ヤジが生きていると信じきれなかったんだ」
「それが最後の手紙だったのですね。切っ掛けはその言葉だったのかもしれません。
しかし、やはり悪いのは私です。
祖父に禁術を行わせ、しかも、その言いつけに背いた。子供だったからといって許されるものではない。半神半鬼の法は、鬼籍に入らんとする者を強いて現世に留めるものと聞いています。
ヤジさんだった人の魂は、すでに失われたと思ってもらった方が良いでしょう。姿形はヤジさんそのものですが、魂のない不死の器と思ってください。冷たいようですが、チヨさんの知る人が生きていると期待するべきではありません」
「ああ、心得るよ」
落ち着いたところで、ヤジの行方について新たな話が入った。どうやらヤジは、一緒に暮らしていた子供を助けようとして人を殺したらしかった。済南市を離れ、義和団に身を投じたという。
この頃、扶清滅洋を旗印に、外国人の排斥、耶蘇教の否定を訴え、災害や戦争で流民となった人々を取り込んで急速に膨れあがっていた。
いわば民衆による反乱だが、その矛先は外国に向けられており、取り締まるべき清朝も徹底した弾圧を加えることなく黙認してきたところがあった。
悪く言えば無知蒙昧な烏合の集。義和拳を極めれば、救国の英雄が乗り移り、刃物も銃撃も効かぬと本気で信じられていた。やがて、西太后のおわします北京も、義和団に埋め尽くされることになる。




