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第23話 静やかな侵略


 街は静かに侵略されていたらしい。ナキリが去った後、現れたのは殭屍きょうしの群れだ。室内に入ろうと押し合い圧し合いしている。両親の遺体も立ち上がり、生気のない目を息子に向けていた。


 身動きできずにいるトウショウを庇うように、チヨが前へ出る。派手な着物に天狐の面をつけ、こちらもまた化生の者のよう。力強い声で、


「さあ、はさみを寄越しな。たとえ死体であっても、親に刃物を向けちゃならん」

 

と奪い取った鋏を振り回して殭屍きょうしの群れに切りつけた。蠢く死体が、糸が切れたようにばたばたと倒れていく。


「ソウに感謝だね。しかし、気休めってのもそうなのか。気を散らすだけで、退治してはくれないみたいだ。こりゃあ参った」


 つぶやくチヨの目の前で、倒れた殭屍きょうしが起き上がる。そこへ、気持ちを切り替えてのトウショウである。


「とりあえずここを出よう。情けない姿を見せたな。あんたは遠来の客だ。無事に故郷へ帰さねばならん。外へ、城門へ行こう!」


 うなずくチヨと城門を目指すが、街の中は、すでに殭屍でいっぱいだ。死体が死体を増やし、流民の街は、一夜にして死体の街となっていた。まとわりつく殭屍の群れを振り払いながら城門へ向かう。


 だが、城門付近も殭屍きょうしに埋め尽くされていた。逃げ切れずに殺された人々が仲間入りしたらしい。城門は閉まっており、無限に湧き出るような死体の群れに、チヨもさすがに限界だ。焦って門を開こうとするトウショウに、殭屍が襲いかかった。


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